第15話 戸惑い

「私」


 もっと近くであなたと話したい。

 あなたに抱きしめられたい。


 本当はそう思っていたのに。


 来てほしいとは言えなくて。

 あなたに来てほしいのに言えない。


 そのあとが取り返しがつかない気がしてる。


 だめだ。

 そんな恋愛してる余裕はないはずだよ。


 まず定職につくこと。


 それ以外は優先させるべきじゃない。


「ごめんなさい」

「……すいません。そうですよね。迷惑ですよね。でも俺、ちりこさんのそばで、ちりこさんの力になりたいと思ってます」


 ――ちりこさんの役に立ちたい。


 勝也はちりこのためになにかしてやりたいと純粋に思うのだ。


 戸惑う。

 好意は嬉しいしドキドキする。

 でも勝也先生と恋を始めちゃいけない気がした。


 ううん。

 もう恋は始まってる。


 だけど。

 私に遊びとか軽い恋は無理だ。


 きっと夢中になってしまう。

 のめりこんでしまう。


 これ以上は深入りしちゃいけないんだ。


 たとえ、アホ旦那と別れたとしても。


 心に罪悪感のような気持ちがある。

 私は母親としての自分を優先させたかった。


「ありがとう。そんな風に言ってくれる男の人ははじめてかも」

「……話しするだけでも。なにかあったら電話して下さい。もしなにか辛くなったら」



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