第32話 授業が終われば学校は廃墟。
32 授業が終われば学校は廃墟。
「北中の体育館だ。みんなそこに集まるように」
召集をかけたレディースはまだきていない。
校庭には、乾いた突風が吹いていた。
砂ほこりをまいあげている。砂埃でよくは見渡せない。校門の方角からはだれもこない。だれかくれば、バスケ部の部室がどこにあるか訊くのだが。
もう待てない。待つ余裕はない。体育館の中に入る。アサヤはふいに動悸が高まった。妖気がひたひたと迫ってくる。妖気は霧となり低く漂って渦を巻いている。表情をこわばらせて体育館の中央に飛びこむ。
マヤの緊張はほぐれない。いや、さらに増した。妖霧は濃くなる。
緊迫した動きで地下への階段を探しあて、入口にさしかかった。
邪悪な衝動が、妖気がただよっていた。
あまり強引に迫らない方がいい。
ゆっくりといたぶってやる。
煽り立てられる。
拍動が急に高鳴る。
身体をそっと抱え上げた。
弛緩した少女のからだを床に置いた。
闇を培養した、悪魔のような陰鬱なこころ。
ゆるい時間がすぎていく。
少女のようやく生えそろった真っ黒なオケケをジッと見つめる。
おれの男根が少女のピンクの裂け目をこじあけて侵入するのだ。
まだ性臭のない、膣口にドドメ色に膨張した男根の亀頭部を押しつける。
ピクッと少女が反応した。
「やめて。帰して。家に帰りたい」
「ああ、帰してあげるよ。でも、そのまえに、楽しいことしようね」
男はたけだけしく勃起した男根をそっと膣に押し当てた。
「痛い。イタイ」
ズズット押し入れようとした。狭くてキシムヨウナ肉の穴だ。
そこで、挿入をためらった。
おじけづいたわけではない。
反対だ。
ゆっくりと、時間をかけ、キララの陰部を眺めている。
これかの快楽を思い楽しんでいる。
あまり強引に犯すと、さわがれる。
大声をあげられる可能性もある。
まだ、校舎に生徒でもいたらヤバイことになる。
このとき、天井が、一階の体育館の床がきしんだ。
だれだ。
いまごろだれが歩いている。
それは、マヤが体育館に侵入した音だった。
濃霧のような妖気が渦を巻き、もうもうと地下から吹きだしている。
マヤはいそいだ。
男は少女をひきずった。
まるで、生ゴミでもあるかのようにひきずって、地下室にある焼却炉の搬入口を開ける。
なげこむ。
「ここで、おりこうだから……おとなしく、待ってて……」
殺気を感じてマヤは身をかわす。ビュッと木刀が襲ってきた。
北中の校章入りの灰色のトレーナーを着た中年男が立っていた。
がっしりとした体型で、顔は温和だが横に広がっている。蟹を連想たせる。目だけが異様に光っている。たれ目。いかにも好色といった印象だ。いま打ちこんできた木刀をだらりと右腕に下げている。
物音に気づき体育館の地下を上ってきた者。
その薄暗がりで、待ち伏せていた。そこにいることがごくあたりまえの男。日常のルーティーンといった姿勢でマヤと向かいあっている。
「キサマ! だれだ」
「さあて、わたしはだれでしょう」
マヤはようやくサイコキラ―と向かいあうことができた。姿態にそぐわない、子供のような甲高い声。
「キララを返せ」
「ヤダヨ」
子どものような返事。
「邪魔するな」
「やだ。キララちゃんとオママゴトして遊ぶんだ。お医者さんゴッコするんだ。楽しいよ」
幼い声に聞える。男の発する子どものような声。不気味にひびいた。コイツはやはりおかしい。声と男の体の動きがアンバランスで気持ちが悪くなる。
「体をはって生徒たちを守らなければならない、立場の人間が、なんてことするのだ。おまえはクズだ。人間のくずだ」
「ぬかせ」
太刀筋はみごとだ。本格的に鍛錬してきているのだろう。
「ミホちゃんはぼくと遊ぶの、嫌がったんだもん」
コイツは狂っている。突然、ミホのことを向こうから話しだした。男の狂った内なる声が聞こえてくる。
(ミホちゃんはバカだ。おバカちゃんだった。おとなしくボクノいうことを聞いていればよかったのに――。机に置き去りになっていたボクノのバッチを飲みこんだ。ボクが犯人だという証拠となるバッチを飲みこんでしまった。お腹を裂いてとりださなければならなかった)
そこでイメージが激しくぶれる。
まったく異なったイメージがマヤの脳裏にプリントされていく。
理科室だ。女教師がもだえている。――だれなのだろう。
全裸に剝かれている。――この哀れな女教師は、いまどこにいるのだろう。
この光景はいつ起きたのか?
