第8話「また病院送りかよ」

 もし過去に戻れたら復讐鬼なるかもしれない。

 そんな事を考えた事がある。


 前世においてもそうだった。

 家族構成以外は今のところ前世と差異なく進んでいる。

 母親は完全に別人だし、姉と妹の存在のせいでより前世との違いって奴を体感していた。 

 

 まあなってしまった物は仕方ないと思った。

 前世に未練があるとすれば「碌に親孝行してやれなかった」事ぐらいだ。

 出来たとしても少ない給料から一万円ぐらいさっぴいて家に入れるぐらいだった。

 

 夢を追うのはいいが現実も見ないとな。

 うん。


 そんなわけで久し振りに学校に登校。

 母親からは「危なくなったらスグに逃げなさい」と言うありがたい言葉を貰った。

 本当に今の俺には勿体ないぐらい言い母親だ。


 前世の母親とは容姿は違うが――共通点はある。

 それは形は違えど何だかんだで面倒見が良くて優しかった事だ。


 だからこそ辛い気持ちが湧き上がる。


「本当に、もっと親孝行してやれば良かったな・・・・・・」


 それだけ呟いてマンションの廊下に出る。

 住んでる場所は一階の半ばだ。


「で? 雪穂? 何でお前一緒にいるんだ?」


「行く場所が重なってるからよ」


「それもそうだな」


「ふん――」


 そう言ってそっぽを向いた。

 何か可愛い生物がいるなおい。


「・・・・・・今度、何か好きな物でも奢るわ」


「な、なに急に?」


「いや、散々迷惑掛けたからな。そんぐらいしても罰は当たらないだろうと思って」


「本当にどうしちゃったの? そんな事言う奴じゃなかった――」


「色々あってな。出来る範囲で自分を変えて行こうと思ってるんだ」


「はあ――もっと早くそう言って欲しかった。後格好いいと思ってるがどうか知らないけどキモイから」


 俺は苦笑した。


「まあ確かにそうだよな。三日坊主で終わるかもしれないし――それに、今迄おかしかった奴がこんな事言うのは確かに気色悪いわな」


「そう言うところがキモイのよ。急に身嗜みとか気をつけ始めたりとか。一体なんなの?」


「悪い事してるわけじゃないんだし別にいいじゃないか」


「そうだけどさ・・・・・・本当に別人みたい」


 だよな~と心の中で思った。


 すると尾川 優也が現れた。

 まだ卓球部の活動が再開できておらず暇なのだろうか。

 通学路の途中で待ち構えていた。

 

「おはようございます」


 とだけ返して脇を通り過ぎようとした。


「お前無視かよ」


 そう言って強引に絡んできた。


「挨拶はしたでしょう?」


「お前のせいで俺達酷い目に遭ったんだぞ」


「自業自得だろう。俺も悪かったけど、これ以上どうこう言うならもうそれは全部そっちの責任だ。それに平然に人を養護呼ばわりして、気に入らなければ殴ってるような奴と仲良くしろと? 授業中協力し合うのなら別に構わないけど、そんな奴と進んで仲良くなりたくないね」


「そう言ってお前また母親に頼み込む気かマザコン」


 はあとため息をついた。


「今度はマザコン呼ばわりか。一応教師や親の顔を立てるのもあるけど暴力沙汰にするのはイヤなんでね。それにしてもマザコンか・・・・・・君の母親に言いつけるのも良いかもしれないな。貴方のお子さん、にどう言う教育してるんですかってね・・・・・・」


「だからお前養護なんだよ」


「お前養護かマザコンしか言えないのかこの大根野郎」


 そう言うと軽く小突いて来た。

 妹の雪穂は笑いを抑えている。

 シュワちゃんネタは2003年でも通用するらしい。


「口で勝てないなら拳で? てか? まあ気持ちは分からんでもないけど、先に突っ掛かってきたのは君だよ? 少なくとも人に悪口いっておいて逆に悪口言われたら手を出すってのはどう見てもおかしいからな」


「おかしいのはお前の頭だろ」


「ダメだこりゃ。どっちが養護か分からん」


 そう言って妹と一緒に先を進む。

 妹は笑いを押し殺してる。


「兄貴って何時からあんな風になったの?」


「さあ? 気が付いたらこうなってた」


「なんか大人と子供って感じだったね」


「いいや、アレは相手の精神が異常だ。あのままだと何時か少年院か刑務所に行ってもおかしくないな」


 ともかく相手の語彙力と言うのに欠けている。

 前世の動画とかで見たが、まるで論破された市民団体の連中みたいだ。

 黙り込むか、もしくはギャーギャー喚き立ててレッテル張りするかのどちらかだ。


 正に尾川はそれだ。

 教師も親も大変だろう。


 相手の意見を理解しようとも聞こうともしない。


 学校では不良になる度胸もなく、ただ弱い物イジメをしてパシリになってと言う生活をしていた。


 つまり小物かそれ以下なのだ。


 尾川と言う人物は。


 そんな奴に幾ら説教かましても無駄だろう。


「うん?」


 ふとゴチンと言う音が聞こえた。

 そして殴る、蹴るをされる。

 痛い痛い。

 とにかく痛い。


 悲鳴が聞こえる。

 俺はどうしたんだ?

 てか何がどうなってるんだ?

 

「いってえーな・・・・・・」


 殴る蹴るが収まり、立ち上がる。

 すると何故か涙目になった尾川がいた。

 登下校中の人間に周りの人間まで――人集りが出来ている。


 俺が見たのは涙を流して俺を見詰めてぜえぜと肩で息をする尾川だった。


 間違いない。


 アレは追い詰められた人間の目だ。 


 そう言えば尾川は途中で家庭内の環境だかでフェードアウトして何処かの孤児院だか寺で出家しただか噂されてたのを思い出す。

 ようするに家族仲はよろしくなかったらしい。

 出なければ家出を二回もしないだろう。


 そして俺の急変や前回の出来事でこっぴどく叱られて、それで復讐する機会を待ち構えていたのだろう。


 で、口で勝てないと分かって相手にもされずこうして俺を殴り倒したと言うわけだ。


「気は済んだか?」


「~~!?」


 俺はまた殴られた。

 最近こんなんばっかだな俺と言われて再びアスファルトに倒れ込んだ。

 

 それが俺が見た尾川の最後だった。

 


 病院のベッドの上。

 また入院しての精密検査だ。

 

 雪穂が涙ながらにあの後の事を詳しく教えてくれた。


 まず全校集会になったらしく、警察にも連絡が行ったらしい。

 そして尾川一家は引っ越し、本人も居なくなった。

 俺のせいで一種の歴史の前倒しが起きたのだろうか?


 尾川がいなくなるのは家出を二回して、そして家庭内での不和が原因の筈でそれも中学3年に起きる出来事の筈だ。


 中学二年の春の出来事ではない。


 残念に思うよりも科学者的な好奇心みたいな物が沸き上がる。


 あの東北で起きた未曾有の大災害も前倒しで起きる可能性が出て来た。


 この手の話でよくある事だが前世の知識はアテにはならないだろう。


 困った困った。


 てか上条さんみたいな生活してるな俺――何時になったらまた学校に通えるんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る