幕間-もう一つの封印-

もう一つの封印

 トントントン


 ……


「ここで合ってますよね?」

「たぶんね」


 反応のない扉の前で、二人の女が困ったように立ち尽くす。


「もう一回」


 トントントン


 ……


「お出掛けですかね」

「そうかもしれないわね」


 顔を見合わせて、二人は考え込んだ。


「もう一回!」


 ドンドンドン!


「うちの扉を壊す気か?」


 突然後ろから声がした。

 驚いて二人が振り返る。そこにいたのは軍服の男。不思議な風を纏う、不思議な男。


「反応がなかったわ」


 女の一人が目を見開いている。その顔には驚きと、そして悔しさ。

 それを見て男が笑った。


「ああ、悪い。さすがのお前でも気付かなかったみたいだな」


 そう言うと、男は右手のブレスレットを見せた。


「索敵魔法を完璧に打ち消す、超レアアイテムだ。ま、いわゆる秘宝ってやつだな」

「秘宝!」


 もう一人の女が目を輝かせる。


「あ、もしかして、その指輪も秘宝ですか!? この間言ってた、びっくりするくらい風の魔法の効果が上がるっていう」

「あ、ああ」

「やっぱり!」


 男の手首を掴み、それを強引に引き寄せて、女が指輪を凝視する。


「あ、もしかして、そのブーツも秘宝ですか!? この間教えてくれた、びっくりするくらい体が軽くなるっていう」

「そ、そうだよ!」

「やっぱり!」


 男の足首を強引に持ち上げて、女がブーツを嬉しそうに撫でる。

 男が慌ててバランスを取る。


「あ、もしかして、その愛剣とは別に持ってる妖しげな剣は、この間言ってた伝説の……」


 パコッ!


「あいたっ!」

「いい加減にしなさい!」


 頭を抱えてミアがしゃがみ込む。

 プンプン怒りながらフェリシアが睨む。

 その様子を、笑いながらサイラスが眺めていた。



「遠くからよく来てくれたな」

「いえ……」


 二人の前にカップを置くサイラスに、フェリシアが曖昧に微笑んだ。

 ここは、イルカナ北西にある王国ウロル。フェリシアとミアの二人は、はるばるアルミナの町からサイラスを訪ねてやって来ていた。

 しかしフェリシアもミアも、この訪問で何が得られるのかを、じつはよく分かっていない。


「それにしても、サイラスさん。いつもそうやって秘宝を持ち歩いてるんですか?」


 壁の棚に並んだ秘宝の数々を見ながらミアが聞いた。

 苦笑いをしながらサイラスが答える。


「秘宝目当ての空き巣が多くてな。盾とか鎧とか、大きな物は別の場所に隠してあるんだが、身に付けられるものは持ち歩いてるのさ」

「なるほど。サイラスさんも大変なんですね」


 ランクSのもと冒険者。いくつものダンジョンを制覇し、所持する秘宝は数知れず。

 サイラスの名は、特にウロルの中では鳴り響いている。そして、サイラスが一人で暮らしていることもよく知られている。外出時を狙って空き巣が入るのは、仕方のないことなのかもしれなかった。


「さて、せっかく来てくれたんだから町の案内でも、と言いたいところなんだが、明日はお偉いさんが集まる会議があってね。朝からその護衛に行かなきゃならない」


 肩をすくめてサイラスが言った。


「だから、悪いがすぐ本題に入らせてもらう」


 フェリシアとミアが姿勢を正した。


「ここにお前たちが来たってことは、あったんだな?」


 サイラスが聞いた。


「はい。たしかにありました」


 フェリシアが答える。

 隣のミアが、固い表情で頷く。


「そうか。じゃあ、”それ”が一体何なのかを話そう」


 お茶を一口飲み、咳払いをしてから、サイラスが語り始めた。



 ウロルから西、一つ国を挟んだその先に、とある王国があった。

 その国は、一般市民でさえ魔法の道場に通うことが普通なほど、昔から魔法が盛んだった。優秀な魔術師が揃う王国軍は無敵と呼ばれ、数百人の魔術師が放つ第四階梯魔法の一斉射は、敵国の兵士の士気を挫くに十分な破壊力を持っていた。

