第16話 華一匁

 小さい頃に、「はないちもんめ」という遊びをしたことがある。

 やったことがない、知らない、というならば、一度皆でやってみたらどうだろう?

 そこそこ楽しいかもしれない。

 子供の遊びだから、恥ずかしいかもしれないが、案外そうでもないかもしれない。

 この遊びは、複数の人間で遊ぶ。

 よって、一人でやる、二人でやる、、、では出来ない。

 2組に分かれて、向き合い、歌を歌いながら前へ後ろへと歩きながら、メンバーのやりとりをする。

 歌の歌詞については、住んでいる場所によって異なるが、一般的にはこうだ。


 かってうれしいはないちもんめ

 まけてくやしいはないちもんめ

 タンス長持ち あの子が欲しい

 あの子じゃわからん

 相談しましょ

 そうしましょ


 値段が銀 一匁いちもんめの花を買う際に、値段をまけて悲しい売り手側と、安く買ってうれしい買い手側の様子が歌われているとされている。

 が、花というのは、若い女性の隠語であるし、これから察するとわかる人もいるだろう。

 一人が一匁を基本とする値段で行われた人買いに起源があるのではないか、と。

 残酷な内容ではあるが、遊びになっている。

 それは、大人では到底歌えない話であるが、子供にとってはどうだろう?

 素直に知らずに遊んでいるんだから。

 きっと、残ってきたのも子供だからだろう。

 ある神社ではそんな遊びが毎日毎日、歌を口ずさみながら行われていた。

 男女混じって、華一匁はないちもんめ

 それぞれの組は手をつないで一列に並んで向かい合う。

 前回勝ったのはこっちだからと、その勝った組はこう歌う。

「か~ってうれしいはないちもんめ」

 歌っている組は前へと進み、相手の組はあとずさる。

 はないちもんめの「め」で片足を蹴り上げる。

 今度は負けた組が「まけ~てくやしいはないちもんめ」と歌って前へ進む。

 その後に交互にこう歌う。

「タンス長持ち あの子が欲しい

 あの子じゃわからん

 相談しましょ

 そうしましょ」

 前後に歩きながらそう歌った。

 歌が終わると、それぞれの組で相談して、相手から誰をこっちの組に貰うかを決める。

 決まった組はこう言うのが約束だ。

「き~まった!」

 そしてそれぞれの組は手をつないでまた一列に戻り、向かい合い、「×××ちゃんが欲しい」と前に進みながら貰いたい相手を披露しあう。

 双方の代表者(もしくは指名された者)がじゃんけんを行い、勝った組の主張通りにメンバーを貰われていく。

 それを繰り返し、片方の組から誰もいなくなるまでやる。

 居なくなったら終了だ。

 また続けるとなれば、最初からだ。

 それを何度もやる。

 子供だから、楽しいだけで終われるが、ちょいと捻れば最後まで残ってしまったら悲しくなるだろう。

 何故って、最後の者は仕方が無く選ばれるようなもの。

 まぁ、そんな考え方が出来ない内が楽しいのだ。

 ある日もそうして遊んでいたら、突然、黒いフードを被った知らない人が近付いてきた。

 そして子供にこう言う。

「ワシも混ぜとくれ」

 子供たちは元気よく、うん!と答えた。

 かってうれしいはないちもんめ

 まけてくやしいはないちもんめ

 そう前後に歩きながら笑う。

「あの子が欲しい」

 じゃんけんで負けた。

 そしたら、黒い人は大きな口を開けて飲み込んだ。

 子供たちはそれでも笑って続けた。

 きーまった!

 ×××ちゃんが欲しい

 あぁ、貰われていくもう一人。

 口の中へ消えていく。

 たった一人が恐怖に震えながら歌う。

 誰もやめない、手が離れない。

 もらわれたくない、食べられたくない。

 あの子が欲しい

 勝てないじゃんけんを続ければ、手をつなぐ隣が消えていく。

 黒い人のつなぐ手が、ドロドロになっていくのが見えている。

 かってうれしいはないちもんめ

 あの子が欲しい

 ついにはそのたった一人になってしまう。

 自分が最後。

 この手を離さなかった二人はもう居ない。

 相談しましょ

 そうしましょ

 このたった一人は走って逃げた。

 きーまった!

 そんな声が追いかけてくる。

 こちらはきまったとは叫んでいない。

 だから、まだ、まだ、、、

 行き止まりにぶちあたる。

 あの子が欲しい

 あの子が欲しい

 あなたが欲しい

 たった一人は最後まで、きまったとは言わなかった。

 目を瞑って黙っていると、いつの間にか居なくなっていた。

 誰も、居なかった。


 たった一人ではないちもんめ

 まけて失うはないちもんめ

 タンス長持ち お家に帰ろ

 答えを待つぞ

 相談終える

 その声待つぞ


 たった一人のきまったを待ち構えて何十年経ったか。

 墓石の下までその声を閉じていた。

 さて、今貴方が「きーまった!」と叫べば、、、じゃんけんでもしましょうか。

 かってうれしいはないちもんめ

 まけてくやしいはないちもんめ

 貴方は誰が欲しいですか?

 黒い人が一体誰なのか、未だにわからず。

 人ではない何か、だったんだろうけど、華一匁を知って食う辺り、もしかすると、、、

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