面接

 ミナセたちから報告があった数日後、マークは院長と話をした。そして、その足でミアのところに向かい、面接の日程を伝える。

 面接は、三日後だ。


「よ、よろしくお願いします」


 緊張しながら頭を下げるミアに、「ではまた」と笑顔で声を掛けてマークは帰って行った。

 横にいたフローラが、ミアに言う。


「私、あなたのこと、分かってなかったかも」


 ロロの実を無事持ち帰ってきたミアは、シスターたちの喜ぶ顔を見た後、そのまま院長の部屋に行って収穫の報告をした。そして、エム商会に入社したいと伝え、院長を驚かせた。

 続いてフローラのところに向かうと、同じ話をする。


「何で、そうなったの?」

「だって、ピンと来ちゃったんだもの」


 ご機嫌のミアを見ながら、フローラはしばらく何も言うことができなかった。



 ここは、臨時面接対策室。

 とヒューリが勝手に名付けた、孤児院の宿直室兼ミアの部屋だ。

 その部屋に、ミアのたっての願いで、ミナセ、ヒューリ、フェリシアの三人が面接対策のために集まっていた。


「明日の面接、絶対に合格したいんです。どうかよろしくお願いします!」


 膝におでこが付くかと思うほど、勢いよくミアが頭を下げる。

 そんなミアを、三人はちょっと困った顔で見ていた。


「対策って言ってもなぁ」


 ヒューリがつぶやく。


「そうねぇ。どうすればいいのかしら?」


 フェリシアが、頬に手を当てて考える。

 二人の反応に、ミアは不安を募らせた。


「あの、私じゃダメなんでしょうか?」


 ちょっと涙目だ。

 そんなミアに、ミナセが笑って言った。


「いや、そうじゃないよ。まあ何て言うか、うちの社長の面接って、ちょっと変わってるんだ」

「変わってる?」

 

 首を傾げるミアに、ヒューリも言う。


「フェリシアなんて、面接するって言いながら、結局何にもなかったからな」

「あら、あったじゃない。面接よりも、もっと濃密な出来事が」

「濃密な出来事?」


 さらに首を傾げるミアに、ミナセが、それぞれの社員たちの入社時の様子を話していった。


「……という訳で、対策って言っても、これといってないんだよ」


 話し終えたミナセが、申し訳なさそうに言う。

 聞き終えたミアは、さっきとは違う意味で涙目だ。


「私、社長さんのこと尊敬します!」


 どうやら感激しているらしい。

 ポケットからハンカチを取り出して、溢れる涙をゴシゴシと拭く。


「ミナセさん。これ、ちゃんと洗って返しますね」

「もうそれ、ミアにあげるから」

「いいえ! そんな訳にはいきません!」


 相変わらずのミアに、ミナセは苦笑い。


「社長さんって、本当に社員の皆さんのことを大切に思ってらっしゃるんですね。私、ますますエム商会に入りたくなっちゃいました!」


 盛り上がるミアが、ミナセに言った。


「私、分かりました! 社長さんに、正直な気持ちをぶつければいいんですね!」


 それに、横からヒューリが答える。


「そう、それだよ。”何でこの会社に入りたいと思ったんですか?”とか、”どんなことができますか?”みたいな質問は、絶対に出ない」

「”ちょっと、走りに行きませんか?”なんて言われるかもしれないわよ」


 フェリシアも続く。


「結局、私たちから具体的なアドバイスはできない。あまり深く考えずに、社長の質問に素直に答えるっていうのが、たぶん正解だと思うよ」


 ミナセがまとめて言った。


「私、何とかなるような気がしてきました。今日はありがとうございました!」


 再び頭を下げるミアに、三人が声を掛ける。


「頑張れよ」

「ミアなら大丈夫」

「応援しているわ」


 こうして、ミアの面接対策は終了した。



 レンガ作りのアパートの前に、一人の女が佇んでいる。


「大きく息を吸ってー、スゥー……、吐いてー、ハァー」


 通りすがりの人が不思議そうな顔をするが、女は気にしない。


「よし! さあ行くわよ、ミア!」


 鼻息も荒く、ミアはアパートに入っていった。



 トントントン


「はい、どうぞ」

「失礼いたします!」


 両手で扉をゆっくり開け、中に向かって一礼。

 部屋に入ったら、両手で静かに扉を閉めて、部屋の奥に向き直る。


「面接を受けさせていただくために参りました、ミアと申します。よろしくお願いいたします!」


 一礼。


「お待ちしていました。どうぞ」

「失礼いたします!」


 ゆっくりとソファまで歩き、入り口に一番近い場所付近に立つ。


「すぐに行きます。お掛けになってお待ちください」

「はい! 失礼いたします!」


 浅からず深からずの位置に座り、背筋を伸ばす。


「ふぅ」


 腰掛けたミアが、小さく息を吐いた。


 ここまでは、ベテランシスターに教わった通り。ここから、普通ではない面接が始まるはずだ。

 部屋の片隅では、社員のみんながミアを見守っている。ミアは、みんなに向かって笑ってみせた。


「私の時よりぜんぜん落ち着いてるな」


 ヒューリが感心したようにつぶやく。


「いい感じね」


 フェリシアも、少し安心したようだ。

 座って待つミアに、リリアがお茶を持って行く。


「どうぞ」


 お茶を置きながら、リリアが笑顔でささやいた。


「頑張ってくださいね」

「ありがとう」


 ミアには、お礼を言う余裕もあった。

 そのままリリアは、シンシアの隣に座る。


「ミアさん、大丈夫そうだね」


 さっきまで緊張気味に座っていたシンシアも、笑顔を見せた。



「お待たせしました」


 リリアが下がってすぐに、マークはやってきた。

 ミアが改めて姿勢を正す。


「お互いに見知った仲です。自己紹介は飛ばしましょう」


 マークが、いつもの笑顔で穏やかに言う。


「はい」


 ミアは、その笑顔でリラックスできた気がした。


「では、いくつか質問をさせていただきます」


 ヒューリの時とは違って、最初にマークが質問を始めた。


「最初の質問です」

「はい」


 ミアが、全神経を集中してマークの言葉を待つ。


 どんな質問がきても素直に

 難しく考えちゃだめ


 少し前のめりになるミアに、マークが言った。


「ミアさんは、どうしてうちの会社に入りたいと思ったんですか?」

「…………はい?」

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