雪穂から見た亮太朗
昔、兄は大嫌いだった。
いわゆる変な奴で家の恥だった。
絵に描いたような気色悪い奴。
そのクセ、行動力があるから性質が悪い。
そんな奴だった。
だがある時を境に兄は変わった。
まるで別人が兄に乗り移ったかのように感じる時がある。
おかしいのはそのままだがやはり決定的に何かが違う。
姉の夏美も違和感を感じている。
お母さんだってそう思っているらしい。
だが正直言うと元に戻って欲しいとは思わない。
確かに変わった。
だがそれは良い意味でだ。
未だにおかしいところは残ってるが。
私のために全国デビューする程の大騒ぎを起こしてくれた。
オタクなのは辞めたと思ったがそうでもないらしい。
時折絵とか小説とか書いたりしているらしい。
それと防犯グッズを収拾したりとか――これは仕方ないだろう。
中学――特に私の周りはとても静かになった。
不良男子があんまり調子にのらなくなった。
兄の同学年だった不良達も大人しくなっている。
それもこれも兄の御陰だ。
兄は一種の怪物だ。
学校のルールに縛られない。
社会のルールを無理矢理学校に持ち込み、法に乗っ取って対処する。
格好いい少年漫画だか少女漫画の男子キャラクターとは正反対であり、正直男らしくないだとか批判を受けている。
私も最初はそう感じた。
一緒にゲーム対決している時、兄にその辺を尋ねて見た事がある。
「俺は不良漫画の主人公じゃないんだ。少年漫画の主人公でもない。それに相手は自分達の都合のいい倫理を振りかざして自分達の行いを正当化する連中だ。例えばチクリとかそう言うの。不良の悪事を密告したらそいつが悪役に仕立てられるみたいな。逆に黙っていれば偉いみたいなの」
そう、兄の言っている通り学校社会ではそれが正しい。
学生社会ではチクリ魔は嫌われる。
変わった兄の恐ろしいところはその辺を理解しているにも関わらず実行に移す度胸だ。
「そもそもさ、学校でケンカが起きたら学校内の問題で片付けられるけどその時点で問題なんだよ。例えどんな理由があろうと暴力は暴力だ。警察沙汰になるのが普通でならなきゃいけないんだ。イジメによる自殺なんてのも本当は警察を介入させないとダメなんだよ。だけど生徒の将来と言う言葉を使って教師とかが上手い事保身に走るからよけい事態が悪化するんだ」
そして兄は「思うに――」と言葉を挟む。
「日本の社会ってのはな、社会に問題になって初めて対策に取り組むかどうかって言うレベルなんだ。学校社会も同じだ。それで死人が出ても変わらなければ永遠に変わらない。エグい話だが日本の社会ってのはそう言う風に出来てるんだ」
そこに変人の兄貴はいなかった。
少なくとも以前の兄ならこんなとても大人びた教師のような台詞を吐かないだろう。
「だからあんな警察沙汰にしたの?」
「俺もやり過ぎだとは思っているが、教師にキツく注意された程度で悪さやめる程度の連中ならとっくの昔に真人間になってるさ。だったら警察とか教育委員会とかに頼る他ないだろう」
「それは――」
「それに平然と人を傷付けるような奴がそのまま社会に出てみろ。絶対何かしらの犯罪を犯して人生を棒に振るぞ。ここまでしなくても更正する奴はいるかもしれないが・・・・・・まあそれは少数だろうな」
と、冷たく切り捨てる。
「・・・・・・でも中には友達もいたんでしょ?」
「卓球部の連中どもか。まあそこら辺は俺にも責任がある。だからと言って俺にした悪事が正当化される理由にはならない。それに誤算もあった」
「誤算?」
「あいつらが想像以上に馬鹿だったと言う事だ」
「ああ・・・・・・」
確かにそれは私も思った。
馬鹿みたいに同じ台詞を言って、そして口で兄に勝てないと分かると暴力に走って警察沙汰になる。
もう一種の様式美になっていた。
兄が暴力に走ったのは私のせいで最後に学校で暴れた一件きりだ。
だが冷静になって考えてみればよく我慢したほうだろう。
兄の言葉を借りれば情状酌量の余地はある。
「とにかくまるで会話が成立しない。一方的に絡んで、口を開けば養護だのマザコンだのしか言わなくて、相手にせずにその場から立ち去ると暴力に走って――俺が手を下さなくても何時か何かしらの事件を起こして警察のお世話になってただろうな。まあその御陰で警察とのパイプが出来たのは嬉しい誤算だったが。その点だけは感謝したいね」
「兄貴――なんか恐くなったね」
「正直こうはなりたくなかったが、なめられるよりかはマシだと思うしかない」
まるでも何も漫画のキャラみたいになっている。
間違っても主人公キャラじゃない。
味方につけると頼もしいが敵に回すと厄介なタイプのキャラクターになっている気がする。
色々と話してみて分かったが兄は――例えば将棋の対決に突然囲碁のルールをぶっ込んでくるような事を平然とやるような奴なのだ。
それをある程度大人達に納得させてしまうからタチが悪い。
だから石黒中学の連中は兄に負けたのだ。
「しかし定期的にゲーム勝負挑んでくるけど――もうちょっと機体構成を弄くった方がいいぞ」
「そう言う兄はなんでそんなに強いのよ?」
今はロボットを操る傭兵ってなって戦うゲームで対戦している。
自分なりに色々と考えてパーツ組み替えしているのだがそれでも兄には勝てない。
それでいて機体エンブレムのデザインも上手い。
一年前は絵は下手くそだったのにプロ級の上手さだ。
「ミサイル重火力戦法は確かに強力だがこのゲームに慣れたプレイヤーには通用しない。デコイとか併用して容易に回避出来るし戦い方も単調になる。グレネード搭載の砲撃戦特化型もそうだ」
「お姉ちゃんにも同じ事を言われたわね・・・・・・」
悔しいが兄貴は強い。
僅差に追い込める事もあるが。
そして戦い方は多彩で楽しんでいる節もある。
しかも戦う度にどんどん強くなっている気がする。
他のゲームでも戦う時もあるが対戦格闘ゲームだけは有利に戦える。
対戦格闘ゲームのコマンド入力とかは苦手らしい。
まあ格闘ゲームのコマンド入力はかなり練習とか必要だから仕方ない部分もあるだろうけど。
レースゲームは相変わらずの速さだが。
ラインとかカーブのタイミングとか色々と計算して走っているらしい。
妨害アイテムもある程度対策さえすれば脅威になりえないとか。
ゲームでそこまで計算しているのお兄ちゃんぐらいだと思う。
その事を言ったら「ガチ勢はもっと凄いぞ」と言った。
ガチ勢の意味は分からないので聞いてみると「ゲームに人生捧げてるヤバイ連中。俺はアイツらの足元にも及ばない」との事らしい
たまに兄は意味の分からない言葉を使うが何なのだろうかと思う時がある。
やっぱり兄はおかしい。
だけど以前よりは大分マシ。
そう思いながら意識を対戦ゲームに移す。
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