第2話 影分身
×××高校に通うある男子高校生の話。
勉強はそう得意でもなく、運動が大好きな何処にでもいるような男子だった。
沢山の友人に囲まれてはいるが、何かこれというような特徴はない。
悩み事が人並み以上にあるもなしもない。
あっても、いつか誰かが同じことを言っているだろう、「もう一人自分がいたら」という子供っぽくもあるどうでもいいことを含めた、ありがちなことばかり。
それでも真面目だとかいうわけでもないこの男子は、掃除も勿論、雑談して時間を潰し、
真面目組数人に押し付けてふざけあう馬鹿の一人だが、まぁ、そういう存在も腐るほどいる。
そういう存在は、ある女子生徒が一言でこう呼んでいることも知らないだろう。
「
不快なことこの上なかったんだろうし、やっぱり迷惑だっただろう。
「害」しか持ってこないのだから、嫌いな「虫」と合わせて、「害虫」。
この男子高校生よりも表現は特徴があってまだマシな生徒である。
そんな害虫男子高校生は、そう表した女子生徒の鋭い目で睨み付けられればビビって静かになる。
もともと目付きが悪いこの女子生徒の睨み付けに勝てる生徒がこのクラスに居るわけがなかった。
今日も今日とて睨まれて、授業中遊んだらまたついでに睨まれて。
掃除時間になれば、ふざけてじゃれあってるところを、高く鋭い声で怒鳴られた。
怒鳴られた瞬間、電気が走ったように、いや、実際走ったら
つまり、雷を落とされたってわけだ。
笑顔なんて消えてただこれ以上怒らせられないという緊張と共に、黒板消しを手に取り黒板を綺麗に消した。
女子生徒は終始険しい顔をしていた。
さて、こんな害虫の一人がある土曜授業をサボって学校を休もうと思っていた。
思うだけで行くならいい。
そんなわけがない。
ただ、月曜日に偶然見えた名簿には、欠席とは書かれていなかったのが不思議だった。
授業を受けたということになっているものだから、ラッキーだとか思っていた。
その数日後、進路指導室に呼び出しをくらって、怖い英語教師の前へ、あの女子生徒の目以上にビビりながら行った。
すると、身に覚えのないことで怒鳴られた。
マナーカードを持たされて、どういうことかと悩んだ。
スマホがバレた、でもない。
立ち入り禁止区域に足を踏み入れたなんてこと、ないはずだ。
ただ、それを女子生徒は「ざまