第20話 廃墟探訪 南魔の赤い屋根の家

20 廃墟探訪 南魔の赤い屋根の家


「あのことは書けませんもの――ね。センパイ」

「啓介。傷はいたむか」

「あんな残酷なことをするものが、この死可沼に住みついているなんて、書けませんよ」

「そうだな。小説でも吸血鬼を登場させるのはかんがえものだからな。リアリティが薄れる。アンリアルだと思われてしまう」

 

 黒元と啓介は栃木新聞の死可沼支局にいた。狭いながらも、ここが啓介の城だ。すっかりくつろいでいる。腕の包帯が痛々しい。ふたりは朝刊を前にしている。橋本老人がお茶をいれてくれた。とうに定年は過ぎているが、事務要員としてのこっている。


「センパイ、ぼくは初めてですよ。じぶんで見たことの半分も報道出来なかったのは。いまでも、昨日から、深夜にかけて目撃したことが信じられません。あのあと、あの少年たちはどうなったのでしょうね。まさかまた死体がでるなんてことないないですよね」

「それより、あのミホちゃんを、あんな残酷な方法で殺した犯人がこの死可沼に住んでいるのだぞ」

「警察にいき、わたしたちが知っていることを話ますか」


 啓介が尋ねる目を向ける。


「それをやったらオレみたいにクビになるぞ」


 啓介の反応は右腕の傷をかかえこむことだった。耐えているのだ。沈黙がおちた。黒元は廃墟ハンターの勘で、東京からやってきた。死可沼は栃木新聞を解雇されるまで、彼の住みなれた街だ。地理的にいえば〈故郷〉だ。その死可沼で少女の虐殺死体が幸橋から吊るされていた。そして――廃墟では怪奇現象に遭遇した。


 人間であって人間ではない吸血鬼がわが街にいる。そんなことが、地元の新聞の記事になる訳がないのだよ、啓介。いまのおれは、週刊誌にルポを載せることができる。それでも、ストレートに吸血鬼の存在を記事にすることはできない。ソンナコトヲスレバ、昨日から体験した事象を煽情的にかき立てれば、常識的な仲間にはクレイジィだと刻印されてしまう。

 

 霊による怪奇現象としてのキリクチでかいてはどうだろうか。黒元もかんがえこんでしまった。どうにかして、死可沼がいま危機的状況にあるのを知らせたい。いやそれはやめたほうがいい。知らせたところで、どうにかできる問題ではない。


「そんなことはありませんよ。センパイなにか方法があるはずです。このままではこの死可沼は、V男が増殖して、街が正常に機能しなくなります」

「手をこまねいて傍観しているだけだと、街が滅びるかもしれないな」 


 啓介のケイタイがなった。アサヤからだった。ミホの火葬場での予定を知らせてよこした。


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