第13話 氷鬼

 氷鬼こおりおにという遊びを知らない人もいるだろうから、説明を置こう。

 貴方が知っているとしても、ルールが違う場合もあるから、おのれのところでの氷鬼を紹介しようということだ。

 まぁ、他のルールがあるなら是非ぜひ知りたいが。

 いや、冗談だ。

 興味はない。

 氷鬼というのは、鬼ごっこと同じようなものだ。

 鬼ごっこと違うところは、鬼が交代することはまずないこと。

 それと、逃げる側は鬼に触れられるとその場に固まっていなければならない。

 っていってもその場から一歩でも動かないでいればいいだけなので、その場で跳ねていてもいい。

 逃げる側が捕まって氷と化してしまったら、他の逃げる側の仲間が凍った仲間に触れたら氷は溶けて、固まっていた逃げる側は再び動くことが出来る。

 鬼は全滅、つまり全員を凍らせれば勝ちだということだ。

 ゆえに、人数が多い場合は鬼の数も増やしたりするなどの工夫があるといいだろう。

 そういった遊びになっている。

 鬼ごっこであれば、捕まった者と鬼は交代するというルールで動いているが、氷鬼は変われない。

 氷鬼は氷と化すというルールがあるから己はそれを利用して逃げ切ったことがある。

 氷になったフリをするといったことだ。

 これは鬼が複数いる場合が有効となる。

 でなければ、バレる。

 仲間の協力がいるが。

 何故って、助けに来られるとやっぱり終わりだから、もう疲れたんだという顔で座り込んで眺めていればいい。

 まぁ、、、物凄く暇だが罰ゲームが追加された日にはそれに頼る。

 もう一つは、三人で固まって行動することだ。

 鬼の手は二つ。

 一気に三人は仕留められない。

 だから二人が触れられても素早く残った一人が仲間に触れることで、必ず生き残れるといったもの。

 鬼も諦めるだろう。

 これは鬼が一人の場合有効である。

 複数いると、二人で同時に三人仕留められる。

 三人以上で固まると動きづらいし余計目立つ。

 さて、ここまで長ったらしいどうでもいい紹介を読んで貰ったのには、大した理由や意味は無い。

 知っていれば読まずにここまで飛ばして貰って良かったってことだ。

 嫌いかい?

 己は長話が好きなんだ。

 申し訳なかった。

 さてさて、氷鬼の話をやっとしよう。

 鬼が一人、逃げる側が四人いた。

 鬼になったのは、足が遅い子で、中々捕まらない。

 四人は鬼をからかって、手を叩いてこっちだと周りで馬鹿にし始めた。

 鬼は段々やめてしまいたくなってきたが、四人を捕まえる為に頑張って走った。

 逃げて追ってをしている内に、きりが五人を包み込んだ。

 明らかに可笑しい霧の現れ方に四人は驚いたが、鬼はたった一人、視界の悪い中を四人を追って走っていた。

 四人はお互いが何処にいるのか、鬼は一体今何処を走っていて誰を狙っているのかわからなかった。

 ある一人が何かにぶつかった。

 それはひんやりと冷たくて、まるで、、、いや、氷の塊であった。

 ザ、、、ザ、、、という足音が後ろから聞こえて首を傾げながらその足音から逃げた。

 しかし、前方からも、ザ、ザ、ザ、と音が聞こえる。

 誰なのかは霧でわからない。

 けれども、足音は数えると足りない。

 ということは既に誰かが捕まったってことなんだろう。

 こっちへ向かってくる音が、鬼だと判断して、さ迷う音へ向かって走った。

 またある一人は、走っていく音が速い足音だからきっと仲間なんだろうと判断して追った。

 合流したい程に不安だったのだ。

 氷の塊を通り過ぎても、その足音には近付けなかった。

 何処かへ向かって走っているから、きっと、そっちにも仲間がいるのだろう。

 そう判断して出来るだけ速く走った。

 しかし、いきなり現れた氷の塊に顔をぶつけた。

 さっきもあったが、これはなんだろう?と思いつつ、避けたら目の前には鬼が手を伸ばしてきていた。

 それを寸で避けて真後ろへと逃げて走った。

 ぞわり、とした。

 もう足音は信じないぞ、と決めて走った。

 霧を抜けるとそこは、山の中だった。

 足音と霧が追いかけてくるような気がして、足を止めないで走り続けた。

 すると、神社に着いた。

 神社の裏山だったのだと、そこで初めて気付いた。

 神社に居た、神主かんぬしさんのところへ転がり込んでみれば、神主さんは驚いてぐに顔をしかめた。

 霧が神社にゆっくりと足音と一緒に迫ってきている。

 それに向かって神主さんは大きな声と共に何かをしたらしかった。

 一人は隠れているのでそれを見ることは出来なかったが、神主さんがもう大丈夫だと優しく言ってくれた時には霧も鬼もいなくなっていた。

 その逃げ切った一人の髪を神主さんは切った。

 切った髪は凍っていて、髪を切った瞬間に砕け散って消えた。

 危ないところだったと言われて、それきりこの一人は氷鬼をやらなくなった。

 もう、鬼の名前も、一緒に逃げていた他の三人の顔も覚えていない。

 ただ、今でも何処かに、凍りついた逃げ切ることの出来なかった三人が、氷の塊となって立っている。

 夏や春になれば溶けるかといえば、そうじゃないようだ。

 三人の存在こそありはすれど、名前や顔を覚えている人はいやしない。

 きっと、逃げ切ったその一人がその手で氷に触れるまで、溶けることはないのだろう。

 それが氷鬼のルールであるからだ。

 まぁ、その逃げ切った一人は、かき氷屋さんをしているのだから、氷の塊を削ってしまってもいちごのかき氷にくらいはなるんじゃなかろうか。

 今頃、鬼は一緒に氷鬼をする相手を探して霧を起こしているのかもしれない。

 霧と氷鬼には気を付けることだ。

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