走って、逃げて、傷つけた。

@behu

第1話世界の穴

息が上がる。

手足がすごい速さで動き視界が歪む。

心臓がドクンドクンなっている。

それでも僕は走った。

そして僕は飛んだ。

三十メートルはあるであろう高さから飛び降りた。

すごい重力が体にかかったがギリギリ手が届いた。それから思いっきり力を入れてこっちに持ってきて自分が下になるように抱きしめる。

ここで僕の意識は消えた。

次に目を覚ましたのは、2週間後のベットの上だった。目が覚め周りを見ると真っ白いカーテンに真っ白い毛布真っ白いベットに真っ白い天井、立とうと体に力を入れても入らない。それから5分と待たないうちに眼鏡をかけたすこし理性的な30歳ぐらいの男性が声をかけてきた。多分医者なのだろう

「体に痛みは無いかい?」

顔より若く聞こえる声だった。

「大丈夫です。体が動かなくて少し違和感があるくらいでそれ以外は、特に何も無いです」と答えると「それは良かった」と言った。「それは麻酔がちゃんと聞いている証拠だよ。」

「あの、僕はいつ退院出来るんでしょうか?」

そう聞くと医者の人が眼鏡をとって真面目な顔でこちらを向いた。

「君の傷はとても大きく特に背中のキズは一生付きまとうだろう。歩けるようになるにも早くて1年はかかるだろう」

僕は、最初何を言っているか分からず理解できなかった。だが涙が沢山こぼれ嗚咽が出てきた頃にやっと分かった。

僕には、これといった才能がなかった。

それでも小学校からやっていたバスケットボールでは関東大会まで行けるようになり来年こそは全国だと死ぬ物狂いで頑張ってきた。

僕にはバスケと彼女しかなかった。

そこでやっと彼女の事を思い出した。

なぜ忘れてしまっていたのだろう。

早く彼女に会いたい。抱きしめたい。キスをしたい。彼女を感じたい。そう思うとまた涙が出てきてしまった。

泣き止んでから目の前の医者に聞いてみた。「あの、僕と一緒に落ちた彼女は今どこにいるんですか?この病院にいるんだったら話したいんですけど」

そう聞いた時の医者の顔は、眉をひそめとても言い難いんだがと言って喋ってくれた。

「君と一緒に落ちた早見さんは、落ちた後すぐに息を引き取った」

目の前が真っ白くなった。

「何故、彼女が死んで僕が生きてたんですか?」

今の僕の精一杯がこの質問だった。

「君達は、地面に当たる前に木に当たってから落ちたんだ。そのとき君が下だったのが逆転してしまって彼女が下になってしまっ」

頭に入ってこない。何を言ってるかよく分からない。彼女が死んだ

体から体温が減っていくのが分かる。麻酔が聞いているはずなのに何故だろう。

あーそうだ人と話しているからいけないんだ

話したくない話したくない話したくない話したくない話したくない話したくない話したくない。それから僕は、病院にいる間誰とも言葉を交わさなかった。

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