第13話 走りだしそうな想い
ときめいていた。
まぎれもなく。
目の前に見える彼と電話越しに話す。
不思議な感じだ。
姿はそこにある。
声は受話器ごしで。
「もしもし」
声が震えた。
「もしもしちりこさん。よかった。電話してくれて嬉しいよ。俺嫌われたかと思った」
「嫌うなんて。そっ、その……お家が近いんですね」
前に私の泣いている姿を見たって。
恥ずかしい。
ちっとも気づかなかった。
変な格好できない。
これからゴミ出しでも気が抜けないなんて思ってる。
「洗濯物濡れちゃいましたね」
「あーははは。でもおかげでちりこさんと話せてるからいいや」
勝也先生はベランダで傘をさしている。
ワタシをミテイル。
「空手教室辞めちゃったんですね?」
旦那からの生活費だけでは空手教室の月謝が払えず辞めることにしたのだ。
二人分の幼稚園代もきつい。
ちりこは独身時代に貯めていた少しばかりの貯金を取り崩していた。
前に学生時代の友達が離婚した時夫婦でもへそくりすべきだよ。
なにがあるか分からないからって言っていたのがなぜだが忘れられず旦那に渡していなかった。
なにか一大事があったら使おうと思っていたのだ。
役に立っている。
「俺があんなことしたから空手教室を辞めたのかと思った」
「えっ。違うの。恥ずかしいんだけどうち別居してるから切り詰めるために辞めたの」
ちりこはあわてふためく。
さらに雨が激しくなった。
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