第22話 怠惰な人々

  科学的だろうが、非科学的だろうが、

 危険を回避してくれるなら、どちらでも

 いい。

 

 科学的アプローチのみを使う冒険者ギルドや

 旅団が消えていき、あるいは基本方針の

 変更を余儀なくされた。

 

 どれだけ科学的に、ロジカルに説明され

 ようが、どうも取れない不安というものが

 ある。しかし、たいていそれは、うまく

 説明のしようのない不安だ。

 

 そういった時に、その不安の立場に立って

 くれる、あるいは、明確に解消してくれる

 人物がいる。オリガ・ダンの左隣りに

 いる人物。

 

 アンデッド族の女性、パリザダ・ルルーシュ。

 身長185センチ、体重70キロ、20歳。

 アンデッド族の中ではかなりの美人らしいが、

 オリガ・ダンが美人、という話よりは、

 多少わかる。

 

 彼女は一級霊能士であり、そしてシキガミ

 使いの専門家だ。シキガミとは、小型の

 探査ドローンであるが、一般の探査ドローン

 と比較して、直観力を引き出すための

 工夫がしてある。

 

 化学の専門知識もあり、どちらかというと、

 科学的および非科学的の、ハイブリッド

 アプローチを行える。

 

 彼女も現場での戦闘には向いていないが、

 攻略前の現地確認などで、けっこう危険と

 隣り合わせとなる。

 

 そのミッションの歴史的背景なども踏まえた

 上で、彼女の探査の結果、彼女が厳しいと

 いう意見を出すと、どれだけおいしそうな

 報酬が提示されていたとしても、諦める

 場合がほとんどだ。

 

 諦めない場合とは、戦闘アンドロイドを

 利用できるケースなど、自分たちが

 危険を冒すことなく確認できるケースだ。

 

 そして、たいていは、想定外の何かに

 より、身代わり達が消えていく。

 

  打ち合わせ中、少し暇なので、種族に

 ついて少し説明しておこう。まず、

 アンデッド族であるが、彼らは、別に

 死んでいるわけではない。

 

 その身長の割に痩せた体型と、皮膚の

 色、表情や毛髪の抜け具合から、

 まるで死んだ人のよう、ということで

 アンデットなどと名付けられてしまった。

 

 確かに彼らは、統計を取ると、より怠惰で、

 積極性がない。しかし、これはどの

 種族もそうだが、けっきょく個人次第なのだ。

 

 そういう目で見てしまうと、イスハーク・

 サレハなどは確かにいつもサボっているように

 見えるのだが、誰がどれぐらい努力している

 なんてのは、本人にしかわからない。

 

 ちなみに、アンデット族も含め、ここに

 いる12人全員、ポレクティオ・サピエンス

 だ。つまり、ただの人間である。

 

 太陽系や、中間都市には、旧人類がまだ

 たくさんいると聞く。半獣半人座星系では、

 全員が遺伝子検査をやるわけではないので、

 よくわからないが、ほとんどいないの

 かもしれない。

 

 これは伝説であるが、その昔、そういった

 姿かたちが好きな人々が集まり、集団を

 作り、そして何万年もかけて、そのような

 種族が生まれてきたという。

 

 人は、なりたい姿に進化していく、

 というのだ。

 

 ファジャン教のテルオリ神を祭る進化派の

 中にそういう考え方をもつ人が多い。

 

  少し話が逸れたが、打ち合わせに戻ろう。

 オリガ・ダンの正面に、3人のホビット族が

 座る。

 

 そのうちの二人の女性、イズミ・ヒノと

 ナズミ・ヒノだ。二人は双子で、155

 センチ、55キロ、17歳。

 

 彼女たちも、特殊な家庭で幼いころから

 クノイチとして育てられてきた。その

 特徴は、特徴のないところ。

 

 女性としては比較的短めの頭髪、そして、

 ぼんやりした、どこにでもいそうな顔。

 情報収集を主な任務とするクノイチに

 とって、この顔は非常に重要らしい。

 

 まったく殺気を感じないこの二人であるが、

 刺客という意味では、こういうタイプが一番

 危ないらしい。例えば、この二人は毒物を

 扱うのが得意だ。

 

 ある一定距離まで近づけば、ほぼ相手を

 仕留められるという。ミッションによっては、

 この二人に任せて、我々の出番が全く

 ないものも、ざらにある。

 

 今回の対象の洋館について、どこまで内部を

 確認する必要があるのか、現地で探査デバイス

 の使用が必要か、潜入にどれだけのリスクが

 あるのかを綿密に打ち合わせている。

 

  そしてもう一人、ホビット族の男性、

 ガンソク・ソンウ。身長160センチ、

 体重55キロ、29歳。

 

 一級補給士の資格をもつ。今回のミッション

 は、ニコリッチ商会の支店がある町も近く、

 補給の必要性はほぼない。

 

 補給は馬を使って町と行き来するなど

 して行うが、馬の姿が見えない。玄想旅団の

 中で、一般に入手が困難な光学迷彩を

 使用するのは、このガンソク・ソンウと、

 彼の馬だ。

 

 団長のオリガ・ダンは、ミッションに

 あたって、補給をかなり重視している。

 現地調達が可能なケースはゼロではないが、

 食糧や水が手に入って、それが安全である

 と確認できるケースは稀だ。

 

 ガンソクが任務を全うできないとき、それは

 即、旅団の撤退を意味する。

 

 ちなみに、今の旅団は、一頭のヤクで

 6人が約10日間生活できる。現在は二頭

 持っているので、12人が約10日間

 ミッションを遂行できる。

 

 それ以上必要な場合、ガンソクが馬の往復で

 補給したり、可能であればヤクも連れて

 いく、ただし、ヤク用の光学迷彩装備はない。

 

 補給は食料や水だけでなく、魔法デバイスの

 燃料補給、探査ドローン用のバッテリー、

 武器防具の補充など。

 

  パリザダが送った探査ドローン、シキガミ

 が送ってくる洋館内部の映像を見ながら、

 突入方法を打ち合わせる。

 

 洋館敷地内から玄関までは、落とし穴の

 存在が指摘された。それ以外はとくに

 備えがなさそうだ。落とし穴は、石でも

 持っていって落としておく。

 

 突入は明日の明け方前。

 

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