第12話 海底都市

  報告と実家から地球へ戻ってくる。

 そして、今回は海上都市ムーでしばらく滞在

 する。いや、ムーの下、と言えばいい

 だろうか。

 

 海上都市ムーに移動住居を置いて、水中

 シャトルで海底都市ムーへ向かう。

 地球上で、都市と呼べる規模で海底に居住

 空間があるのは、ここムーだけだった。

 

 30分ほどで、海底のプラットフォームに

 到着する。エアロックを抜けると、

 それなりに広い場所に出るが、宇宙都市と

 比較すると、天井が低い。

 

 都市は、50キロ四方に広がっているが、

 緊急時に備えて、1キロ四方で隔離

 できるようになっている。将来的には、

 この隔離サイズを大きくしていく。

 

 都市内には工業ユニットや農業ユニットも

 備えていて、人口は200万人。

 自給自足も可能だ。

 

 だが、都市の拡張を継続しており、その

 拡張に使うための資材、特に鉄鋼などの金属

 については、太陽系外からのものに頼って

 いる。

 

  ここで、知り合いと会う。

 工業区域の一画にある、喫茶ハイテイ。

 店の扉を開け、その人物の座るテーブルへ。

 天井が低いが、そのテーブルのある位置は

 さらに低く、少しかがんで入り、座る。

 

 タンディウィ・サットン、月のラグランジュ

 点第3エリアの実家の近所に住んでいたが、

 ここに仕事を見つけて移ってきている。

 母と同じ仕事をしていた。

 

 先々週、胆石という病気を患ったが、今は

 チャイニーズトラディショナルメディスンに

 よって痛みも無くなっているそうだ。

 

 2年前、それまで5年間付き合ってきた

 相手が、なかなか結婚を申し込んでこない

 ので、自分から申し込んだら断られた。

 

 それがきっかけで、第3エリアを離れる決意

 をしたそうだ。それまでは、ディサの母も

 パートタイムで働いていた、漬物屋で

 働いていた。

 

 そして、ここ海底都市で見つけた仕事も、

 漬物屋だそうだ。海底都市ムーの漬物は、

 地上や宇宙でもけっこう評判だった。

 それもあって人手が足りておらず、今非常に

 忙しいらしい。

 

 海底都市の農業区画で作られた新鮮な野菜を、

 深海の水から作った塩で漬ける。濃い目の

 塩分と、重めの重石により、味に慣れる

 までがたいへんなのだが、いったん慣れて

 しまうと癖になる。

 

 肉体労働者、スポーツ選手や部活動をやって

 いる学生などに人気があった。

 

 最近はレパートリーを増やし、あっさり目の

 味付けのものも出している。すぐ海上都市

 ムーから、静止軌道のショップや月の

 ラグランジュ点第1エリアなどで売るのだが、

 これも観光客などに人気が出てきた。

 

  喫茶店を出て、昼食をいっしょに摂る

 ことにした。さっきの喫茶店だけかと思った

 が、やはりテーブルのある場所のほうが

 天井が低い。

 

 圧縮麩の専門店で、麩のチャンプルーを

 食べる。店の内装がどうしても気になって

 しまうが、味はいい。

 

 昼食後にタンディウィと別れ、この都市に

 ある研究機関を訪ねる。苔の研究を行って

 いる研究室があるのだ。

 

 海水中の苔の研究なのだが、正確には、

 今のところ海中に生息できる苔はいない。

 今後の品種改良で、海中に生息できる

 苔ができないかの研究だ。

 

 苔の種類によって、海水雰囲気に強いもの

 もいれば、弱いものもいる。そこをヒント

 に、品種改良と実験を続けるらしい。

 

 わざわざディサのために発表用のスライド

 も用意していて、詳細を説明してくれる。

 研究設備などもひととおり、見せてくれた。

 

 情報交換を充分に行い、今後ディサの研究で、

 実験条件に海水雰囲気というのも追加する

 ことにした。

 

  夕食は一人で深海魚専門店に行ってみる。

 そこで、アンコウのコースを頼んでみた。

 まず、アンコウという魚のかたちをした皿に、

 刺身が盛られてくる。

 

 ここまでリアルにこの魚の形を皿に作り込む

 必要があるのか疑問だったが、味はうまい。

 

 他にもいろいろな深海魚がメニューにあるの

 だが、生きている姿の写真も大きく載って

 いる。それを見ると、まだ食べる気が起き

 そうなのがこのアンコウのみだった。

 

 そして、アンコウ鍋。ここに入っている、

 あん肝と呼ばれる部位が、まさに絶品だった。

 小皿で、あん肝の酒蒸しも出てくる。

 

 最後にいろいろな部位を天ぷらにしたもの

 が出てくる。これも旨い。が、少し腹に

 重い気もした。さすがのディサも腹いっぱい

 となる。

 

 ここは、ボム・オグムも連れてこようかと

 思う。ボムなら頼めば他の魚にも挑戦して

 くれるかもしれない。

 

  店を出て、ホテルへ向かう。今日はこの

 海底都市で一泊だ。

 

 タンディウィに夕食もどうか聞いてはみたが、

 夜は人と会うので難しいらしい。なんでも、

 60台の男性で、小型の潜水艇乗りだという。

 軽い精神疾患も持っているという。

 

 ホテルに入ると、フロントまでは普通の

 ホテルだ。しかし、部屋に入ると、やはり

 そうだ。全体的に天井が低いが、寝室は

 もうかなり低い。ベッドに寝ると、天井に

 手が届きそうなレベル。

 

 風呂も少し変だ。風呂桶が、やたら狭く、

 そして深い。案内を見ると、深く沈むことが

 できます、と書いてある。そこが売りらしい。

 

 なんとなく分かってきた。この狭い空間を、

 どうやら売りにしてるのだ。この圧迫間、

 しかし、どれほど需要があるのか。

 

 朝起きると、やはり寝汗をかいていた。

 

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