第2話「ささやかな報復」


 この頃の自分――谷村 亮太朗の人生は最悪の一言で片付けられる。


 クラスメイトからのイジメだけでなく、クラス全体から見下されている。

 まあ自業自得の面もあるんだがなこれ。


 部活の卓球部も上手く行かない。

 これも自業自得の面もある。


 勉強もダメ。

 これも自業自得だわ。


 趣味は絵です。

 下手でごめんね。


 男子よりも女子との会話の方が多くなるのもこの頃。

 ちょっとした男性恐怖症に陥る。

 あれ? 結構リア充じゃね?

 

 などと思いながら中学二年生になり、まず最初にやった事はと言えば卓球部への退部届けだ。

 親には悪いが事後承諾って奴だ。

 叱られるかもしれないが、まあ卓球部自体は親への機嫌取りで始めたようなもんだ。


 それに卒業式の日に幽霊部員でありながら雨の中、皆勤賞になった部活動生に貰えるトロフィーを受け取りに行くのは精神的にくる物がある。


 そんな事よりも机の落書きや上履き隠しとかどうにかなりませんかね。

 一応相談してるんですけど、証拠が無いしね。暴力どうこうに頼るのは最後の手段だ。


 正直中学生の犯罪は度が過ぎなければ許されるやったもんがちの世界だ。

 この頃からそれは変わらない。

 

 それはともかく卓球部を辞めて、心が軽くなった。 


 卓球部の面々とも仲が上手くいかなくなったし、クラスカーストとか周囲とのお付き合いとかも考えれば自然体だ。

 自分はドMではない。また辛い思いをすると分かってまた卓球部を続けるつもりはない。


 取り合えず、卓球部の顧問は話しが分かる人で本当かどうかは知らないが左翼クソ教師とケンカした事がある武勇伝をお持ちの方なので荷物を勝手に漁るような連中と、自分を養護(池沼呼ばわり)する連中と一緒に部活したくありませんと伝えておいた。


 今頃卓球部の面々は説教されている事だろう。


 これぐらいの仕返しは許される筈だ。


 そんな事を思いつつ図書室に引き籠もって絵を書く。

 ある意味此方が本業である。


「谷村君、何かメチャクチャ絵が上手くなったね」


「あ? やっぱ分かる? 春休み中漫画みたいな修行法したから」


 放課後の図書室。

 同じテーブルにいる女子達にそう言われて気分がいい。

 ちなみに急激な絵の上達は複雑な経緯もあっての上昇だが、ここでは漫画の専門学校生時代にやったトレーニング方法を春休み中にやったと説明して置いた。 

 

 そのトレーニング方法とは――老若男女、キャラクターの全身図が載ってるイラストをトレーシングペーパーで体のパーツ部分の位置だけを書き加えてトレーシングペーパーを外して出来うる限り細かい部分も模写すると言うトレーニング方法である。


 それを説明したら凄いと言われた。


 嘘はついてない。


 ただ真実のみを伝えた。


 詐欺師の手口である。

 

 俺は苦笑するしかなかった。 

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