第8話 巨人
目が覚めたら、真っ白で誰もいない空間にいた。
思い出せることは一つもない。
と、いう状況にポツンと一人の少年がキョロキョロと周りを眺めながら首を一つ傾けた。
足元には小さな真っ白い建物らしき箱が並んでいる。
それらを踏まないように歩いた。
しかし、そのつもりだっただけであって、実際は何かを踏み潰してしまっている。
少年は振り返らなかったから、それには気付かなかった。
バランスを崩して、手で体を支えたら、手で箱を潰してしまった。
箱からは、ジャムのような真っ赤でそのなかに点々と何かが混ざっている。
わからなかったが、不思議だった。
どんなに歩いても、何も見つからない。
ただ、一つだけわかったことがある。
この小さな箱が並んでいるそれは、少年が住んでいた町とそっくりだ。
いや、そうなのかもしれない。
手で潰してしまっていたのは、小学校だ。
少年が通っていた小学校と、きっと間違いない。
じゃぁ、自分の家は何処なのか、と少年は目で探した。
家を見つけると、そこはすでに少年がいつの間にか誤って潰してしまっていた。
その家からも、また、赤いジャムみたいなのが出てきていた。
さて、現実に戻ろうか。
この少年は、今、交通事故に会い、意識不明の重体なのだ。
その少年が見ているこの世界は、夢みたいなものだろう。
少年が小学校を潰した時に出てきたジャムに似たモノが、例えるなら血と潰された人間だとしよう。
その場合、家を潰したらどうなるか。
そう、少年は知らずと自分の運命を決めている真っ最中である。
現実とその夢が連動しているかといえば、それはどうだろう?
潰されたからといって、現実の建物が潰されるか?
それは違う。
だが、小学校や家に居た者には、何かしらが現れただろう。
少年は病院の真横に足を立てた。
病院に、少年が寝ていることを、少年は知らないし、そもそも今やっていることが、自分の生死のみならず、他人にまで被害が及んでいるなんて、わかるはずがない。
ただ、少し楽しかった。
快感を覚えてしまっていた。
次々に白い箱を潰していった。
足の裏は真っ赤なジャムで汚れたけど、気にしなかった。
ぐしゃり、と足を置いた場所には、、、。
その日の夜、少年はそのまま息を絶った。
少年の意識は戻ることなく、静かにあの世へと向かったはずだ。
しかし、未だに少年は夢の中で潰し続けている。
もしかすると、死んではいなかったかもしれない。
どちらにせよ、少年は自分を潰した。
少年が病院を潰したことに気が付いたのは、町の大半が潰し尽くされた後だったし、飽きたのもその頃だった。
少年はいつまでたってもその空間から抜け出すこともできない。
空腹にもならないし、睡魔も襲ってくる気配はなかった。
死ぬことも出来ないし、痛みもない。
105号室の病室のベッドは、未だ空きそうもない。
死んでいないのなら、、、の話になるが。
夢であっても、何かを潰すというのはどうだろうか。
ストレスが関係していたのなら、気を付けるべきだ。
そうじゃなくても、夢で何かを殺したり潰すことに楽しさを覚えたのなら、危ういんじゃなかろうか。
己はよく、殺される夢や、何かに追いかけられる夢を見る。
ナイフ等の近接で殺される夢というのは、どうやら人間関係についてのストレスが関係するらしい。
逆に遠距離であれば、仕事等に当たる。
追いかけられる夢といえば、責任や緊張といった話を聞く。
さて、この少年は一体、何を抱えて巨人の気分を満喫し終えたのだろうか。
自分がこんな目に会わないのだとしても、気付かないところで誰かをこんな目に会わせているのかもしれない。
夢に限った話ではない。
少年が見た夢は、少年だけが見た夢じゃないかもしれない。
その少年の夢には他の誰かが紛れ込んでいたのかもしれない。
じゃなきゃ、己が少年の話をするのは、難しいんじゃなかろうか?
意味がわからなくとも、これは構わない。
ただ、嘘も本当も言いづらいだけのものじゃないか?
少年に踏み潰される夢というのは、恐ろしいものだった。
逃げ切れた己はまた、夢だからだっただろう。
さて、少年の名前も知らない己は、どう確かめに病院に行こうか。
そうおもってからもう、数年が過ぎてしまったのだから、もう、どうでもいいことの一つにでもなってしまったかもしれない。
巨人になりたい、という願望でも密かにあったのなら、叶ったってことだろう。
願望が夢に現れることもあるらしいから、という理由である。
さて、あの真っ赤なジャムの本当の正体はなんだったんだろうか。
それは知らなくて良いのかもしれない。
少年の105号室には、真っ白なつまらない風景が広がっているのも当たり前だが、それが影響していたのなら、次は一つ、絵でも描いてやったら楽だったのかもしれない。
話は変わるが、己の友人は明日内蔵を誰かから受けとるらしい。
もしかすると、都合の良い内蔵が105号室に横たわっているかもしれない。
もしそうなら、友人の内蔵に向かって声でもかけようか。
「貴方はまだ、夢に居ますか?」とね。
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