第29話 プロハイリング

29 プロハイリング


 死可沼署の会議室で第二回捜査会議が開かれた。県警指導で会議は進行されることになった。県警の刑事部長友永が最初に発言した。


「被害者ミホと同じ北中学の同じサンタマリア・レディースのキララこと本間キララの失踪届も受理している。この事案も考慮に入れて会議を進めてください」


 死可沼署の捜査課の係長倉田に質問がふられた。

「初動捜査に遅れはなかったのか」

 倉田が答える。

「安堂ミホの事件を捜査中に同じ北中学、同じサンタマリヤ・レディスのメンバーの失踪届がだされたので、それはないと思います。捜査範囲内でこの事案、本間キララ事件は起きています」


 いくら県警からお偉いさんがきても、こちらは所轄だ。地の利も、市民との面識もある。そのおれたちの捜査範囲でキララちゃんがいなくなっている。どうしてねなにも、つかめないのだ。


「なんの手がかりもまだツカメテいないのですか」

「残念ながら」


 このとき、過去の事件で類似の、ロープで首をつるような事件はなかったか調べていた仲峰婦警が入室し倉田に書類をわたした。

 意外な事実がプリントアウトされていた。ロープによる首吊り自殺が七件あった。ひとりは古い事件だが事業に失敗した男性経営者だ。あとは女子学生。彼女たち五名は全員中学生だった。それに女教師が一名だった。

 

 この過去の事件を知り会議室は色めきたった。

 

 首にロープ。以前から多発していた。黒元は警察からとびだした。


「取材をするなとはいわない。主観的な思い入りで記事を書くな。だから、この事案の取材からははずしたかったのだ」

 

 あの時、デスクをしていた高野に黒元はいわれた。

 

 黒元の妹、黒元由香里(23)が勤務先の死可沼犬飼中学の体育館で首吊り自殺を図ったのは10年前の春、一学期の中間試験が終わったころだった。那須の中学女教師が生徒に刺殺された事件から数年しかたっていなかった。


 黒元はハナカラ、妹の自殺という警察の断定には疑問をもっていた。

 

 宇都宮大学を卒業して最初の勤務校。希望に満ち溢れていたのに、自殺なんてかんがえられない。そして徹底的に取材している過程で、先生同士のイジメがあるのを聞きこんでいた。その段階で、取材にストップがかかった。

 

 黒元は記者をやめた。

 

 過去を回想して、なつかしさがこみあげてきても、妹がヨミガエルわけではない。妹に死なれた。その喪失感は黒元の脳裏に深い傷をのこしている。

 耐えられない。その上、自殺で強引に片付けられた。いくら黒元が「自殺などするわけがない」と否定しても、一介のジャーナリストが司法にタテックには限界があった。

 

 いま黒元はあのときの取材先である犬飼中学に向かった。

 首にロープをかけての自死。あのころは、プロハイリングによる捜査などなかった。だから見逃された。首吊り自殺で片付けられられた。

 

 正面切って、あの当時の職員名簿を見せてくださいというのは、はばかられた。妹が当時つき合っていたらしい北川始がまだ勤務しているのをしっていた。


「北川さん。黒元です。そう、由香里の兄の黒元です」

 北川は快く黒元の依頼を引き受けてくれた。名簿のコピーを持参してくれた。

 黒元は喫茶店「こめだ」の隅の席に北川と向かいあった。北川は十年たってすっかり教師らしくなっていた。毎日話しているので、滑舌もなめらかで、大きな声になっていた。それを低く抑えて「なにかあったのですか」と訊いてきた。


「あのときと同じだ」

「やはり――」北川の顔色がかげった。

「教員のなかに、ミホチャン殺しの犯人がいる」

「まちがいありませんか」

「ああ、確信している。ミホちゃんはロープで橋げたに吊るされていた。妹のときとおなじ手口だ」

「じつは、わたしもそうです。そう思います。当時の職員名簿は持参しました」

「…………」

 当時ということばに黒元は反応してしまって、声がつまった。妹の由香里の顔が目前にちらついた。

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