アフターエピソード

未来少年 in 平成16年


 俺、谷村 亮太朗はタイムリーパーである。


 時間を言ったり来たりするタイムトラベラーではない。


 タイムリーパーと言うのは過去の自分の肉体に意識が憑依した人間――と言う説明で概ねあっていると思う。


 詳しい科学的な説明は知らん。

 

 それにただ単純に過去に遡っただけでなく、自分の過去にとても似ている平行世界に来てしまったらしい。


 家族構成が違うし。

 

 理由は不明。


 特に目的もなく、とにかく2003年の自分の体(精確に言えば平行世界)にタイムリープしてしまった。


 最後にやらかした大事件。


 石黒中学での大立ち回りでテレビデビューし、そして中学3年――と言っても自宅学習だ。


 中学とは実質縁を切っている。


 マスコミの取材とか週刊誌の取材とかは自宅謹慎して難を逃れた。

 ローラー作戦やってマンションの管理人から厳重注意をくらった記者とかもいたらしい。

 マスコミだのブンヤだのの類いは昔からマスゴミだったらしい。

 

 世間ではぶっちゃけた話、同情されている。

 まあネットリンチ喰らうよりかはマシなので精々頑張ろうか。


 そして妹の雪穂はなんとか学校に登校している。

 俺を脅迫材料に使って楽しくやっているそうだ。

 最初は「俺はヒットマンか何かか」と思ったが、それぐらいしないとマトモな学園生活は送れないだろう。


 だからその事に関して俺は「強かになったな」と褒めておいた。

 雪穂は「どうして褒めるのよ?」と返された。

 

 ともかく俺は美人な家庭教師――間違っても恋愛感情は持たないようにしている――と一緒に勉強の日々を過ごしていた。



 しかしそんな生活をしていると逆に両親や妹や姉に心配されて外出に引っ張り出される始末だ。



 とにかくあまりゲームはやらない――と言うか2003年のこの時代のゲームは前世でやり込んでるからだ。


 インターネットもないので暇潰しもできない。


 漫画もラノベも面白いタイトルはあるが中には未来知識で展開や結末を知っている奴とかもある。


 プラモとかもあんまり作る気は起きない。


 ダメ人間だった期間があったせいで節制癖がついたらしい。


 小説とか絵とかに走るのも良かったが何だか前世の失敗を思い出すのであくまで趣味の範囲でやっている。


 なので勉強だ。


 歳を食ってから中学の教科書を見てみると「成る程なぁ~」と感心する事が多い。


 特に歴史は型月のゲームの影響でよく身が入る。


 英語は海外のゲームとか嵌まった時に英語出来なくて困ったからやってる感じだ。 

 

 

 とまあ前世の自分とは完全に真逆なライフスタイルである。

 精神異常を引き起こして心配されたとしてもおかしくない。


 と言うかそもそも、中身が三十代間近のオッサンだったから良かったが、石黒中学校で経験した出来事を考えると普通の中学生だったら引き籠もりか自殺か殺しているかの三択に一つだぞこれ。


 まんま上条さんみたいな生活だったし。


 そんな事を考えつつハリウッド映画を題材にした遊園地を親子で楽しむ。


 歳食ったせいか絶叫系アトラクションも普通に楽しめるようになった。


 後何故かサメに惹かれてしまう。

 これもそれもペニー・ワイズとクソ映画(サメ映画)が悪い。

  

 そんな日々を過ごし――引っ越しの話が出て来た。


 早くとも雪穂の中学卒業に合わせる感じだそうだが、雪穂の状況によってはとっとと早めるらしい。


 実の息子がいじめられた中学校に通ってるのだ。

 この判断は正しい。

 

 引っ越しの場所は前世で最後に住んでいた場所だ。    

  

 石黒中学校とは自転車でいけない距離ではないが結構離れる。

 引っ越したらもう関わる事はなくなるだろう。

 


 学生社会では休日の土日の場合、外に出ても本屋とかには行かず、図書館に行く。


 最近はこのパターンが多い。


 図書館は中学校の裏門の近くだが通り過ぎる事はあっても近寄ろうとはしない。


 図書館の館長からはどう思われているか知らないが、結構よくされていて本を薦められたりしている。


 これでも前世ではラノベ以外の本とかも読んでた口だ。(ドラマ化された小説とか)

 余程高尚で大人向けな書籍でない限りは読める。

  

 それで両親からは心配される。一昔前まで漫画やゲームにどっぷり浸かっていた子供がある日突然文学少年化したら当然だろうな。


 何を思ったのか家庭教師に感想文を書くように言われて書いたら褒められた。

 

 最近何か色々と上手く行きすぎて恐い。


 これでもそこそこアニメとか特撮とか映画とか見てるんだが、真面目な男子学生(元)と思われるのはなんかこそばゆい。


 だからと言ってオタク趣味は金が掛かるし、そもそもオタクのランクはどれだけグッズに金を掛けたかとかで決まる物ではない。


 それを表現する形だがオリジナルグッズ製作とか同人誌制作とかWEBでの二次創作公開だったりするわけだ。


 自分が元居た時代ではSNSで二次創作のイラストや漫画をバンバン投稿していた。


 それも一つの愛の形だが、それが実現するのはまだ未来の話。

 少なくとも2004年現在ではまだ先である。


(まだ夢を諦めきれてないのかな俺は――だけど夢を仕事するのもアレだし、やっぱり兼業作家だな)


 そこそこの給料で時間にゆとりが取れる職業に就く。

 それが即実行出来る状態にするためにも学歴は必要だ。

 もっとも自分が成人した頃には今の2004年の日本経済が「好景気」だと錯覚するぐらい「衰退」を始めるのだが・・・・・・


(とにかくなるべくいい大学は出ておこう・・・・・・)