 しかし、それだけ強力な軍を持ちながら、その国が領土の拡張を目指すことはなかった。

 理由は、南にある王国の存在だった。


 南の国の王家は、神の祝福を受けている


 どこにでもありそうな話。王の支配を正当化するために、支配者が国民に植え付けた思想。

 そう言い切ることが、しかしその国についてはできない。


 その国の王は、神器を持っていた。


 神器は、杖。その杖は、呪文を唱えることなく、ひと振りで第五階梯級の火の魔法を発動できるという代物だった。しかもそれは、単体の敵に向けることも広範囲を攻撃することもでき、さらには発動回数に制限もない。

 その破壊力は、神器の中でも頭一つ抜けていた。



「ひと振りで第五階梯……」


 フェリシアが目を丸くする。


「信じられないかもしれないが、事実だったらしい。秘宝がおもちゃに見えるような、とんでもないアイテムだったって話だ」


 驚く二人を見ながら、サイラスが続けた。



 無敵の魔術師部隊を持つ北の国と、強力な神器を持つ南の国。南北の二つの国は、小競り合いを繰り返しながらも、大規模な戦争を仕掛けることはしてこなかった。

 ところがある日、思わぬことからその歴史が変わってしまう。


 祝日だから、今日だけは国境線から兵を引いてほしいと申し入れた北の国に対して、そんなことは関係ないと南の国が突っぱねる。それに怒った北の兵士が矢を射掛け、応酬に南からも矢が飛んでくる。

 いつもの小競り合い。一日か、せいぜい二、三日で収まる小さな争い。

 しかし、そこに不幸な出来事が起きた。


 北の国の若い神官が、前線の兵士の慰問に来ていた。その時起きた小競り合い。それを止めようと、神官は国境線に近付いた。そこに、南から風に乗って矢が飛んできた。放った本人でさえ驚くほど、その矢は遠くまで飛んだ。そして、その矢が神官の首に突き刺さる。

