第20話 助け合い、譲り合い

  組織論、というものがある。

 今回の場合でいうと、ミクロ組織論にあたる

 だろうか。

 

 別の言い方をすると、現場理論、最前線に

 おける組織の考え方、となる。太陽系内

 の球技団体競技を例に挙げるとわかりやすい。

 

 最高のメンバーを全て揃えたチームは、

 意外と勝てないのだ。守備を度外視して、

 攻撃に特化したチーム、というのは論外だが、

 きちんと役割分担ができていても、

 期待のパフォーマンスが出ない。

 

 チームワーク、というのもあるだろうが、

 最大の原因は、他のメンバーを頼る心が

 生まれてしまうことらしい。

 

 誰かがやってくれる。自分が頑張らなくても、

 これだけのメンバーが居れば、誰かが

 引っ張ってくれるはずだ。

 

 玄想旅団に入ったころは、まずそこを

 徹底的に叩き込まれる。どんな相手であって

 も、自分のベストを尽くす。自分が何とか

 する。

 

 新規加入メンバーがある際は、ミッションの

 難易度も抑えているからだろう、最初の

 うちは恐怖感と戦いながらも自分で能動的に

 動くことを強いられる。

 

 なので、最初のころは、戦闘中に何度か後ろ

 からスヴェンに前方へ蹴り出されたものだ。

 

  こっちの余裕を見破って、シャマーラ・

 トルベツコイのするどい瞳が、攻撃の手が

 ぬるい、と言っている。

 

 ジャイアント族のアントン・カントールは、

 相手の攻撃がこん棒しかないことと、回避が

 容易であることから、盾を背中に背負い

 なおして、両手でサスマタを操っている。

 

 右側から回り込んでいるドワーフ族のスヴェン

 ・スペイデルも、盾を背中に、両手に強化

 木製の槌だ。

 

 おれも、右手の盾をベルトに繋いで背中に

 回す。左手の特殊木製棍棒は、片手でも

 威力が出るが、両手のほうが効果的だ。

 

 巨人はさきほどのこちらからの攻撃により、

 明らかにモードが変わっている。攻撃速度

 が上がっているが、それでも打ち下ろした

 こん棒が、アントンには当たらない。

 

 その踏み込んだ巨人の右足に、踵方向から

 特殊棍棒を打ち込む。インパクトの瞬間の

 グリップの力の込め方が肝心だ。

 

  もともと、武術を専門に行う家に生まれ

 たのであるが、おれは少し毛色が違った。

 家に伝わる、浸透勁と呼ばれる特殊な打撃

 法があるが、これを武器に応用した。

 

 この特殊な棍棒は、内部に粘性の液体を

 封じ込めてある。そして、浸透勁と同じ

 効果の打撃を行うことができるように

 なっていた。

 

 この浸透打は、装甲の上からでも内部を

 破壊できる。物理学でいう、共振を応用した

 作用だ。

 

 うまく浸透打が入ると、ドッという鈍い音と

 感触があり、打った際の反動が少ない。

 これは、生物はもちろん、生体組織を使った

 アンドロイドだけでなく、機械のアンドロイド

 にも効果があった。

 

 時には、効果をあげるために、打撃対象の

 特性に合った液体の種類や粘性を選び、

 棍棒に封入する。ときに複数本用意する。

 

 そして、反対側の左足には、スヴェンの

 木槌による打撃が入る。ただの木槌に見える

 が、雷撃付きだ。生体だと動きが少なくとも

 数秒止まる。

 

  動きの止まった巨人の、4つの補助の目

 すべてに腐食弾が決まっていく。その

 発射源が、隊の左後方、うずくまる人影だ。

 

 地面と同じ色のコートを着ているが、光学迷彩

 のような高価なものではない。色を自分で

 設定するタイプのコートだ。

 

 立ち上がると、身長190センチ、体重75

 キロの痩せた体、青白い皮膚、見開かれた瞳、

 25歳、アンデット族のイスハーク・サレハ。

 

 一級銃士の資格を持ち、狙撃の腕を買われて

 玄想旅団に所属している。シャマーラの

 範囲攻撃魔法が若干決め手に欠けるのに

 対して、イスハークの狙撃は対象をひとつ

 ひとつ確実に仕留めていく。

 

 スヴェンの木槌による雷撃で動きが鈍った

 のちの、おれの巨人の右手への打撃に、

 その大きなこん棒を地面へ落とす。

 

 視界を失い武器を失って、怒り狂うがどう

 しようもない巨人。本部へ連絡し、捕縛網を

 持ってきてもらう。

 

 アンドロイドというのは、このセトと呼ばれる

 惑星上では貴重で高価なものだ。今回の場合の

 ように、操作仕様が伝わっていないため、

 破壊せざるを得ないケースが結構ある。

 

  隊の最後方、変わった紺色の鎧、槍、

 腰に野太刀と脇差、背中に大弓、この隊の

 6人のうちの最後の一人。

 

 今回は、特に出番もなく、バックアップ役

 だった、サムライのセイジェン・ガンホンだ。

 全く動かないので、起きているのか立ったまま

 眠ってでもいるのか、瞳は閉じている。

 

 身長は2メートル弱、体重は90キロ、特殊な

 家庭で幼いころから鍛え上げられた体だ。

 飛び道具も含めて様々な武器を使うが、

 もっとも危険なのは、居合だ。抜く手が

 見えない。

 

 対人ミッションの場合、武器の作動に反応して

 シールドを張るタイプの防具があるが、彼を

 前にすると、シールドを出しっぱなしに

 する必要がある。近接で居合を使われると、

 シールドの反応が遅れるからだ。

 

 当然シールドの出しっぱなしは消耗戦になる。

 だいたいは数分でバッテリーが切れるので、

 それまでに判断しなくてはいけなくなる。

 彼がいることで、逃げるのか、勝負を決める

 のかの判断を強要できるのだ。

 

 彼の野太刀の鞘は特殊な素材で出来ており、

 これも相手からすると厄介だ。特殊な探査

 装備でもない限り、中の金属を検知できない。

 知らない者は、棒状の武器と勘違いして、

 刃物であることに気づかない。

 

 気づいたら、切られている。

 

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