再び面接

「やっぱりこういうほうがいいですぅ」


 ミアが、ソーセージを頬張りながら幸せそうに言う。


「結局ミア、パーティーで何も食べられなかったものね」


 オレンジジュースを飲みながら、フェリシアが笑った。


 ロダン公爵の挨拶の後、歓談が再開した途端に、若い貴族たちがフェリシアとミアのところに押し掛けて来たのだ。フェリシアに対応してもらったおかげでその場は無難に切り抜けられたものの、今度は公爵親子がやってきて談笑となった。


 ロイはかわいいし、公爵はかっこいいし、夫人は素敵だ。

 緊張しつつも楽しく会話をしているうちに、次々と貴族たちが挨拶に来て、何となくその場を離れることができずにいたら、パーティーの終わりの時間がきてしまった。


「むぅぅ」


 ドレスを脱ぎながらむくれるミアに、フェリシアが慰めの言葉を掛ける。


「まあいいじゃない。この後、教会で打ち上げがあるんだから」

「そうですけどぉ。せっかく珍しい食べ物がたくさんあったのにぃ」


 もう一生あんな機会ないかもしれない。

 文句を言いながら腹ぺこで教会に戻ってきたミアは、用意されていた普通の食べ物に、目をキラキラさせながら飛びついた。


 今日は、エム商会のみんなも全員参加している。


「庶民にはやっぱりこれだよな!」


 ミナセの冷たい視線をものともせず、ヒューリがコロッケを手にする。


「社長、飲み物」


 シンシアが、マークのグラスに飲み物を注いでいる。


「まだまだたくさんありますからね!」


 リリアが、お皿を運びながら笑顔を振りまく。


 孤児院の食堂に並んだ料理に、子供たちも歓声を上げていた。参加できるシスターは、フローラも含めて全員参加。院長までもが、穏やかな表情で参加者たちを見守っている。



 打ち上げが始まる直前、院長には、マークから報告がされていた。


「もう大丈夫です」


 その言葉を聞いた院長が、マークの手を握り締めて、静かに頭を下げる。


「長い間、おつらい思いをされてきたことと思います。これからは、くれぐれもご無理をなさらないよう、ご自愛ください」


 穏やかに笑うマークの手を押し頂きながら、院長が、震える声で言った。


「神よ! この方たちを遣わしてくださったことに、心から感謝いたします!」


 教会を悩ませていた問題は、ここに解決をみた。

 そしてもう一つ、未解決だった問題も動き出す。



「ところでミアさん。次の面接はいつ受けるんですか?」


 空いたお皿を片付けながら、リリアがミアに聞く。


「えっ、面接!?」


 ミアが、びっくりしたように聞き返した。


「そう言えば、もう一回受けたいって言ってたな」


 ヒューリがニヤリと笑う。


「いつ?」

「えっと、いつって言われても……」


 シンシアの問いに、ミアは戸惑う。


「あら、もう受けなくてもいいの?」

「あっ、いえ! そんなことはないです!」


 フェリシアは、完全にミアで遊んでいた。


 みんなにいじられて、ミアは目を白黒させている。その様子をニコリともせずに見ていたミナセが、ミアの真正面に立った。


「な、何でしょう?」


 今度は何を言われるのかと警戒するミアに、ミナセが話し始める。


「私は、ミアのことを見下していた。社会経験の少ない、未熟な奴だと思っていた」


 突然の告白に、ミアはもちろん周りのみんなも驚いた。


「だから、ミアがうちの面接を受けた時、落ちてほしいとは思っていなかったけど、絶対に受かってほしいとも思っていなかった」


 ミナセの目は真剣だ。


「ミアは、大好きだったファンの死にも心を折らなかった。教会やロイ様を救うために、命を懸けて戦った。ミアのことを未熟だと思った私の方こそ未熟だったんだ」

「そんな……。私は、ミナセさんよりずっと未熟です。ぜんぜん子供です」


 うつむくミアに、ミナセが続ける。


「私は、ミアのことを心から尊敬する。だから、ミアがうちの面接をまた受けると言うなら、今度こそ、私は真剣に応援するよ」


 そう言って、ミナセはミアの肩に手を置いた。


「ミナセさん……」


 ミアが、恥ずかしそうな、嬉しそうな笑顔でミナセを見る。

 ミナセも、表情を緩めて優しく微笑んだ。


「ミナセって、ほんとまじめだよな」

「そういうところがいいんじゃない」


 ヒューリとフェリシアの会話を、リリアとシンシアがニコニコしながら聞いている。

 その時、マークがさらりと言った。


「ミアがその気なら、今ここで面接をしてもいいぞ」

「えっ、今ここでですか!?」

「そうだよ。今、ここでだ」


 ミアは慌てるが、マークは何でもないことのように澄ましている。


「あれ、冗談よね」

「いいや。社長はたぶん、本気だよ」

「私の時も、突然だった」

「ああ、そう言えばそうだったな」


 小声で話す社員たちの前で、ミアが目を丸くしている。急な展開に心がついていっていないのは明らかだ。

 しばらく目を開いたまま硬直していたミアは、だが何かを決意したのか、拳を握り締めて、マークを真正面から見た。

 そして。


「あの! ちょっと待っててください!」


 そう言うと、急にどこかへと駆け出していった。

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