第31話 動く煉瓦

  オップダール集落周辺のミッションを

 終えて、いったん旅団の本拠地へ帰る。

 イゾルデ王国の首都、セーデルハムンが

 玄想旅団の本拠地だ。

 

 数日の休暇と準備ののち、すぐに旅立つ。

 玄想旅団は、シーズンオフを設定し、

 本格的な休暇はそこで集中して取る。

 

 イゾルデ王国内、最北の町のひとつ、

 レクスビクまで、第3戦闘配備、ニコリッチ

 商会の馬車で移動だ。ミッションエリアは、

 そこから4日の位置で遠いが、今回は

 レクスビクに商会の支店がある。

 

 今回のように、安全なエリアが続く場合、

 馬車などの乗り物で移動可能だ。たいてい、

 ニコリッチ商会の支店がある場所へは、

 馬車でも移動できる。まれに支店がある

 けれども途中で危険なエリアもある。

 

 そういう場合も、最短距離は危険だが、

 回り込めば馬車も使える。支店への輸送

 は迂回して行われる。

 

  旅を始めて3日目、ナムソスという町を

 通過しようとした時だ。街道は町はずれに

 あるが、町の中心部のほうで、なにやら

 悲鳴と地鳴りのようなものが聞こえる。

 

 いったん馬車を停めて状況を確認する。

 今回は大型の馬車3台に分譲、最後の

 一台にはヤク2頭と馬が載っている。

 

 町の中心部へ行ってみると、ゴーレムと

 呼ばれる、体長5メートルほどの、レンガ

 様の装甲を持ったアンドロイドだ。

 

 町の町長らしき人物がいたので、すぐ

 対応を聞いてみる。ぜひやってくれとの

 ことなので、我々が前面に立つ。

 

 町で一番大きくて高い建物である町の

 庁舎を攻撃していた。それに対し、挑発

 を行う。同時に、サムライのセイジェン・

 ガンホンと、ホビット族のガンソク・

 ソンウが、庁舎の高い位置に上る。

 

 このゴーレムは、わかりやすい弱点がある。

 頭部に、コントロール装置がむき出しで

 付いており、これを外せばよい。

 

 セイジェンとガンソクが高所で何か譲り合い

 をしているように見えたが、ガンソクが

 行くらしい。ちょうどゴーレムが背を向け

 たので、腰部あたり目掛けて飛ぶ。

 

 無事に飛び移り、頭部までよじ登って、短剣

 を抜き、むき出しの装置のわきに短剣を突き

 立てる。何度かやると、装置が取れて落下し、

 数秒かけてゴーレムの動きが停止した。

 

  実はこのゴーレム、玄想旅団でも過去に

 何度か処理している。こんなものがなぜ

 こういった町中に出てくるのか。

 

 惑星セトは、3割の面積を占めるひとつの

 超大陸と、7割の面積を占める海で構成

 される。陸地表面の、どこを掘っても、

 遺跡が出てくるのだ。

 

 そして、それらの遺跡は、イゾルデ王国の

 ものではないという。王国が出来る前、

 惑星の居住可能化が始まる前に、一度

 全惑星規模で文明が起こり、そして滅んだ

 というのだ。

 

 遥かな昔、町を守るために作られた巨人。

 

 そして、それを証明する人骨の化石も

 見つかっている。しかし、もしそうだと

 した場合、移動都市を使用せず、宇宙船で

 少なくとも何千年かかけて航行したことに

 なるのだ。

 

 宇宙船による長期間、つまり何百年や

 何千年の航行というのは、昔も今も非常に

 難しいとされている。科学的、理論的には

 可能であったとしても、精神がもたない

 のだ。

 

 ただし、人類の中に、そういったことに適した

 遺伝子を持った者がいる可能性はゼロでは

 ない。ただ、試して確認するのが大変な

 だけだ。

 

  ガンソク・ソンウの活躍でゴーレムを

 片づけた我々は、無報酬でその町を去る。

 まあ、しっかり動画は撮影されているので、

 ネタをもらっただけでもう充分だ。一部

 損壊した建物の修理も必要だろうし。

 

 その町からさらに二日行ったところに、

 拠点となるレクスビクの町がある。古い

 趣きの街並みだ。寒冷地特有の風景。

 

 と言っても、町中はまだ初秋ということも

 あり、積雪などはない。ここから四日かけて

 いく行程の、丁度半ばあたりから、標高が

 高くなり、すでに積雪がある。

 

 レクスビクに夕方ごろ到着すると、そこの

 民宿に泊まる。ゆっくり休んで、翌朝出発だ。

 ここからは、第2戦闘配備で徒歩となる。

 

 目的地は、雪原の塔だ。町から四日の距離で、

 塔の攻略自体も三日ほどかかる見込みなので、

 ニコリッチ商会正社員の冒険者6名の旅団が、

 途中まで随行する。

 

 追加のヤク2頭を連れて、塔のある場所まで

 サポートしてくれるので、そこで補給満タンの

 状態でスタートする。つまりそこから8日ほど

 活動できる。寒冷地装備なので、普段よりも

 活動可能期間が少し短い。

 

  一行は、500メートルほどの距離を

 取りながら、三隊に分かれて進む。一日分

 進んだあたりから、だいぶ気温が下がって

 くるが、既に寒冷地装備なのでまったく

 問題ない。

 

 レクスビクの町は、まだ緑も多く、周囲に林

 もあるが、町から離れて北へ進むにつれて、

 景色はどんどん変わっていく。

 

 初日に草原地帯だったのが、二日目は荒れ地、

 そして、積雪が見え始める山の麓からは

 また高い木々。そこから少しづつ標高が

 上がっていく。

 

 3000メートル級の山脈がそびえ立つが、

 その山頂ではなく、少し迂回ぎみに標高

 2000メートルほどの峠を越える。塔は、

 峠を超えて少し下った先にある。

 

 街道から脇に逸れると、それなりに危険な

 地帯、生物に行き当たるだろう。少し

 偉そうな言い方になるが、玄想旅団が手を

 出すほどの相手はいない。中級冒険者

 たちが挑むレベルだ。

 

 二日目以降から、標高は高くなるが、非常に

 なだらかに上がっていく。平地と比較すると、

 登りのため負荷が高まったのを感じる。雪道

 が始まるとさらに厳しくなる。

 

 先頭をあるくのは、ジャイアント族の

 アントン・カントール、雪国出身だ。そして、

 その次を歩くのはドワーフ族のスヴェン・

 スペイデル、同じく雪国出身。ほぼ人の通ら

 ない、積雪10センチほどの道を、踏み

 しめていく。

 

 積雪は、進むごとにその深さを増していく。

 

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