第17話 やっと決まる

 その日のちりこは疲れてはいたが、とても上機嫌だった。


「やったあ!」

 やっと決まった!

 こんなに仕事が決まらないと思わなかった。

 面接先で、あからさまに子持ちである事と年齢で切られるとは思ってなかった。


 だけどやっと小さな文房具屋さんのレジのパートが受かったあ! 


「受かった!」

 本当に嬉しい。

 ずっと焦ってた。


 季節は巡っていた。


 10月になっていた。

 まだほんのり暑い日もあったが今朝は少し肌寒かったよ。


 ところどころ街の木々の葉っぱが色づいてきて落ち葉も目立ってきていた。


 どこからか金木犀の香りがしている。


 私は時々一日だけとか試食販売や本屋さんの棚卸しをやったり内職をやったりしながらどうにかこうにか生活していた。


 慶一郎からどうしても産まれてくる子供のためにと何度も頼みこまれて私はついに離婚した。


 慰謝料は100万円。

 月々の養育費は10万円。


「離婚の養育費としては基準よりはるかに高く納得の値段だろう」と、調停員と慶一郎のゴリ押し。


 私はとにかくもう色々限界だったし何より暮らしていくために必死だった。


 100万円もはじめは嬉しくてでもなるべく手をつけないようにとか思っていたのに、長男の小学校の準備資金とかランドセル買ったりだとか二人の幼稚園の遠足代とかなんだかんだと毎月かかった。


 生きるってこんなに大変だったかな。


 周りには若いとは言われる30代前半だが、20代とは明らかに違う条件の厳しさを感じる。年を取れば取るほど生きづらい。



 あれから勝也先生には会っていない。

 アパートの前に引っ越し屋さんのトラックを見たことがあった。


 引っ越したのかなと少し寂しく思ったけれど、ちりこはそんな風に思う権利はないと軽く首を振った。


 

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