第18話 烏の処刑

 カラスというのは、どうも悪いイメージを持たれることが多いようだ。

 よく見れば可愛いし、なんと寂しがり屋でもある。

 おのれはカラスと接するのに一番近い距離でいうと、肩に乗ったくらいだ。

 友人は頭に乗られて、大笑いされていたが、己の肩に乗った時にはカッコイイなどと言われた。

 それは中学の時で、田舎ならではだったのかもしれない。

 校内には様々な鳥が入り込んで来るため、ある男子はすずめを両手に乗せて外へ出したり、己やあの友人のように頭や肩に勝手に乗られてそのまま外へ逃がしたり。

 可愛いものだ。

 鳥だけならまだしも、虫が入ってくるのは勘弁して欲しい。

 はちが来るとパニックに陥るし、ゴキブリは掃除用具で捨てられるし、蜘蛛くもは男子共に可愛がられるし、ハエは紐を付けられて遊ばれている。

 コウモリは外に落ちていたりもするが、イノシシが運動場を歩くこともあった。

 動物もまたそこらじゅうで出現する。

 かめだって、かもだって、ヌートリアだって、、、。

 面白いが、これはどうなんだろう?

 カラスは沢山いるが、中には少し特殊な者もいる。

 カラスが悪さをするのなら、毎日話しかけてみるといい。

 いつの間にか、その場所では悪さをしなくなる。

 カラスの鳴き声を真似る必要はないが、実際に鳴き声を真似て仲良くなる者もいた。

 毎日餌を与えれば、そのお礼として何かを持ってくるようになることも海外ではある少女が体験している。

 さて、特殊なカラスのことだが、このカラスには極力触れない方がいい。

 と、いうか会わないのが一番だ。

 見た目で判断が出来ないのが難しいが、そもそも鳥には素手で触るのはあまりよろしくないことを知っているはずだ。

 無邪気な子供はそれを知らずして、こんな目にあった。

 ある三人組はとても仲良しでいつも一緒に遊んでいた。

 学校の帰り道は必ず公園に寄り道して、遊んで帰る。

 それがお決まりで、今日は公園の奥にある雑木林へと足を踏み入れた。

 本当ならいけないのだが、小学生低学年の彼らには、そんなことはどうでもいいし、頭にない。

 薄暗い中を歩いていく。

 一番元気で声も大きい子が、先頭だった。

 何か面白いものがないものかと探しながら歩いていた。

 前方に何かが落ちているのに目を取られる。

 興味津々で走って近寄った。

 真っ黒なそれはなんなのかわからなかったが、つっついても動かない。

 取り敢えず蹴って転がすと、それはカラスであった。

 鳴きもしない、動きもしない、、、ということは死んでいるのかもしれない。

 それをまた落ちていた袋に入れてひこずりながら公園へと戻った。

 そして、そのカラスを袋から出すと、やっぱり先に見つけた子が踏み付けて遊び始めた。

 ぐしゃ、ぐちゃ、と音がする。

 翼は折れて、血肉が抉れ出てきて、元の姿の面影がなくなるほどに、踏んだり蹴ったりを繰り返す。

「うわぁ、気持ちわりぃ」

 誰かが今更そう言った。

 それでも二人には笑顔があった。

 もう一人は、もう帰らなければいけない時間に気付いたか、それとも嫌になったのか、二人に声を掛けてさっさと帰ってしまった。

 今度は遊具にカラスを挟んで、血のついた手で遊具を思いっきり回した。

 バキッとかすかな音でまた、カラスの骨は砕ける。

「処刑してやる」

 そんな元気な声がそれを実行すればするほど、カラスはカラスではなくなっていく。

 そこには一人しかいなかった。

 もう一人は黙って走り去ったのだ。

 たった一人でこれでもかとカラスをその手その足で処刑のつもりで繰り返し遊んだ。

 最後には、近くにあったゴミ箱に投げ入れて、帰宅した。

 翌日も、またその次の日も、その子は一人で帰り、寄り道して、カラスを見つけては処刑をした。

 あの二人はその子とは帰らなくなっていた。

 ある日の昼休憩、その子は二人に会った。

「一緒に遊ぼうぜ!楽しいんだぞ!昨日もな、カラスを処刑してやったんだ!」

 その楽しそうな声が誘ってきても、二人はうん、とは言えなかった。

 話を聞けば聞くほど可笑しい。

 それがわかってしまったから。

 毎日、その雑木林にはまったく同じようにカラスの死体が落ちている。

 それをまたまったく同じように運んで、まったく同じことを繰り返す。

 ただ、それだけの遊びだと。

「可笑しいよ。だって、いっつもカラスがあるなんてありえないよ」

 それを聞いてやっと、その子は振り返ってみた。

 だんだん真っ青になっていき、こう呟いた。

「もう、行かない」

 しかし、その子は今日も同じことをした。

 変わらず雑木林に足を踏み入れてカラスを見つけて大喜び。

 何に気付いたつもりだったのだろうか、同じ言葉を言って、同じことをした。

 中学生になっても、高校生になった今でも続いている。

 抜け出せなくなってしまっていた。

 気付いた頃にはもう遅い。

 その子に友人はいない。

 もう、誰もその子の周りにはいない。

 その子は段々、声も元気も失っていった。

 それでもカラスを処刑する時だけは笑顔が溢れている。

 いつの間にか、その子の姿は誰の目にも入らなくなった。

 それなのに、夕方5時が近付くと、その公園には、「処刑してやる」という声が一度だけ響くのだ。

 毎日、一度だけ。

 雑木林に行けば、同じカラスがそこに居るだろう。

 もし、見つけても、触らないことだ。

 蹴ってもいけない。

 関わってはいけない。

 その子の顔も名前も行方ゆくえもわからないままに、声だけは小さく聞こえる。

 確か、、、カラスが投げ入れられるゴミ箱も、未だにあるらしい。

 さて、どれなんだろうね?

 声が聞こえたその少し後に覗いて回れば、ぐちゃぐちゃになったカラスが入っている、、、かもしれない

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