第11話「人生の選択」
再び病院送り。
俺は先生達に土下座された。
お母さんは教師達に温和な見掛からは想像も出来ない程、涙ながらの壮絶な説教を教師にしている。
これは普通の母親なら当然の反応だろう。
危うく死人が出るところだったのだ。
教師も分かっているから甘んじて説教を受け入れているのだ。
後に続いて上村と瀬野と十馬の両親が来た時は頭を下げられた。
その時もお母さんはキレた。
曰く、「貴方達はどう言う教育を施しているのか?」、「親として恥ずかしくないのか?」と言う事だ。
俺も愚痴として「一つも悪いとも思ってもない奴に謝らせなくてもいい」とか「このまま社会に出したら、こいつらとんでもない事をやらかすぞ」とだけ伝えておいた。
だが反省はしないんだろうなと思った。
中学生にとって悪行は一種のステータス、『この程度で改心するなら』不良の森住も鎌田もとっくに改心している。
「なあお母さん、もう警察に相談した方がよくないかな……こいつらの将来考えたらそっちの方がいい気がするんだけど」
「ええ、それもそうね」
俺の提案にお母さんも同意する。
その俺の一言に病室は騒然となった。
学校に警察が介入する。
普通は段階を踏んで教育委員会が最もなのだが「未来の教育委員会の有様」を見ているので警察が妥当だと判断した。
その判断に躊躇いはなかった。
普通に生きてて殺されかけたのだ。
マトモな判断だと思いたい。
過去の有名なイジメの事件も死人が出て初めて警察が介入し、世の中で話題になるケースが多い。
そうして大概救いの無い結末だ。
2011年に起きた大津事件とかそうだった。
アレはまるで当時の現代社会や学校社会を象徴するようなクソッタレな事件だった。
あの事件の影響で自殺テロなんて言う言葉が産まれるぐらいだ。
それを考えると今の自分の状況はまだ報われている方だろう。
人を殺しておいて、少年院とかにいかなくてもいいんなら俺も一人ぐらいはーーいや、そう言う過激なのはやめておこう。
復讐教室とかじゃないんだから。
☆
俺は病室で母親と二人きりになった。
もう夜になり、出された味気ない食事を食べた後、俺は当然の会話を母親と繰り広げる事になる。
「もう転校しましょう。学校に行く度に傷付いて・・・・・・もう耐えられない・・・・・・」
「・・・・・・」
涙ながら
ああ、心配してくれていたんだな。
正直それだけで十分だった。
前の時、いじめられていた時ーーここまで過激ではなかった。
少なくとも黙って生きて堪え忍んでいれば暴力を振るわれる事はなかった。
だが俺がもともな社会人の倫理を持ち出したせいで一気に連中は過激になった。
ただ少しばかり復讐ぐらいはしたかった。
それなのにこのザマだ。
その点については申し訳なく思う。
「それに・・・・・・」
「?」
「何だか恐い予感がするの」
「恐い予感?」
「そう。確かに強くなった。今の状況を変えようとするガッツも感じられる。それはとても素晴らしい事だわ。だけどーーこのままだと、亮太朗が何かとんでもない事をやらかしそうになるのがとても恐いの・・・・・・」
「ああ・・・・・・正直言うとな母さん。俺、あのまま学校に通ってると何時か弾みで人を殺しそうになるんだ」
「・・・・・・」
「なんも言わないんですね? テッキリ、そんな事言っちゃいけませんとか言われるのは覚悟してたけど」
「ううん。確かにそう言わなきゃならないんだけど、だけど・・・・・・自分の子供がそこまでお人良しじゃないくらいは分かってる」
「そうか・・・・・・じゃあハッキリ腹を割って話すよ? 俺は今、とても復讐したいと思っている。殺すとまではいかないけど、半殺しぐらいにはしたいと思ってる。だけどなーーそうすると家族にも迷惑が掛かるーー特に同じ学校に通ってる妹とかにもなーー」
「それはーー」
「妹はどう思ってる? 転校するなら妹も一緒だ。そこは譲れない」
「・・・・・・続けて」
「教師の連中も見ただろう。悪い連中ではないけどそれだけだ。今日叱ったあいつらだって一週間も立てばスグにまた報復してくる。念の為釘刺しとくけど「関わらなければいい、放って置けばいい」何て言う倫理は通用しないぞ。あいつらまた何か仕返ししてくる・・・・・・このままだと何れ俺は何をしですか分からなくなる」
「田舎の学校に転校・・・・・・するの?」
「人を殺すかどうか悩むよりかはマシだ。それとあんな学校に妹を通わせておくわけにもいかない。最悪、標的が俺から雪穂になるだけだ。体だけじゃなく心に傷を負ってからじゃ手遅れだぞ」
俺がその例だ。
いじめを受けた人間は一生その事を抱えて暮らす事になる。
そうなってからでは手遅れなのだ。
「そう・・・・・・何時の間にか、強くなったわね」
「・・・・・・強くなんかなってない。少なくとも強くなかったらこんなところで夜逃げの相談みたいな会話はしていないよ」
「ううん。強くなった。ちょっと見ない間に随分大人になっちゃったわね」
「それはーー」
それを言われると複雑な気持ちになる。
平行世界の未来からタイムリープして来ているのだ。
突然大人になったような印象をもたれても仕方はない。
「・・・・・・ともかく新しい学校、探してみるわね」
「分かったーー」
自分が何のためにこの時代に戻って来たかは分からない。
だが少なくとも俺は中学時代の連中に復讐をするために戻って来たわけではないと思っている。
だからこれでいいのだ。
これで・・・・・・
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