第5話「襲来」


 さて、ぶん殴られて一日が経過した。

 取り合えず脳とかには異常は見られないらしい。

 治療費とかは当然、尾川家持ちになった。


 たぶん尾川 優也は針の筵の様な生活を強いられる事になるだろうが――まあ殺したかった奴がどうなろうと知ったこっちゃない。

 

 んでまたしても朝の通学路。

 今度絡んできたのは元卓球部。

「昔は仲が良かった」二人だ。


 小柄の少年、上村 健太。


 もう一人は独特な顔立ちの阿子 順平。


 二人とも小学生時ぐらいは一緒に遊んだ仲だ。

 中学時代になってから同じ卓球部に入り、そして――気が付けば二人から何かしらの嫌がらせを受けるようになった。


 正直言うと尾川もそうなのだが、いじめられる原因や嫌がらせを受ける原因は俺にもあったのは間違いない。

 最も全部が全部、俺のせいかと言われると疑問符がつくが・・・・・・


 ともかく厄介なのはこの二人とも帰り道は被っているのだ。

 交差点を通り過ぎた先で待ち構えていた。

 そこは左側が住宅街で右側は広い田んぼが広がっている。

 

 ちなみに更に奥に行けばボロッちいアパートがあり、そして田んぼを通って普通の道路に出てすぐ左側に小学校が見えて、更に直進すれば自分が通う石黒中学校の正門が見えるのだ。


 と言うか二人とも朝練の筈なのだが何しているのだろうか。

 

「おやおや上村君に阿子君じゃないですか。誰かを待ってたんですか?」


「養護を待ってたんだよ」


 と、阿子が言って立ち去った。

 阿子も俺を同じく養護(池沼)呼ばわりする。

 これは当時の自分の自業自得なのでもう諦めてる。


「ああそう。それはご苦労様。んじゃあな」


「待てよ」


「あん? なに? 尾川君みたいにぶん殴りたいの? こう見えても怪我人だよ俺? 学校や親が許しても世間はどう思うだろうね」

 

 と言ったが二人はハァ? と言った態度だ。

 どう言うニュアンスで自分の台詞を受け取ったのか知らないがマトモな説教が通じる精神構造では無いのは確かだ。


(それにしても殴られた右頬が痛い)


 まだ湿布貼ってるんだぞ俺。

 これでぶん殴って来たら相手の精神を疑うが、中学生と言うのは犯罪が許される年齢だ。

 それに感情の制御も出来ない多感な時代の少年である。

 あまり挑発する物言いは避けるべきだろう。


 例え殺したかった相手であっても。


「それにしても朝練はどうしたんだ? 今日は休み?」


「お前のせいで部活出来ないんだよ」


 阿子が罰が悪そうに言った。


「俺のせいなのは認めるけど、お前達が捲いた種でもあるからな? そこんとこ間違えるなよ」


 じゃねと言ったが二人はしつこくついてくる。

 部活動なくて暇なのだろうか? 


「まだ何か用? 土下座でもすればいいの?」


「ああ。土下座しろ」


 阿子は即答した。

 強気だなこいつ。

 

「はいはい」


 そうして俺は土下座した。


「俺が卓球部にいじめられたのを顧問にチクって、卓球部が休みにしてしまって申し訳ございませんでした!!」


 大声で言ってやった。

 周りに聞こえるようにシッカリと。

 ちなみに周りには登校中の生徒やら親御さんもいる。


「勝手に卓球部の部員達に荷物漁られたのも俺のせいです!! 養護呼ばわりされたのも俺のせいです!! それをチクって本当にもうしわけございませんでした!!」


 二人は気をよくしたどころか慌ててオロオロと周囲を見渡し、そして逃げていった。

 ヒソヒソと皆話込んでいる。

 皆どう思ったかは知らないが、これであの二人は少なくとも悪役だと言う印象を持たれた筈だ。


 俺は最悪チクリ魔だと言う印象を持たれただろうが・・・・・・学校社会ではチクリ魔は嫌われる運命である。


「あの二人、けっこう馬鹿だったんだな・・・・・・」


 こんな単純な手口で返り討ちに出来るとは思ってもいなかった。

 さて、学校に向かうか――



 案の定、学校の昇降口に来てみれば上履きは隠されていた。

 もうこれはどうしようもないのでワケを説明して借りる事にする。

 机も落書きだらけ。

 この頃から置き勉はしない性分であったが正解だった――もしやってたら教科書とか被害を受けてただろう。


「で? 何か用?」


「最近お前調子のってるらしいから来たんだ」

 

 中学二年の不良の元締め。

 森住 龍一がきた。

 強面で細めで体格もホッソリとしている。

 ヤンキー漫画とかで出て来そうだ。

 微かにタバコ臭い。

 

 何時か関わるとは思っていたが意外と早かった。

 周りには取り巻き連中もいる。


 教室は緊張感に包まれた。 

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