ツアーガイド
前世紀的なデザインの
「今日はマルドゥック市に社会科見学にいきまーす!」
HGEVバスの発電用エンジンの音など完全にかき消す車内の高校生――俺と俺のクラスメイト達のざわつきは、バスの座席に付いた手すりを掴んで立つ女性教諭の声もかき消さんばかりだった。
マルドゥック市は世界有数の大都市で、今や観光名所としても有名なのだ。そこに社会科見学に行けるとなれば、落ち着いていられない。
バスの先頭付近に座っていたクラス委員の女子が振り返って、口を開きかけた瞬間、
バシィン!
と凄まじい音が車内に響いた。
一転して静まり返る車内。
ガチ
「マルドゥック市に社会科見学にいきます」
この女性教諭は通称・ガチ
愛嬌のある童顔、スレンダーな体型、明るく人当たりの良い性格、そして、腰から下げられた革製の
これを直接的な体罰以外のあらゆる事に使いこなすことからガチ
「前方に見えてきたのがマルドゥック市です」
車内からも感嘆の声が漏れた。
街の中心部に反り立つ摩天楼は太陽光を反射してキラキラと輝き、その宝石のようなビル群をケーキの飴細工の様なエアカー専用のチューブが取り巻き、さらに華麗に魅せる。
どんな言葉を尽くしても安っぽく思える美しさだった。
街には他にも高層ビルがあり、それらも洗練され見事な造形だったが、中心の摩天楼と比べれば地味に感じてしまう。
名実ともに街の中心にして頂点。
その摩天楼の輝きに魅了されないものがいるだろうか?
街に近づくにつれて、マルドゥック市は様々な表情を見せ始め、車内の面々を楽しませた。
コトノ先生も何か解説をしてくれていた気がするがまるで耳に入らなかった。
やがてバスはガソリン車が行き交う街の一角のバスターミナルに到着した。
到着すると一人のスーツ姿の男性が走り寄ってきた。
観光ガイドだろうか。
その男性が車内に入ってくるとまず、運転手が立ち上がった。
挨拶でもするかと思えば、なぜか顔が引きつっている。
そして、車内のみんなにも姿が見えた。
黒いスーツに人懐っこい微笑み。
手には拳銃。
拳銃を運転手に向けながら、黒っぽいスプレー缶みたいなものから歯で金具を引き抜いて座席の中心に向かって投げた。
誰も彼もが状況を飲み込めないまま投げられた缶を見つめ、そして破裂する。
異臭。
激痛。
吐血。
体中の皮膚から血が流れるのを見たのを最後に視界が奪われた。
灼けるような痛みに抱かれて、やがて意識がなくなった。
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