彼女は恋をしてみたいようです

優木

プロローグ

 大学1年の春、僕はサークルの勧誘のために僕に声をかけて来た先輩に心を奪われた。二つ返事で見学に行き、その場で入会した。


 1年かけて、かわいい後輩の立場を築き上げながら2年生になり、先輩は誰とも付き合っていないことが分かった。そして、告白した。良い返事がもらえるという確信なんて無かった。むしろ、今は断られたとしても、僕のことを意識してくれるようになればいいとすら思っていた。


 しかし、先輩の返事はそのどちらでも無かった。


「私ね、恋をしたことないの。だから君の気持ちは受け止めてあげられない。」


 僕の、「初めて声をかけてもらった日から、好きでした。付き合ってください。」という、ありきたりな告白への答えだった。イメトレは数パターンほどしていたのだが、そのどれにも当てはまらない返事に僕は戸惑った。


 混乱した僕は思わず、

「じ、じゃあ僕とデートしましょう」

と言ってしまった。


 ここまできたら後に引けない

「恋人ごっこの様なことをしたら、恋がどんなものか分かるかもしれないですよね、僕を使ってください。」


 どうかうんと言ってくれ。僕は必死の思いで先輩を見つめた。先輩は困ったように笑っている。

 そして静かに、

「……じゃあ今度の休み、遊びに行きましょうか」

そう言った。


 どうやら、僕は告白の返事を保留にし、すぐに振られる悲劇を回避したようだ。これは一世一代の大勝負だ。デートのお試しでも何でもして、先輩に「付き合うっていいな」と思ってもらうんだ。



 僕はそう意気込んでいた。


 

 今日という日を迎えるまでは。




 ニヤリと笑って先輩が言う。


「さあ、次回はどこにいこうか?後輩くん?」


これは、先輩と付き合いたい僕の、試行錯誤の記録である。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼女は恋をしてみたいようです 優木 @miya0930

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る