陰毛が濃い。――目をおおいたくなる。
ふさふさしている。――陰惨な状況。
亀裂から精液がねっとりと逆流している。――いつのことか。
これは、この男の視線だ。この男の記憶だ――いつのことだ。何処だ。
残虐な暴力で犯されていた。――無惨だ。
このヴジョンはリアルすぎる。
レイプされてしまった。もみ消された煙草のように萎縮して女教師は倒れている。ヴジョンが変わった。男の内なる声まできこえてくる。
(ミホ。ぼく興奮したな。ミホ、死んでくれるかな。ボクが解剖してやるよ。お医者さんごっこしょうね。真白なまだ脂肪ののっていない薄くはりつめた皮膚を切った。バッチなんか飲みこむからだ。開腹手術。コウフンした。病みつきになりそう)
このときばかりは――マヤはじぶんのシェクスセンスを呪った。ときどき突発的に発動する超自然的な才能を呪った。見なくていいものまで、見えてしまうビジョン。聞こえてしまう相手の内なるこころの独白。この男のいう『お医者さんゴッコ』幼い児童のたあいもない遊びではなかった。
リアルにからだを解剖することだ。
木刀が襲ってくる。
「どうしたの、あなた。ほかのことに気をうばわれないで」
さすがは、美魔――。マヤの心の状態がよくわかっている。
薔薇の鞭で、男の腕を叩く。
「おお、いたい」
すかさず、マヤが肩から男にからだを打ちつけ、一本背負い。倒れた男は、美魔にまかせ地下に急ぐ。バスケ部の部室の引き戸を勢いよくひいた。だが、キララはいない。
「どこにやった。どこにいる。キララはどこだ」
男が追いかけてきた。
「キラキラ輝くお星さまになったよ」
マヤは夢中で男の首をしめていた。
「やめなさい。なんてことするのだ。校長先生に暴力をふるうのは止めなさい」
飛び込んできた。警官がマヤを制止する。
えっ! この男が、この男が校長なのか――。
「そうか。コイツがそうか。高島か」
だったら、たしかに、この中学の校長だ。
こんな身近に猟奇殺人を犯がいた。
変態殺人鬼。
連続殺人鬼。
が――。
いた。
「やめるんだ」
警官がアサヤの行為を阻止した。
腕を警棒で叩かれた。
激痛。
思わずひるむすきに、男は逃げだした。
反対側の入り口、通路から外に飛びだしていく。
美魔が警官の前に立ちはだかった。
「あなた、追いかけて」
美魔の声を背中で聞いた。マヤは男のすてていった木刀をひろいあげる。
男は焼却炉の赤いボタンを押そうとしている。
なにもかも、証拠隠滅を計る気だ。
あの焼却炉のなかには――。
そうはさせるか。
ふいに追いすがって姿を現したマヤみて動転している。
マヤは着火ボタンに手を伸ばした男の腕に木刀で斬りつけた。
回し蹴りをかました。男は倒れた。
間髪いれず、マヤは焼却炉の扉を開いた。
このとき、背後でフラッシュがきらめいた。
「黒元です。高島のこともバッチリ撮りました」
どっと狭雑物があふれでた。
「すごい」
「生きてるよ。キララちゃんが生きてますよ」
黒元の声だ。
生きていた。
生きている。
呼吸をしている。
赤い『焼却』ボタンを押されて点火していたらと、マヤは体がふるえた。
想像をはるかに超えたモンスターがこの死可沼にはいる。実在している。
キララの五体満足の姿を見てホッと安心した。とたんに、ヒロコたちのことが心配になった。わたしの召集に応えることができないほど大変なことが起きている。
「ミイマ。ヒロコたちの位置は」
スマホのGPS機能でリサーチ。
「廃墟。明神ホテルの方角にみんな動いている」
皆まで聞かず、アサヤはバイクを始動させた。美魔がパックシートに飛び乗る。 警官の追いすがる怒号を無視した。
礼弊使街道を北上する。スピードをだす。肌寒い。板橋宿を通過。「奥の細道」1689年、日光に詣でる芭蕉が曽良と宿泊した宿場町だ。それから100と数年後の1802年この板橋に上州の任侠国定忠治の参謀、日光の円蔵が生まれる。
ヒロコにまだ故郷の歴史を話していない。日本古典が好きなヒロコだ。文学の道を突きすすんでもらいたい。いまどき、死語である文学少女。レディースのリーダー。ヒロコ、いまいくから。待っていてくれ。いまいく。
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