 神官は即死した。

 それを知った神官の父親は、即座に現場へと向かった。そこで、変わり果てた息子を抱き締めて涙を流す。


 そして父親は、怒りに我を忘れて国境線を侵した。

 そして父親は、怒りのままに、第五階梯魔法を発動した。


 それは、多くの敵兵を葬り去った。

 それは、陳謝のためにやって来ていた、南の国の使者をも葬り去った。

 使者は、南の王が寵愛していた末の息子だった。


 南の国は、北の国に宣戦布告をした。

 北の国は、不本意ながらもそれを受けて立つことになったのだった。



「戦争のきっかけを作っちまった父親は、代々強い魔力を持つ一族の生まれだったらしい。その一族の長は、国の大神官を務めるのが通例だったそうだ」

「不幸な出来事ね」


 フェリシアが悲しそうにつぶやく。

 隣のミアは、泣きそうだ。

 それを見て、サイラスが小さく微笑んだ。そしてゆっくりとお茶を飲むと、再び語り出した。



 無敵の魔術師部隊を持つ北の国と、神器を持つ南の国。戦いは拮抗するものと思われたが、実際は違った。

 怒りに我を忘れた父親が引き起こした戦争は、南の国の王の怒りにも火を点けたのだ。


 南の国は、北の国の魔術師たちが放つ強力な魔法の一斉射を、秘宝を含めた強力な防具を使い、兵の損失には目もくれず、巨大な銛のような陣形で突破した。

 南の兵が、敵陣深く斬り込んでいく。その中に、南の王がいた。

 そして、神の力が解放された。


 神器が敵兵を焼き払う。味方の兵が巻き込まれるのも構わず、強大な魔法が連続して発動される。

 常軌を逸したその攻撃に、北の兵は逃げ出した。

 それを、理性を無くした南の王が追った。


 神器が、一片の慈悲もなく北の国土を焼いていく。

 兵も市民も、女も子供も死んでいく。


 北の国は降伏しようとした。

 南の王は、それを受け入れなかった。


 北の王都が燃える。

 呆然とする北の王に、大神官が言った。


「私が敵を引き付けます。その間に陛下はお逃げください!」


 そう言うと、大神官は光の魔法の第五階梯、インビンシブル・ウォーリアーを発動させて敵陣に飛び込んでいった。

 無敵の戦士が敵陣を駆け抜ける。神器の放つ凶悪な魔法をも撥ね除けて、最前戦にいた南の王に迫る。

 そして、王まであと一歩というところで魔法が解けた。

 南の王の目の前で、大神官は討たれた。


 初めて恐怖を感じた南の王は、神器を収めて兵を引いた。

 大神官の命を犠牲にして、北の王は逃げ落ちていった。

 戦争は終わった。

 北の国は、南の国の領土となったのだった。



「本に書いてあったのは本当のことだったのね」


 一冊の本をマジックポーチから取り出したフェリシアが、ページをめくりながら言う。


「悲劇です。悲しいです」


 相変わらず泣きそうなミアの頭を、サイラスが手を伸ばしてポンと叩いた。


「とりあえず、これで本編は終わりだ。ここからは、その後の番外編を二つ話そう」

「番外編?」

「二つ?」


 きれいに揃って首を傾げる二人を、サイラスが可笑しそう笑った。


「一つは、北の国と南の国のその後の話だ」


 淹れ直したお茶を二人に勧めながら、サイラスが話す。


「北の国を征服して凱旋した南の王は、自国の王都に戻る途中で、謎の一団に襲われた。そして、驚くべきことに、その一団に神器を破壊された」

「え?」


 フェリシアが驚く。


「神殺し?」


 ミアが小さくつぶやく。


「何て言った?」

「あ、いえ、何でもないです!」


 聞き返すサイラスに、ミアが慌てて首を振った。

 怪訝な表情でミアを見ながら、それでもサイラスは話を続けた。


「神器が壊せるっていうのは驚きだが、まあ、それは事実だったんだろう。その後、南の国は急速に力を失っていった。北の国は、逃げていた王族が戻ってきたことで独立運動が起きて、無事に領土を取り戻した。以降、その地域に戦争は起きていない」


 皮肉な話だ。

 大きな犠牲を払って初めて、両国は争うことの愚かさを知ったということなのだろう。


「これが番外編の一つ。で、もう一つ。番外編とは言ったが、お前たちにとってはこっちが肝の話になる」


 鋭い視線に二人は背筋を伸ばす。


「北の国の大神官一族の、その後の話だ」


 サイラスが、ミアを見ながら話を始めた。



 戦争のきっかけを作り、長も失った一族は、地位も財産も、そして国をも捨てた。

 同時に一族は、あるものも捨てた。


 それは、攻撃魔法。


 一族は、子々孫々に至るまで攻撃魔法は使わないと誓ったのだ。

 一族は、生き残った者と生まれてくる子供たちに、ある封印を施すことにした。それは、攻撃魔法の発動を抑えるためのもの。本人の意思とは関係なく、一切の攻撃魔法を使えないようにするための封印だった。


