第3話 泣く女神像

 ゴミ捨て場に置かれた、いや、捨てられた美しい女神の像があった。

 両腕は欠けて無くなったんだろう、元々はあったというのがわかる跡が残っている。

 さて、この女神像だが一つうわさがある。

 誰がそんな噂を流したかとかそういうのはいっそどうでもいい。

 ある少女がその女神像の噂を確かめに向かった。

 いつ見ることが出来るかはわからない。

 でも大抵は、暗い夜の内だとか、黄昏時たそがれどきだとか、ありがちなんじゃないだろうか。

 勿論少女は、夕方に家を出て、一応ライトを手に人気ひとけのないゴミ捨て場に向かった。

 このゴミ捨て場というのは、もう使われてはいないのだが、子供はそんなことは気にしない為にゴミは投げ捨てられていく。

 そもそも子供ガキが、ゴミ捨て場、ゴミ箱等を無視してそこら辺に捨てるというのは珍しくない。

 というか、そういうのは子供に限らない。

 それを片付ける人が居ないとなると、流石にゴミで溢れかえってしまいそうだが、女神像の噂が流れてからは、誰もこのゴミ捨て場にゴミを投げ入れる馬鹿はいない。

 そうなると、この女神像を利用してゴミを捨てさせないが為に流された噂だったのかもしれない。

 だから、確かめに来たのだ。

 話はちょっと他人に話せばぐに広まる。

 だから、嘘とわかればそれも直ぐに広まって、また同じようになるだろう。

 少女は女神像を見つけると、傍でじっと待った。

 しかし、いくら待っても涙は流れない。

 仕方が無く、今日の所は帰って明日また来よう。

 そう思って帰った少女の手は震えている。

 実際本当なら怖い。

 だから本当を見てしまう前に帰ってしまおうと立ち上がった。

 翌日、雨が降っていた。

 これでは見に行くのも面倒だ。

 それでも興味と恐怖を抱えながら、傘を開く。

 ゴミ捨て場に歩いていく。

 長靴が水溜まりを蹴って、ばしゃりと音を立てた。

 女神像を見てみると、遠目からでも確認出来るほど、泣いていた。

 それも、真っ赤な涙を。

 明らかに雨が流れているのとは違う。

 ここで引き返して逃げてしまえばよかった。

 少女は不思議と恐怖を無くし、女神像へと近付いて行った。

 女神像からは、泣き声まで聞こえてくる。

 少女は途端に悲しくなり、傘を手放して女神像を抱き締めた。

 日が昇ると新たな記事が広げられる。

「今は使われていないゴミ捨て場で、少女の遺体を発見。後頭部を強く打ち付けられ死亡。発見当時、女神像を抱き締めていた。犯人は見つかっていない」

 その記事を読んだのは少女の父親だった。

 父親は女神像のことを知っている。

 なにせ、あの女神像を作ったのは父親で、捨てたのも父親である。

 女神像の出来が気に入らなくて、殴って壊したのだった。

 少女を殴った犯人はいつまでたってもわからなかったが、新たに流れた噂はこうだ。

 泣く女神像に近付くと、女神像と同じように殺される、と。

 それから少しして、女神像を処理しようと近付いた男性も同じように死んだ為、そのゴミ捨て場は立ち入り禁止となった。

 女神像が壊された日も、少女や男性が死んだ日も、雨が降っていた。

 女神の像が、雨の日に血の涙を流す理由もわからないまま、それを作り出した父親も、血を流してこの世を去った。

 今でも女神の像は、同じようにそこに。

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