第12話 偶然

 ちりこは干していた布団を慌てて取り込みにベランダに出た。


「セーフ」


 ちょっと濡れてしまったがこれぐらいなら扇風機で乾きそうだ。


「夕方から降るっていってたのに」


 まあ大丈夫。


 ふと窓を閉めようと視線を上げた時だ。

 ちりこはドキッとした。


「あっ」


 その視線に気付く。


 こんなことって。


「勝也先生」


 ちりこの視線の先に。

 家の向かいのアパートのベランダに勝也がいた。

 

 勝也の方も気付いていた。


 じっとこっちを見ている。


 勝也の手から洗濯物が落ちた。


 雨に濡れているのにかまわずちりこを見ている。


『でんわしてください』

 勝也は電話してとジェスチャーをしながら口を動かした。


 聞こえるはずはないけれどちりこに伝わってほしい。


 声が聞きたい。


 ちりこは電話を慌てて取りに行った。


(電話しても良いの?)


 そう心に問いかけながら。



 


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