第30話 法的措置

  今回のミッションの依頼主は、政府だ。

 ミッション後の確認に警察関係者が来る

 予定なので、しばらく洋館周辺に逗留する。

 

 ミッション前に聞いていた話も含めて少し

 解説しよう。みな宿営地に戻り、テントを

 張りなおして、夕食の時間だ。一缶だけだが

 麦酒も支給された。ミッション後のこの

 時間はなんというか非常に気楽だ。

 

 今回の重要人物というのは、ヤースケライネン

 教国の教皇、ではないが、その教育係を務める

 立場の人間だったらしい。

 

 表立って国をまとめていく教皇に対し、その

 教育係は、教皇が政策を決めていくうえでの

 思想的裏付けを担っていた、まあ簡単に

 いうと裏で全てを動かしていた人物のひとり。

 

 その人間が、イゾルデ王国内の、反出生主義

 の聖地で資料を得ようとしていた。それも、

 不法入国のかたちで。

 

 ラスター共和国からの強い要望もあり、その

 者を保護しよう、ということになった。

 軍などが大掛かりに動くと逃亡されるおそれ

 もあるため、冒険者旅団が利用されたのだ。

 

 その反出生主義の資料がそこに集中している

 という状況をオンラインで流していたのも、

 ラスター共和国からのアイデアらしい。

 教皇の教育係はそこでまんまと引っかかった

 わけだ。

 

 結局洋館周辺の探索で誰も見つからなかった。

 今後もこの件に関するミッションが出るかも

 しれない。

 

 

  惑星セトはなぜこのように冒険者たちが

 活躍する土地になってしまったのか。

 

 惑星セトは、半獣半人座星系の中で、太陽系側

 から見て最も遠い位置にある恒星付近にある。

 人類が移動都市で半獣半人座星系に到着し、

 そこから徐々に新たな構造都市を建設する

 力をつけて、宙域を広げていく。

 

 移動都市が到着するまでの間の移動速度は、

 宇宙船などと比較すると遅い。ある程度

 移動都市が半獣半人座星系に接近した段階で、

 多くの宇宙船が先を争って飛び出していった。

 

 そのうちのひとつが、惑星セトに到達して、

 独自に居住可能化を施した。もともと惑星

 セトは人類が居住できる状態にかなり

 近かったこともあり、早い段階で惑星に

 移住できた。

 

 その人たちが、様々なアンドロイドを持ち込ん

 だり、生物実験の結果を野放しにしたり、塔や

 洞窟を造ったりして、町周辺以外は危険な

 機械や生物がうろつく状態となった。

 

 大雑把にはそのように推測されている。

 

  翌日、面白い展開があった。

 宿営地で、パリザダ・ルルーシュのシキガミ

 が、10人の冒険者の接近を告げていた。

 おそらく洋館の増援だ。

 

 降伏した私兵6名の暗殺を狙っている可能性

 もあるので、その6名を隠したうえで、

 一計を案じる。洋館付きの料理人に言い

 含めた。

 

 料理人以外は増援が来るまでいったん廃砦に

 避難していることにする。料理人は近くの

 集落出身の出なので、戦力と見られておらず、

 最悪留守番中に何かあっても問題ない。

 

 そこで睡眠薬入りの食事を出してもらう。

 少し酒も出す。シャマーラ・トルベツコイ

 にも料理人として加わってもらい、給仕

 しながら情報を聞き出す。

 

 その10人の到着は昼過ぎの中途半端な時間

 であったが、昼食もまともにとっていなかった

 ようで、すぐ食事となった。

 

 そして、簡単に引っかかる。すぐ寝込んで

 しまったので、あまり情報を聞き出せなかった

 ようだが、ある求人で集まって洋館を護衛する

 ために来たようだ。スケジュールが急に前

 倒しになって急いで到着したらしい。

 

 彼らが寝て拘束されたあたりで、警察関係者が

 到着する。その冒険者10名を、少し気の毒な

 気がしたが、引き渡した。

 

 まず、冒険者法第3条の個人冒険者の届け出が

 済んでいないものが数名いることがわかった。

 そして、冒険者法第64条第3項の、旅団と

 しての届け出も済んでいなかったらしい。

 

 どちらもオンラインや電話ですぐできる。

 個人届け出が済んでいない者のうち、数名が

 軽い前科があった。

 

 そして、個人届出が済んでいる者の中にも、

 過去に冒険者として違反行為を行っていた

 者がいた。あまり質のよくない冒険者集団

 だったようだ。

 

 全員男性で、シャマーラ・トルベツコイに

 セクシュアルハラスメントを行おうとした

 数名が、裏に連れていかれて睡眠薬が

 効いてくる前に眠ることになったという

 話もあとで聞いた。

 

 魔法は使わずに眠らせたとか。

 

  今回のミッションは、全て特殊なドローンに

 よって撮影され、ニコリッチ商会で動画編集され

 て配信される。我々は、ミッションによる

 報酬の金額もさることながら、この動画配信に

 よる収入が大きい。

 

 それは、遠く太陽系やその中間都市にまで

 数年かけて届く。編集がうまいのか、そういう

 体験があまりできない環境なのか、けっこう

 な人気があった。

 

 玄想旅団の個々の重要な技術の部分は、うまく

 編集で隠されている。あと、映像技術だ。

 例えば、前衛3人が使う強化されたとはいえ

 木製の武器は、全て金属性に修正される。

 

 浸透打を打つ瞬間は、うまく誤魔化されて、

 打ち方が動画を見る人には詳しくわからない

 ようになっている。まあ、見たところで、

 そもそも浸透勁さえふつうは打てないので

 真似は出来ないと思うのだが。

 

 そのほかにも、それぞれのキャラクターが

 かなり脚色されている。例えば、双子の

 クノイチなどは、映像上では化粧もして

 非常に愛想のよいかわいい二人になっている。

 

 ミッション中に別で動画を撮ったりしており、

 状況を説明したり、冒険者不思議発見という

 クイズ番組と連携して、クイズを出すシーンを

 撮ったりしている。

 

 したがって、たまにだが、大きく勘違いした

 入団希望者というのもやってくる。他の

 旅団の面接をひとつでも受けていればそういう

 勘違いは無くなるのだが。

 

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