 しかし、その誓いは一族を苦しめることになる。


 膨大な魔力と魔法の才能。それらと引き替えにしたかのように、一族には武術の才能がなかった。

 ずっと魔法に頼ってきた一族が、身を守る手段を失った。

 それなのに、溢れ出る魔力がよくない者たちを引き寄せる。

 賊や権力者、そして魔物。

 徐々に数を減らしていった一族は、いつしかこの大陸から姿を消していったのだった。



「自業自得というには、ちょっと残酷な結末だよな」


 小さくため息をついて、サイラスが言った。

 フェリシアがうつむく。

 ミアは、ボロボロと涙をこぼしていた。


「さてと、ミア」


 涙でぐじゃぐしゃのミアを、サイラスが呼んだ。


「いよいよ俺の話も終わりになる」


 涙を拭いて、ミアがサイラスを見た。


「その一族が元々住んでいた北の国。その国の民には、外見上の大きな特徴があった。その一族も、当然その特徴を持っていた」


 サイラスが、ミアを見る。


「金色の瞳と金色の髪。お前と同じ色だよ」

「……はい?」


 ミアの口が、ポカンと開いた。


「で、その一族が得意としていた魔法があった。それが光の魔法だ」


 口を開けたまま、ミアが固まる。


「俺の父親がな、若い頃に、一族の末裔を助けたことがあった。で、さっきの話を聞いた。そして、あることを託されたんだ」


 ミアを見据えて、サイラスが言った。


「もしまた一族の者と出会い、そしてあなたが必要だと思ったその時には、その者の封印を解いてやってほしいってね」


 ミアからフェリシアに視線を移して、サイラスが聞く。


「あったんだろ、不思議な痣が」

「ありました」


 掠れた声でフェリシアが答える。

 喉がカラカラだったことに気が付いて、フェリシアは慌ててカップを持ち上げた。


「おたくの社長に送った手紙には、詳しいことは書かなかったからな。驚くのも無理はない」


 今回二人が遠くウロルにサイラスを訪ねたのは、マークの指示によるものだった。


 もしミアの背中に不思議な痣があったら、自分のところに寄越してほしい

 詳しいことは、ミアに話す


 サイラスの手紙を読んだマークは、ミアとフェリシアを呼んだ。

 マークに言われて、フェリシアがミアの背中を見る。そして、フェリシアは痣を見付けた。

 驚く二人にマークが言う。


「その痣が何なのかは分からない。だが、その意味を確かめる価値はあるだろう」


 詳細不明なサイラスの手紙。それでもマークは、サイラスを信じた。

 そうして二人はウロルへと飛び立ったのだった。


「手紙がちゃんと届くか心配だったから、あんな曖昧な手紙になっちまったが」


 サイラスが微笑む。


「手紙は届いた。社長はお前たちを寄越した。あとはミア、お前の意思次第だ。封印を解くかそのままにしておくか、お前が決めてくれ」


 そう言ってサイラスは黙った。

 ミアは、相変わらず固まったままだ。


「ミア……」


 心配そうに、フェリシアが肩に触れる。

 途端。


「サイラスさん!」


 叫びながらミアが立ち上がった

 驚くフェリシアを見向きもせず、サイラスを睨むようにしてミアが言う。


「私を解放してください!」


 気迫のこもった真剣な顔で、ミアが言った。


「私は、守りたい人たちを、守りたい!」


 その目を真っ直ぐ見つめ返し、フッと小さく微笑んで、サイラスが言った。


「分かった。じゃあ、隣の部屋で服を脱いでくれ」

「ええぇっ!」


 ミアが大きな声を上げる。

 フェリシアが顔を赤くする。


「優しくしてやるぜ」


 いたずらっ子みたいな顔で、サイラスがにやりと笑った。



 その後、無事ミアの封印は解かれた。

 緻密に描かれた魔法陣と、フェリシアも驚く長い呪文。羊皮紙の巻物を見ながら解呪の儀式を行うサイラスは、まるで戦場にいるかのような気迫に満ちていた。

 儀式が終わり、背中の痣が消えたことをフェリシアが確認する。


「何にも変わらないような気がするんですけど」


 何となく物足りないという顔のミアに、サイラスが言った。


「ここで試すなよ。お前のアホみたいな魔力で攻撃魔法を発動したら、この家が吹っ飛ぶくらいじゃ済まなそうだからな」

「そんなことしませんよ!」