 学歴信仰しているわけではないが、なるべくいい大学は出ておこうと思った。


 通うにしても「四年間遊んで通えるハローワーク」にしたくはなかった。


(人間なんだかんだで肩書きって奴は大事だからな)

 

 前世の知識だが――人と言うのはまず外見や立ち振る舞いなどで判断し、そこから中身を見ていくのだ。


 それが普通であり、認めなければならない事実なのだ。

 学歴なんかもそうだ。

 単純に高卒出と大学出と言うだけでも大きく扱いは違ってくる。

 

 世の中ってのはそう言うもんである。


 天才少年とか出来る子供と言うのは感覚的かどうかは知らないがそれを分かった上で行動に移せるような奴をいうんだろう。


 俺みたいな時間逆行している奴は少なくとも天才ではない。



 そんな風に色々考えながら過ごしていたある時、事件に巻き込まれる事になる。


☆ 


    

「で? お前達、今更何の用だ?」


「ウルセェ!! お前のせいで俺達どれだけ苦労してるのか分かってるのか!?」


 上村 健太や阿子 順平など、元卓球部のグループが四、五人徘徊していた。

 まだ懲りてなかったのか。

 阿子 順平が自分達のグループの気持ちを代弁するかのように咆えてくる。 


 たまたま休日に図書館に出かけようとしたらこれである。

 マンションの入り口付近で待ち伏せされた。


「なんだ? 学校か家で肩身が狭い思いでもしてるのか? それは気の毒にな――」


 そう言って俺は携帯に110当番しようとしたが掴み掛かられて阻止される。


「お前何も変わってないな――そうやってすぐチクろうとするの――」

 

 吐き捨てるようにクソチビの上村がいった。

 俺は無視して「今更白昼堂々こんな真似して何の用だ?」と返した。


「わかんねえのか? 仕返しに来たんだよ」


「成る程な。世間のほとぼりが冷めたのを見計らってこのタイミングで仕掛けて来たな。で? 仕返してどうなるんだ? お前達もう中学3年生だろう? こんな真似したら人生詰むぞ? それとももう人生詰んでるのか?」


「なにいってんだ?」


 俺は「これは失礼」と返した。

 今は2004年。「詰むぞ?」という言い方は一般的にはまだ浸透してない。

 

「ほら、今俺達大切な受験シーズンだろ。中学2年の時とはワケが違う。それにここは学校外だ。問題起こしたらそれこそただじゃすまない。尾川みたいになるぞ」


 尾川とは不良のパシリやってたデブだ。

 俺をボコボコにして国家権力のお世話になり、既に家族達は引っ越しして正史通りに消息不明になっている。

 ちなみに賠償金はたんまり貰った。

 もしも今マシな人生歩んでたら逆に褒めてやりたい。 


「テメェ俺達を脅すつもりか?」


「じゃあお前達はその人数で何しに来たの? 不良漫画みたいにタイマンで殴り合えってか? それとも大人数でボコリに来たか?」


「さっさと付いてこい! 何もしないから!」


 そう言ってより激しく掴み掛かって来たので大声で叫んだ。


「誰か助けてください!! 警察呼んでください!! 変な人達に襲われています!! 誰か!!」


 遂に殴り掛かってでも止めてくる。

 それでも声は止めない。


「早く警察呼んでください!! 殺されてしまいます!! 誰か!!」 


 そうこうしているウチにマンション中が騒ぎになって人が出始める。

 

 上村や阿子達は異変に気付いて逃げていった。

 俺はホッと一息ついた。

 近隣住民が助けに来てくれるかどうか賭けの要素が強かった。



 場所は近くの警察署に移った。

 俺は病院を経由して警察官の立ち会いの下、取り調べ室で色々と質問されたがスグに釈放された。


 特に俺には問題はないし相手は俺を殴っている。


 それに相手は前科持ちで相手側のグループの一人が警察沙汰になるとは思ってなかったのか正直にゲロッたようだ。それから芋づる式に罪の擦り付け合いをしている。


 後で知ったが俺をとある場所で袋叩きにするつもりだったようで相手側はどう思っているか知らないが完全に殺人未遂だ。


 グループの両親や学校の関係者から被害届は出さないでくれと言われたが同情のしようがないので出しておいた。


 こう言う時、生温い対応をすると返ってよくならないのは分からないようだ。まあ今はまだSNS全盛の時代ではないので学校や生徒の両親の大人達はこの辺りの感覚は分からないだろうが。


 そしてもう半年以上前の話だが俺は一躍時の人だったため、この騒ぎを聞きつけたブンヤどもがまた群がって記事にした。


 後は世間が勝手に正義と言うお題目をかがげて裁いてくれる。


(ほんと、どうしてこうなったんだろうな・・・・・・)


 本当に上村も阿子も他の連中も本当に救いようのない馬鹿だ。

 

 本来の歴史ならば警察沙汰にもならず、俺一人がなにもかも抱え込んで卒業する筈だった。


 犠牲は自分だけで済んだ。


 これでよかったのだろうかと悩む気持ちがある。


 だがなってしまった物は仕方ないと言う気持ちもある。


 しかし正史の彼達のその後を知らない。


 マトモな人生を歩んでいるかもしれないし、何か間違いを犯したのかもしれない。


 そもそも、例え良い学校に進学できても平然と人を傷付ける事が出来る様な奴がマトモな人間になれるだろうかと思う気持ちもある。

 この考えで行けば今の自分も失格だろう。


 ただただひたすら胸くその悪さだけが残った――


 END

 

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