衝撃の告白

「フェリシア!」


 みんなが大きな声を上げた。

 全員が目を見開く中、ミアがフェリシアに駆け寄っていく。


「フェリシアさん!」

「来ないで!」


 鋭い声に、ミアの足が止まった。


「フェリシアさん、戻りましょう」

「いやよ」


 ミアが手を差し伸べるが、フェリシアは、首を振って後ずさった。

 しかし、いやだと言いながら、それ以上離れることも、フライで逃げることもしない。


 本当は戻りたいと思っているはず


 みんながそう感じた。しかし、どんな言葉を掛けていいのか分からない。マークでさえも、黙ってフェリシアを見つめるのみだ。

 睨み合いが続く中、フェリシアが、かすかに震える声で言った。


「私は……」


 地面を見つめながら、フェリシアが話し出した。


「両親も兄弟も知らずに育ったわ。家族がどんなものかも知らなかったし、知る必要もないって思ってた」


 小さな声に、みんなが耳を澄ます。


「でも、うちの会社に入って、いろいろな経験をして、私は変わった。子供の面倒を見たり、お年寄りのお世話をしたりするのは、大変だけど楽しかった。人と一緒に何かをすることが、凄く楽しかった。一人だけでも生きていくことはできるけれど、一人だけでは幸せになれないって、そう思った」


 か細く、だが途切れることなく想いが綴られていく。


「いつしか私は、本気で夢を見るようになった。私も、人並みの幸せを味わってみたい。恋をして、結婚して、家族と暮らしてみたい。そんなことを思うようになった」


 フェリシアの顔に微笑みが浮かぶ。

 その微笑みが、歪んだ。


「だけど、やっぱり無理なのよ」


 泣きそうな顔で、フェリシアがうつむいた。

 堪らずミナセが言う。


「そんなことは……」

「無理なのよ!」


 叫ぶようにフェリシアが否定した。

 目を見開くミナセを見ることなく、うつむいたままでフェリシアが言う。


「私は、みんなと同じ場所にはいられない」

「どうしてそんなことを……」

「私が穢れているからよ!」


 強く目を閉じ、叫ぶようにフェリシアが言った。


「私の過去は知っているでしょう? 私がどれほど穢れた人生を送ってきたか、みんなだって知っているでしょう?」


 フェリシアの過去。過酷で凄惨な過去。

 つらい経験をしてきた社員たちでさえ、その過去を知って息を呑んだ。


「私が家族を持つなんて許されないのよ。私が不幸にしてきた人たちが、決して私を許さない。たとえ誰かが許すと言っても、私は私を許すことなんてできない」


 光の見えない真っ暗闇。

 どこまで沈んでも底に辿り着くことのない深淵。

 フェリシアの魂が、もがき苦しんでいた。


「私は、幸せなんて願ってはいけないのよ。私なんて……私なんて……」


 フェリシアの目から涙が溢れ出す。こぼれ落ちる涙を拭うこともせずに、フェリシアは泣き続ける。


 どんな言葉も、フェリシアには届かない気がした。

 どんな言葉も、上辺を飾るだけの陳腐なものに感じた。


 決して消えない罪悪感。

 それは、フェリシア自身が幸せを感じれば感じるほどに大きくなっていった。

 自身がしてきたことと、自身に起きたこと。そのすべてを消し去りたい。だが、そんなことはできはしない。過去は決して変えられない。


 フェリシアの、声にならない悲鳴が聞こえた。

 リリアとシンシアが泣き出した。

 ヒューリとミアが震え出した。

 爪が食い込むほど、ミナセが両手を握り締めた。


 ふと。


「フェリシア、聞いてくれ」


 マークの声がした。


「いやよ。私は誰の話も……」

「いいから聞け!」


 途方もない声でマークが怒鳴った。

 フェリシアがビクリと体を震わせる。ほかのみんなも、呼吸が止まるほど驚いていた。

 瞬間的に、殺気のような激しい気迫を放ったマークが、大きく息を吐き出しながら気を鎮めていく。

 一度目を閉じ、また息を吐き出し、そして、目を開けた。


「フェリシアと、そしてみんなに、言わなければならないことがある」


 低い声で、うつむいたままマークが話し出した。


「俺の故郷は、ここからずっと離れたところにある。そこで俺は、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に育った」


 初めて聞くマークの過去。

 突然始まったその話に、泣き、あるいは震えていたみんなも、すべてを忘れてマークに集中する。


「ありふれた人生だったと思う。普通に学び、普通に会社に入って、普通に仕事をしていた。俺は、どこにでもいる普通の人間だった」


 どうということのない話。そのはずなのに、マークはみんなと視線を合わせない。


「俺はこのまま平凡に生きていくんだろうって、漠然と思っていた。だけど、それは違ったんだ」


 湖のほとりに風が吹く。

 葦がざわめいた。湖面がざわめいた。


「いろいろあり過ぎて、正確にはもう分からないんだが」


 風が止んだ。

 顔を上げ、みんなを見つめ、覚悟を決めて、マークが言った。


「俺はすでに、三百年以上生きている」

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