第13話 和の国

  ユーラシア大陸の東端、海を隔てて

 弓なりに続く島々。そこは現在、ヤマト州

 と呼ばれている。

 

 宇宙世紀102017年、地球は、

 アース連邦というひとつの国が管理して

 いた。数百年前、地球の人口が20億人を

 切った時、統一化の話が出てきた。

 

 現在は、地球上に約10億人。そしてその

 3割が、3か所の海上都市に住む。そこは、

 アース連邦の直轄領だ。

 

 それ以前に存在していた国々は、ほとんど

 全て州となるか、合併されることとなった。

 ただし、連邦内の州は、それごとに憲法

 を持つ。機能的には国に近い。

 

 ヤマト州は、陸上での移動住居の使用を

 禁止している。アワミチ、という島の

 マウントポイントに、移動住居ラウニを

 置き、モノレールで本土へ渡る。

 

 いったんモノレールから鉄道に乗り換えて、

 20分ほどいったキタという街で、

 ホテルに泊まる。

 

  ヤマト州の州都は、ここから東へ30

 キロほど行った、コトという場所にある。

 コトが政治の中心であり、キタが商業の

 中心だった。

 

 そしてこの周辺地域に、約900万人の

 人々が住む。しかし、かつてはここは

 州の中心ではない時期があった。

 

 ヤマト州がまだ国だったころ、宇宙世紀

 開始直後ごろだろう、太陽からの宇宙線を

 エネルギーに変える発電所が、事故を

 起こした。

 

 大規模な火災事故により、太陽の宇宙線を

 受ける設備から有害な物質がたくさん

 飛散した。問題は、時の政府が、そのこと

 を隠したことだ。

 

 まず、事故そのものが隠された。そして、

 飛散しているものが、有害であることが

 隠された。それは、目に見えず、臭いも

 発しない。

 

 事故が起きたのは、ヤマト州のより北東の

 地域だ。そこに、同タイプの発電施設が

 集中していた。火災事故以外にも、

 経年劣化で汚染物質が漏れだすことが

 あとで明確になった。

 

 やがてそこは住めなくなり、首都も

 今の位置に移転した。多くの人が、海上

 都市ムーへ移転していった。

 

 移転した人々は、どちらかというと先進的な

 考え方を持った人々で、保守的な人々が

 元の国に残ったという。

 

  学会発表が行われる会場まで、電車で移動

 する。平日の最初の日だからか、もの凄い

 混雑だ。ぎゅうぎゅう詰めの中、ピカクス

 という駅にたどり着く。

 

 何か特別な日だからであろうか、それとも、

 まさか毎日こんなことを繰り返しているの

 だろうか。

 

 宇宙空間には、もっと狭い土地に、もっと

 多くの人が住む場所がたくさんある。

 しかし、交通機関がこんなことにはならない。

 

 住む場所のマッチングや、仕事のマッチングが

 行われるからだ。そのうえで、移動するひと

 の量を計算して、余裕のある交通機関の

 容量を用意する。

 

 私鉄なども連携して、どこでも行われている

 ことだ。第3エリア最下層の、一両編成と

 いうのは、客が増えるときには当然車両も

 増える。

 

 これだけの数がいて、利用者から何の不満も

 出ないのだろうか。それとも、この州は

 未だに何かしら情報統制を行っているの

 だろうか。

 

 しかし、そんなものはネットワークに接続し、

 少し調べればわかる話だ。これだけ多くの

 人間が、能動的に調べない、ということは

 ありえないことだ。

 

 少しそら恐ろしい気持ちになりながらも、

 目的地へ到着する。

 

  苔学会は、毎年場所を変えながら行われる。

 これも仕事のうちで、費用は本部から補填

 される。今回は特に自分で発表するわけ

 でもなく、聞いていればいい。

 

 と言って、何か新しい内容もない。情報は

 ふだんからネットワークで確認している

 からだ。学会は、研究者同士の顔合わせの

 意味合いが強かった。

 

 昼食の時に、同じ月の第3エリアから

 来ている研究者に聞いてみた。だが、

 あまり結論は得られない。けっきょく、

 この民族は、混んでる電車が非常に好き、

 ということになった。

 

  古くからあるやり方を続ける、というのは

 他でもよくあることだ。例えば、遊牧の文化

 を持っていた民族は、文化保存のために、

 一部ではあるが、古い生活様式を続ける。

 

 といっても、装備などは最新式のものを併用

 する。なので、やってみると意外と快適

 という話も聞く。

 

 ただ、そういう場合、古い生活様式ながらも、

 やってみると面白い。という面がある。

 文化保存の意味もある。

 

 電車をぎゅうぎゅう詰めにすることも、

 文化保存なのだろうか。そして、最新の

 装備を使えば、意外と快適になるのだろうか。

 

 ということを、この地域出身の研究者もいる

 ので、直接聞いてみればいいのかもしれない

 が、少し怖いので今回はやめておく。

 

  学会も終わり、夜の繁華街に一人で出る。

 食べ過ぎに注意するよう促す看板が多い。

 クラブホビーという店に入ってみる。

 

 ここは、カニという甲殻類専門の店だ。

 鍋形式の料理を頼む。月の第3エリアでも、

 カニは食べることができる。しかし、

 味はまだこういう店で食べるもののほうが

 美味しいと感じる。

 

 宇宙空間の、広大な養殖池では、まだ

 惑星上の海の環境を再現できていない

 のかもしれない。

 

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