第30話 浮上した犯人らしき男の名は?
30 浮上した犯人らしき男の名は?
「ぼくが……、ぼくが、あのとき……、すべてを話せば……」
「聞かせてもらおう」
「――あのとき彼が、うちの犬飼中学にいたの覚えていますか?」
「だれなんだ」
「そして、いまは安堂ミホの在籍していた北中学にいます」
「それはだれなんだ」
「アイツです」
北川の声にはウラミがこもっていた。
「それはだれなんだ」
「アイツは、ぼくたちの、由香里さんとぼくの、学年主任でした」
「あのとき犬飼中学にいたのか。それはだれだ」
「そして、いまはミホちゃんの在籍していた北中学にいます」
「どういうことだ。なにを知っている」
「ぼくは、聞いたのです。理科の実験室で女性がレイプされている声を、でも恐くて部屋に入っていけませんでした。カギがかかっていたし、そのキ―はいつも学年主任が持っているのを知っていました。学年主任に逆らうことは、恐くてできませんでした。それが……その被害者が由香里さんだとは知らなかったのです」
学校からの連絡があって黒元が死可沼病院に駆けつけたときには、由香里は白い布を顔に掛けられて冷たくなっていた。家を朝出るときはあんなに元気で明るかったのに――。首吊り自殺をしたという由香里の冷え切った手を握っても「お兄さん」と……由香里が起きあがるのではないかと思った。
「あのとき、実験室の外にぼくが立っていたのを由香里さんは気づいていたのです。ほかに残業している男の先生がたはいませんでしたから。ドァの外にいたのがぼくだと思って助をもとめていたのです。彼女とわたしはツキアッテいました。だから……彼女は不甲斐ないぼくに絶望して自死したのです」
北川は感極まって涙をぼろぼろこぼしていた。
おれは、あのとき、なにも知らなかった。
由香里の手をにぎって号泣していた。
「どうしてだ、どうして由香里、おまえが死ななければならなかったのだ。恋をすることもなく。必死で勉強してやっと教師になって勤めだしたばかりだというのに……」
泣いた、泣いているという自覚がなかった、妹と二人だけの家族だった。
「ぼくに、勇気があれば――」
沈黙していた北川がボソッといった。
「もういい。北川さんは十分苦しんだ。それより、妹が恋をしていた。恋人がいたとしってうれしいよ。ただ、ガリベンダケしていて、恋もしらずに死んだなんてミジメ過ぎると思っていたから」
「とがめないんですか。黒元さんは、ぼくをとがめないのですか」
「だから、感謝しているよ。よく話してくれた。これで、今度の事件も、だいぶさばけてきた。それに何人も、行方不明の女性や、女子学生の事件が解明される」
妹は自殺との断定をくつがえらせることが可能だ。いままでも、おれは、妹はだれかに殺されたと思ってきた。それがいまわかる。おそらく、みんな同一犯だ。犯行を犯したのは同じ人物だろう。
「そうなんです。歓送迎会を鬼怒川でやるときも、途中からアイツは女を買いに中座する。そして、ソノ戦果を、アイツはオクメンモナク話しました。今夜の戦果は三人、さいごの女がシマリガよくていちばん味が良かった。なんてのうのうとのろけるやつです。夏季休暇には海外に買春旅行にいっていました。そのときの女との煽情的な性交場面を写真に収め、何百枚もコレクションしていて、ひとりひとりの印象をかきこんでいるノートをもっていて、それをみんなにみせていました。狂ったセックスマシンですよ」
「それなのにどうして」
「そうです。内部告発をするべきでした。なんどもそう思って、苦しみました。公務員の守秘義務をぼくらは誤解しているのです。できるだけ、イヤ絶対に、仲間内のスキャンダルは外部にもらさない。そう信じていましたから――」
「ソイツは、悪魔なのだ」
「お兄さん、誤解しないでください。教員のほとんどは真面目で、すこし保身に偏りがちですが、みんな教育に情熱を傾けているのです。アイツはたしかに悪魔です。悪魔が、たまたま教師になってしまつたのです。教師が悪魔のようなコトをしでかしたのではありません。アイツは悪魔なのです。インキュバスです」
性魔。
淫魔。
悪魔。
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