 頬を膨らませるミアを、フェリシアが笑う。


「試すのは、人のいない場所にしましょう。でも、たぶんあなたは、もう攻撃魔法が使えると思うわ」

「そうなんですかねぇ」


 ミアは首を傾げるが、フェリシアはなぜか自信ありげだ。

 フェリシアは感じていた。ミアの魔力の流れの変化。ミナセほどではないにせよ、フェリシアも、魔力の流れを感じられるようになっていた。


「じゃあ、私たちはこれでお暇しましょう」

「え?」


 さらっというフェリシアをミアが見る。


「もう遅いし、サイラスさんは明日朝から仕事なのよ。ヒューリとシンシアが戻る頃には私たちも帰らないといけないし、戻る途中であなたの特訓もしたいしね」

「残念ですが、分かりました」


 本当に残念そうにミアが頷いた。


「ま、そうだよな」


 サイラスも残念そうだ。


「じゃあ、私たちは……」


 そこまで言って、フェリシアがハッとしたように止まる。


「いけない、これを忘れていたわ」


 慌てたように、マジックポーチから一通の手紙を取り出した。


「マークからの手紙です。お時間のある時にお読みください」

「分かった」


 手紙を受け取り、しばらく眺めてから、サイラスはそれを上着の内ポケットにしまった。


「では、今度こそこれで」

「サイラスさん、ありがとうございました」


 頭を下げて、二人は家を出た。

 一緒に外に出たサイラスが、ちょっとうつむく。

 そして。


「ミア。俺は、いつか軍をやめて、冒険者に戻ろうと思ってる」

「そうなんですか?」


 驚くミアに、サイラスが続けた。


「そうしたら、お前に声を掛けるよ。で、まあ、もしよかったら、一緒に冒険者を……」

「サイラスさん!」


 だんだん小さくなっていくサイラスの声を、ミアの大きな声が遮った。


「最低でも三年ですからね!」

「は?」


 びっくりするサイラスに、ミアが言った。


「サイラスさんは、軍でいじめられてる訳じゃないですよね?」

「ま、まあな」

「サイラスさんは、軍に行くのがつらくて仕方がないって状態じゃないですよね?」

「そ、そうだな。そんなことはないな」

「なら、三年は頑張ること。三年間一生懸命頑張って、その時まだ冒険者に戻りたいって思ったら、軍を辞めてもいいです」

「……」


 ミアの言葉に、サイラスは返事ができない。


「自分で選んだ道なんです。自分の行動には責任を持たないといけません」


 年下のミアが、何とも偉そうに言う。


「覚悟と感謝。それを持たないといけません」


 どこかで聞いたような言葉に、フェリシアは呆れていた。

 フェリシアの冷たい視線を気にすることもなく、ミアが言う。


「軍の皆さんに感謝をしてください。覚悟を持って辞めてください。そういう風に生きる人が、私は好きです」


 にっこり笑ってミアが言った。


「じゃあ、私たちはこれで。休暇が取れたら遊びに来てくださいね! あ、でも、しばらく私たちは忙しくなりますので、来るんだったら手紙ください。都合のいい日とかを連絡しますから」


 返事もできずに口をパクパクさせるサイラスに、ミアが手を振る。


「フェリシアさん、お腹が空いちゃいました。何か食べてから帰りましょうよ」


 フェリシアの手を取って、ミアが歩き出す。

 フェリシアが、本当に申し訳なさそうにサイラスに頭を下げた。

 頬をピクピクさせながら、サイラスが手を振る。


「あなたって、天然の男たらしね」

「何ですかそれ。それより晩ご飯です!」


 小さくなっていく二人の背中を見ながら、サイラスがつぶやいた。


「あいつにとって、俺は本当にお子様なのか?」


 がっくりと肩を落とす。

 それでも。


「くそっ、何だってんだ!」


 サイラスが拳を握った。


「ああ、やってやる。三年必死に頑張ってやる。そんでもって、俺は絶対……」


 そしてサイラスは、夜空を見上げて叫んだ。


「待ってろ! 俺は絶対……」


 通り掛かりの酔っぱらいが、酒瓶を夜空に掲げて、微笑みながら言った。


「青春に、乾杯」




 もう一つの封印 了

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