第5話 死ねと言えば

 命の重みは等しくない、それがわかったのは、中学一年生の頃でした。

 神様だとか、そういうのは信じる信じないだとかいうのは、周りで言う人は居ないから、本でやっぱり知る。

 ある人は、いるんだと叫ぶ。

 ある人は、いないと笑う。

 それでこっちの答えは、どちらでもないのだ。

 いても、いなくても、可能性というのはゼロではない。

 幽霊がいるとわかるのは、霊感がある人くらいなのと、同じでわからないモノは取り敢えず、いてもいなくても可笑しくない、と片付ければそれでおのれは満足した。

 どちらも否定しないし、そもそも心底どうでもいい。

 お偉いさんは、一般人よりも死んだら大事おおごとだというのも面白いと思っていた。

 平等だなどとほざいた人に向かって、何と質問しよう。

 この話について、どう思いますか?

 なんて聞いてみるのも暇潰しにはなるだろう。

 さて、そんな命の重さは年々、えらく軽くなったように思える。

 簡単に自殺するし、簡単に殺人を起こすだろう?

 ゲームでも昔から、何とも思わず殺す。

 邪魔だったら取り敢えず殺すだろう?

 それでふと、思うことがある。

 それがこの女子高校生と同じだった。

「死ね」と、相手に言う人間が周りには数えようとは思えないほど沢山いる。

 死ね、という言葉に従って、本当に目の前で自殺をしたら、どんな顔をするんだろうか。

 女子高校生は、興味に勝てなかった。

 喧嘩中の今、相手が「消えろ」だとか、「死ね」だとかよく吐き捨ててくる。

 ならば、ソイツの目の前で。

 そんなことを軽々と思えるこの女子高校生も、そして己もまた、命を軽く見ているとよくわかる。

 だいたい、、、他人に死ねと命令するのは笑えることだ。

 他人の生死に命令出来るほど、いつの間に偉くなったのか。

 女子高校生は、自殺するフリ、もしくはちょっと血が出るくらいにしようと思って待っていた。

「死ね」

 望んだ声が来た時は、口角を上げて言ってやった。

 いつもは断るこの口が、頷く日がくるなんて、、、とかは思うことは無い。

「わかった」

 女子高校生はカッターを手首に構えて、切りつけた。

 突然そんな行動をとるなんて、予想外に決まっている。

 ただ、驚いて固まってしまっていた。

 血が溢れて、痛みに顔をしかめる。

 女子高校生はリスカは初めてで、浅く切るつもりだったのだが、、、。

 女子高校生は、深く切ってしまってそのまま死んでしまった。

 手首を切っても死なないものだと、リスカをする人を見たりして思い込んでいる人も居る。

 しかし、リスカをしている人でも、中には程度の感覚が狂い死んだ人もいる。

 馬鹿らしいが、女子高校生は興味でやったことだ。

 まぁ、死ぬ前に興味一つ、結果を見れて良かったんじゃないか、と適当な感想を置こう。

 目の前で切って死なれたんだから、トラウマになって、「死ね」とはもう言えなくなったソイツも、耐えられずに自殺をした。

 ある意味殺人なんだから。

 死ね、と命令したことによりそれに従った女子高校生が目の前で血を落として死んだ。

 それだけだ。

 それだけが、重かった。

 目の前で人が血を流したら、程度にもよるが気分を悪くする人も多いだろう。

 いや、もしかすると、そうでもないかもしれない。

 なにせ、人が倒れていても、死にそうでも、無視して通り過ぎる冷たさくらい、そこら辺の人間は持っている。

 もし、声を掛けていたなら死んでいなかったかもしれない人間だっていただろう。

 人が線路に飛び込んで死んでも、舌打ちするくらいだ。

 毎日、人が死んだ道を歩いて生きている人間が、今更、気にしないか。

 死体の上を通って、学校や会社に行くのと何が違う?

 見えなくなっただけで、己の足元にも貴方の足元にも、死体はあった。

 女子高校生が死んだ教室にはもう、血は残っていないし、その話だって浮き上がってこない。

 死ね、と言えば、女子高校生が再びそこで死んでいく姿を見ることは今でも出来る。

 4月9日の二組の教室では、言わない方がいい言葉である。

 丁度、窓側の前から三番目の机の前で、血を流す生徒はその女子高校生のみとは留まらず。

 さて、何処の学校だったかいちいち覚えてはいないが、女子高校生の顔なら写真に残っているんじゃなかろうか。

 三年目の集合写真には居なくとも、二年目の集合写真の真ん中に、笑顔で立っている。

 死ね、といって目の前で死なれても笑える覚悟がないくせに、死ねと命令するもんじゃない。

 稀に、己やその女子高校生のように、間違って死んでしまう馬鹿が、混ざっているのだから。

 取り憑かれたように、同じことをしてしまう生徒が絶えることはないだろう。

 少なくとも、その教室から「死ね」という言葉が絶えない限りは。

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