不死の終焉

頭部を粉々に吹き飛ばしてやった。

半不死とはいえ、流石に全身の中枢である脳を完膚なきまでに破壊すれば、復活は不可能だ。

俺が勝つ方に賭けていた奴らからは歓声と拍手が、負ける方に賭けていた豚どもからは罵声とブーイングが、同時に聞こえてくる。

今日の仕事も問題なく完了だ。

不死身の俺がデスマッチをやって負けるはずがないのに、豚どもはなんて愚かなのだろう。


ファイトマネーがたっぷり入るはずだが、テロでも稼いでいるので正直必要ない。

テロは改造に適合する検体がどれだけ手に入るかで稼ぎが違うのが難点だが、ってて楽しい。

この身体の改造費用は完済しているから、いつこの施設を抜けたって咎められないらしいが抜けたくない……いや、抜けられない理由がある。

この身体に改造されて、一方的に相手を殺す悦びに目覚めてしまったからだ。

外でれば殺人犯として捕まるのは避けられないが、この施設にいれば上手く後始末をしてくれるから、実質殺し放題だ。


……もう、人を殺さない生活など考えられない。

明日からもドンドン人を殺して、稼いで、食って寝る。

酪農家が家畜の命を糧にして生きるように、俺は人間の命を糧に生きていくのだ。


それにしても、勝者を宣言する放送があまりに遅い。

会場全体がざわつき始めている。

少しのノイズ。

ようやく放送が始まる様だ。


『皆様、試合はまだ続いております。引き続き、試合をお楽しみ下さい。』


「はぁ?」

静まり返る会場に俺自身の声がやけに大きく聞こえた気がした。

先程までより観客席が騒がしい。

天井にある審判用のカメラがある辺りを見上げて叫ぶ。照明が眩しくて見えないが。

「おい!アイツを見ろ!脳天が跡形も無くなってるんだぞ!そんな状態になってまともに再生できるはずが……!」

『そうでしょうか?』

「何?」

その時、観客席から悲鳴が上がった。



アア

マブシイ

ボクラ ハ ダレダ?

ココ ハ ドコダ?

その時、何か手応え――というのも妙だが――があってから一気に記憶が戻った。

『――す。引き続き、試合をお楽しみ下さい。』

静寂。

「はぁ?」

モルトスの声が聞こえた。

つまり、俺は意識を失ってはいたが負けにはなっていないらしい。途中からしか聞いてなかったけど。

確か、目を潰されて……口に硬いものを突っ込まれたと思ったら、意識がなくなったんだよな。

想像したくないけど、頭吹き飛んでたってこと?

嫌だなぁ。そんな状態からでも生き返るなんてな。

とことん人間辞めちまったんだな。悲しい。

「おい!アイツを見ろ!脳天が跡形も無くなってるんだぞ!そんな状態になってまともに再生できるはずが……!」

つまり、アイツは、モルトスは頭を狙えば死ぬ――?

『そうでしょうか?』

「何?」

俺はムクリと起き上がった。

観客席から悲鳴が聞こえる。

「死にながら聞いてたぞモルトスゥ。お前は頭をやられれば死ぬらしいな?」

「お、お前!どうして生きてる?!」

モルトスがジリジリと後ろに下がる。

「どうして、とはお言葉だな。お前も不死身だろうに」

パクパクと口を動かすモルトス。

その目は完全に幽霊を見たかのようだった。

「正直言って、別に勝ち負けはどうでもいいんだ。人殺しもしたくないしね」

本心だった。

モルトスは真意を掴み切れていないようだった。

「でもさぁ。散々やられてやられっぱなしってのも――嫌、でさ」

モルトスの表情が強張り始めた。

「俺、お前を人間扱いしないことにした」

モルトスが叫びながらナイフを突き込んで来る。

俺は左胸でナイフを受け止める。無事なのは分かってるから。

目を剥くモルトス。今更だろ。

不死身と戦ったことがないのか?コイツは?

モルトスを突き飛ばす。

リングロープまでよろめいていく。

「わ、わかった!いくらだ!いくら欲しいんだ?!それで手打ちにしろ……して下さい!」

命乞い?

デスマッチだろ?

俺はデスマッチを望んでないから、モルトスが一方的に押し付けたルールのはずだ。

お前が選んだルールをお前が反故にするのか?

イライラする。こんな奴にされるがままだった俺自身に。

俺は両手にそれぞれ一つずつ武器を拾う。

モルトスを殺す、武器を。

「待ってくれ!俺の負けでいいから!待って下さい!お願いします!」

右手の手榴弾のピンを抜く。

「俺が欲しいのは――」

モルトスの首を掴んで引き寄せ、左側頭部に手榴弾を押し付ける。

「お前の命だ」

爆ぜる手榴弾。

俺の右腕とモルトスの頭蓋骨を吹き飛ばす。

リングに横倒しになるモルトス。

即座に左手の手榴弾のピンを抜き頭蓋骨の内側に手榴弾を押し込み、手を引く。

頭蓋骨が徐々に再生しながら、手榴弾を呑み込み、もろとも弾けとんだ。

飛び散る脳漿と脳髄。

花火のように。

モルトスはビクンと痙攣してから、それきり動かなくなった。


俺の、勝ちだ。

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