第9話 鬼子

 貴方は知っているだろうか?

 聞いたことがあるかもしれないし、無いかもしれない。

 鬼子おにごというものを。

 別に、鬼の子供のことではない。

 おのれや、貴方と同じ人間だ。

 人間ではあるが、鬼子というものは大半が赤ん坊の内に殺される。

 死ぬ、ではなくて殺されると表現したのには、意味がある。

 産まれてきた姿が他の赤ん坊と違うものを鬼子と呼ばれる。

 片足しかない、指の数が多い程度じゃわかりくいだろうから、名前の通りに見易いようにしよう。

 赤ん坊に角がある、目が一つしかない、だとか。

 まぁ、どれもこれも、普通じゃないってだけの人間だ。

 それを昔の人は鬼子と呼んで、産まれてぐに殺した。

 ある者は、いくら鬼子でもやはり我が家の子なのだと、自分の敷地内に埋めてやったり、またある者は鬼子を実験台にしたりした。

 ごく一部の鬼子と呼ばれる子供は、愛されて少し大きくなってから周りの人間に殺されるパターンだったり、隠し抜いて寿命で死ねたり。

 様々であるが、本当に酷い話だ。

 まぁ、いじめの進化形と表してもいいんじゃなかろうか。

 そうなると、逆に現代は退化したんだろうか?

 いや、それはどうでもいいが。

 自分と違うものを排除することについては、何処までも冷酷になれるのが人間だろう、とも思える。

 さて、この鬼子だが、敷地内に埋められた赤ん坊の話を選ぼう。

 鬼子が殺された後、新たに普通の子供が二人ほど産まれた。

 その二人は、鬼子の存在は知らないままだった。

 どちらも男の子で、お兄さんの方は真面目、弟の方は寂しがりやな性格だった。

 屋敷の者は皆忙しく、弟は誰にも構ってもらえないので酷く寂しかった。

 そんな弟の様子が可笑しくなったのは、5月に入ったばかりのある昼のことだ。

 使用人の持っているハサミに怖がっていたはずの弟は、ハサミを怖がることをしなくなっただけなら、誰も気付かなかっただろう。

 大きな重たい斧を、まだ五歳の子供が軽々と振り上げて、切り株と薪を真っ二つにしただけなら、使用人が黙っていてそれ以外は気付かなかったことだろう。

 用心棒の男がその弟と遊んでからが、始まりだったのだ。

 かくれんぼ、という遊びを知っているはずだ。

 鬼に見つかれば終わりの、簡単な遊び。

 用心棒は見つかってしまったのだ。

 そして、動かなくなった。

 その日の夕食に出てきた豆を要らないと、大嫌いだと断った、豆が大好きなはずの弟を風呂へ見送った後にその用心棒の死体は発見された。

 次々と被害者が増える。

 お兄さんは、鬼ごっこで捕まってしまったのだ。

 お爺ちゃんは、だるまさんがころんだ、という遊びで動いてしまったのだ。

 あぁ、だるまさんがころんだ、を知らない人も居るだろう。

 この遊びは鬼が皆に背を向けて、「だるまさんがころんだ」と言う。

 言い終わった瞬間振り向くのだが、鬼が振り向いた時に皆は一切動いてはいけない。

 動いた者は鬼に捕まる。

 皆は誰か一人でもいいから、背を向けている鬼の背に触れなければならない。

 鬼が背を向けて「だるまさんがころんだ」と言っている間だけ動くことが出来る、といった遊びである。

 ルールは様々で、鬼が「だるまさんがころんだ」と言ったら、皆は固まるのではなく転ばなくてはいけないというものがあったりする。

 勿論、そのルールの場合は、「だるまさんがすわった」でもいい。

 取り敢えず、鬼が言ったことをすればいいわけだ。

 オリジナルで様々な形で楽しめる遊びである。

 今回のはよくあるルールでそれが行われた。

 たった二人で。

 使用人もそれぞれ、様々な遊びに参加させられた。

 屋敷に残ったのはたった一人の子供だけ。

 さて、この子供だが普通ではないことはもうわかっているだろう。

 勿論、鬼子と呼ばれる姿はしていない。

 姿、は。

 弟は、この屋敷で殺された鬼子に取り憑かれていたのだった。

 鬼子と弟に、直接関係なんてものはない。

 では何故なのか。

 それは、鬼子も弟も同じ性格をしていたからだろう。

 それからどうなったのかはわからない。

 弟は既に誰かを殺す前に死んでいたし、体が腐るまではずっとそのままだろう。

 さて、屋敷が今はもう無くなっていたとしても、鬼子の骨が入った箱まで無くなっているのだろうか?

 箱はともかく、骨というのは何百、何千年も残る。

 貴方の家の近くや、または友人の家の下にでも残っていたとしたら、、、。

 寂しがりやは特に危ういだろう。

 どちらの立場にもならないように、寂しがらせない、そして寂しがらない事をオススメしよう。

 おのれは、さて、大丈夫なのだろうか?

 もう、既に、誰かが、、、。

 まぁ、鬼子は一人ではないから。

 何処に埋まっていようが、不思議はない。

 ということは、それだけの感情だけが条件でもない。

 あんまり、外れた事はするな、ということだ

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