第21話 奇妙な洋館
これは、一か月ほど前の話だ。
我々は、奇妙な洋館の前にいた。
洋館の前にいた、というのは、もしかしたら、
誤解を与える表現かもしれない。正確には、
その洋館から距離2キロの位置に、本部を
設置した、といえる。
荒れ地に大きなテントが二つ。ヤクが2頭、
地面に打ち込まれたペグに繋がれている。
小雨。そのテントのうちのひとつに、12名
の人間が集まっている。
第3種戦闘配備でそれぞれ思い思いの格好。
丸い形状で中心部が高くなっているテントの
内側の各所に、モニター用の布が張られて、
何かを映し出している。
人間族のおれとセイジェン・ガンホン、
ドワーフ族のスヴェン・スペイデル、ジャイ
アント族のアントン・カントール、
アンデット族のイスハーク・サレハ、そして
エルフ族のシャマーラ・トルベツコイの、
いわゆる現地組は、テントの端のほうにいる。
テントの中央、モニター類が一番見易い
場所に陣取るのは、ドワーフ族の女性、
一級調理師で一級戦士、この玄想旅団の団長を
務める、オリガ・ダンだ。
身長160センチ、体重110キロ、スヴェン
にも負けない体格を持ち、年齢はこの団で
最高齢の33歳。間違いなく戦闘にも長けて
いるが、実際はかなりの頭脳派だ。
宣言しておこう。おれがもし生まれ変わって、
もう一度冒険者のグループに所属すると
したら、間違いなくこの玄想旅団を選ぶ。
そう思わせるだけのものを玄想旅団が持って
おり、その大部分を作り出しているのが、
このオリガ・ダンだ。
編み込んだ髪、大きな鼻、太く刻み込まれた
皺、以前スヴェンから、オリガはドワーフ
としてかなりの美人であることを聞いたが、
おれにはよくわからない。
しかし、リーダーとしては際立っていた。
外部の人間で玄想旅団に所属したがる
冒険者はたくさんいるが、内部にいる
人間のほうがその良さがよくわかる。
その右横にいるのが、一級エンジニア、
ノーム族の女性、ヨミー・セカンドだ。
科学的知識、魔法デバイスの知識などを
豊富に持つ。
身長150センチ、体重60キロ。27歳。
それでもノーム族の女性としては、大きい
ほうだ。戦闘には、まったく向いていない。
魔法デバイスなどの仕様を理解して使うのは
うまいのだが、とにかく現場に向いていない。
実際に使うのは、すべてシャマーラに
任せてある。
雰囲気も、他の人間が何かしら殺伐とした
専門家の空気を醸し出す中で、一人ポップな
浮いた感じだ。話すのも好きで、喋り出すと
止まらない。
しかし、内容は何か技術的な難しい話で、
しかも彼女はサイエンスフィクション好きな
こともあり、存在しない技術の話も混ざって
くる。そうなると適当に相槌を打つしかない。
隊では、科学的な面からのデータ分析、作戦
立案などを行う。彼女の解析で弱点や方法が
判明し、やっと実際の作戦行動に移る、という
ケースが多い。
逆に彼女から答えが出ないケースでは、
ミッションをスキップすることになる。
玄想旅団は、所属メンバーがそれぞれ
役割を持っているが、職業はなんですかと
聞かれると、それは、会社員となるだろう。
現在は、12人ともニコリッチ商会の契約社員
で、冒険にあたっては商会の全面的バック
アップを受けている。
冒険者ギルドというものがあるが、冒険者の
自治団体、あるいは冒険者組合、といった
位置づけである。
現在この惑星上では、企業が冒険者ギルド業
を行っており、ニコリッチ商会はその
最大手のひとつである。そして、もう一つは
企業である、ボタック&リー商店が提供する
ギルドで、このふたつが二大ギルドと
なっていた。
それ以外にも、企業が提供するものではない、
通常のギルドが、大小さまざまに存在した。
だが、冒険者の中には、ギルドに所属しないで
探検を続ける者も一定数いる。
探索地域を決める際、まずオリガ・ダンが
ニコリッチ商会と相談する。この大陸の
範囲が広大なため、ミッション単発で
地域を移動していると、非常に効率が悪い。
ある程度出来そうなミッションが集中する
エリアを選択する。ニコリッチ商会の
情報は、かなり詳細まで得られている場合も
あるが、ざっくりとしかわからない場合も
あり、時間経過で状況が変化もする。
もちろん、ひとつあたりの報酬が莫大な
ミッションで攻略可能なものが見つかれば、
それだけでも現地へ向かう。
この仕事は、待つ時間が半分を占める、
と言ってよいだろう。そして、残りの
半分のうちのほとんどは移動だ。
現地で戦闘している時間は、1割もない。
移動してから現地で状況を待つケースも
多い。町で待つ場合は、冒険の準備や
トレーニングなども行う。
現地で待つ場合は、ひたすら英気を
養うだけの場合もある。
玄想旅団の考え方は、確実に勝てる状況を
作ってから戦う。それまでは、徹底的に
情報をとりながら、待つ。
待っても駄目な場合は、諦める。けして
無理をしない。
攻略エリアを決める際、自分たちが有利に
なりそうな、マクロ的な流れも見る。
天候、政治、経済、様々な観点から、
状況が良くなりそうならば、挑戦する。
すでに攻略可能なミッションは、とっくに
冒険者で溢れているケースが多い。
どちらかというとそういうところを避けて、
戦略的に対象を決める。
ただし、高額報酬で冒険者が溢れていても、
難易度のせいで全く進んでおらず、そこに
対して自分たちの攻略見込みがある場合
などは、当然狙っていく。
今年、旅団としてはほぼトップクラスと
なった。今後そういったケースが増えていく
だろう。
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