第5話 暗がりに先を見る

酒場のあの暗さが好きだな

灯りがなんとも言えない丁度よさだ

ひとりで酒を飲んでいる

他の客も通夜みたいな表情で飲んでいる

右には腕に注射の痕が目立つ客

左には煙草をふかす体格のよい客

正面にはカウンターを挟みマスターが

ふとマスターと目が合う

あなたの目には深い闇があるね

マスターの一言に俺は機嫌を損ねる

金をカウンターに置いて出ようとした

待て外には今出ない方がいい

マスターの言葉に俺はなぜだ? と応える

メスのライオンが狩りの獲物を探しているからだ

俺はそれを聞いて座っていたイスに戻る

ひとりの客がこう茶化す

よし我が輩がそのメスライオンを退治しよう

そう言って勢いよく外に向かったはいいもののそいつは一発の銃声で死体となって店先に座り込んでいた

俺は朝になって店を出た

わずかにまだ空は暗い

しかし明るい

死体の上着から金と宝石を頂戴して歩き始める

俺は宝石を換金するか悩んで

愛する人の顔を思い浮かべたのちに

やはりその宝石はメスライオンたちの欲しかったものではないと知って

宝石を力一杯、波止場から海原へと投げた

メスのライオンなんてどこにもいやしない

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