第9話 沖合の魔物

  釣りを実際にやってみるのは、二人とも

 初めてだ。

 

 ボム・オグムのほうは、実家にいるときに

 ゲームでかなり鍛えたらしい。オンラインの

 釣りゲームがあるらしいが、

 

 専用のロッドを使用し、その魚を釣る際の

 引きの重さを再現してくれるというのだ。

 地球上の、東南アジアと呼ばれる地域では

 かなり釣って、慣れている。ゲーム中では。

 

 その成果は、装備面の意識でも違うようだ。

 反重力ライフジャケットなのだが、収納が

 たくさん付いたものを着ている。キャップに

 サングラス。

 

 ごついロッドが2本に、小さいのが1本、

 ディサ・フレッドマンが、ごついののうちの

 1本を取ろうとすると、最初は小さい方を

 使えという。

 

 そして、ボムのほうは、ごついほうを2本とも

 ホルダーに固定して使うようだ。移動住居

 ラウニは、魚影を探して沖合に移動している。

 

  ボムは語る。

 どんなに優秀な釣り人がいたとしても、道具が

 良くなければ、釣れない。例えば、まっすぐ

 な針を使っていれば、まず魚は釣れない。

 

 そして、どんなに優秀な釣り人が、どんなに

 すごい道具を持っていても、魚がいなければ、

 魚は釣れない。絶対に釣れないという。

 

 そして、優秀な釣り人とは、魚のいる場所に

 行って、その魚の習性をよくわかっている

 人だという。魚ごとに、道具も釣り方も

 違ってくるというのだ。

 

 したがって、まずは自分の側の準備をしっかり

 やる。まずは道具を愛するところから始める。

 今回持ってきたのは、レンタルだ。

 

 そして、魚のすべてを理解する。釣ろうと

 している魚の気持ちになる。魚を知り、

 己を知らば、百釣危うからず、らしいのだ。

 最高のタックルに、最高のポイント。

 

 ボムがこういう趣味を持っていたことを

 知ったのは、つい最近だ。ボムが好きな男の子

 が釣りを好きかどうかわからないので、

 あまり公表しないらしい。

 

  そのボムがプレイする釣りゲームは、かなり

 リアルなものらしく、現実世界でも、準備の

 手際がいい。つまり、準備段階からそのゲーム

 内ではシミュレートされているというのだ。

 

 船の探査モードを苔から魚に切り替えている。

 いいポイントに到着したので、まずは撒き餌

 をする。島で買ってきたものだ。

 

 ボムが狙うターゲットは、アジだという。

 実家でもアジは買ってきて捌いたりする。

 しかし、そのアジとは少し違うという。

 

 最大で体調2メートル、体重100キロにも

 なるというのだ。そんなものを、このテラスに

 引き上げて大丈夫なのか。

 

 地球上でできる釣りとしては、最高峰の部類

 らしい。初心者がそんなものを釣ってしまって

 大丈夫なのか。ただ、あまり食用にならない

 ようなので、ディサは食べる用の魚を

 釣らないといけないようだ。

 

  それぞれのロッドの糸の先に、疑似餌を

 取り付ける。が、どう見ても、生きている

 小魚にしか見えない。光沢や滑り具合。

 

 ボムが使う大き目の2本のロッドには、少し

 大き目の疑似餌、ディサが使うほうには、

 それより少し小さめの疑似餌を使う。小魚の

 疑似餌とは別に、虫の疑似餌も持っていたが、

 小魚のほうを選んだ。

 

 釣りというものは、釣り針に気をつけないと

 いけないイメージがあったのだが、疑似餌に

 きちんと収納されて、ターゲットのバイト

 の際しか出てこないという。

 

 つば広の藁を編んだ帽子を被っていても

 針が引っかかることはなさそうなので、

 そのまま疑似餌を投げ入れる。

 

 そして、そのまま待機だ。とりあえず、

 ロッドをホルダーに引っ掛ける。だいたい

 いつもどれぐらい待つのか聞いてみたが、

 それはしてはいけない質問だという。

 

 だが、ディサは、この釣りという遊びの、

 釣れるまでの何もやっていない感じが

 嫌いではない。時間を、贅沢に使っている

 気がするのだ。

 

 リクライニングに寝転んで、ひたすら待つ。

 1時間ほどして、ボムが浮きの位置を

 もう一度確認するために引き上げる。すると、

 疑似餌が変形していた。

 

 どうやら、疑似餌の針飛び出しがマニュアル

 操作になっていたのと、バイト警告音が

 オフになっていたようだ。

 

 確かにさっきから、何度かロッドがつんつん

 動いていたのに気づいてはいたが。

 そういうことか。

 

 疑似餌が変形したので、取り換える。変形

 したものは、時間が経つと元に戻るらしい。

 

  そして、待つこと数分、全てのロッドに

 反応が来て、警告音がなる。さっそくロッド

 を握る。教えられたとおり、強く引き過ぎ

 ない。

 

 魚の動きに逆らわず、いなす。引く力が

 弱まった瞬間を逃さず、糸を巻く。これが、

 正面から魚の力を受けてしまうと、糸が

 切れる。

 

 安くて細くて切れない糸があるのではないか、

 と聞いてみたが、それはあまりしては

 いけない質問らしい。真の釣り人は、

 切れる糸を使うというのだ。

 

 生活がかかっている人は、なんの迷いもなく

 切れないタイプを選択するらしいが。

 

 数分戦ったのち、自ら網にいれ、ロッド

 からリモートで針を外す。そして、網から

 ボックスに移して確認する。これは、カツオだ。

 食えるやつだ。

 

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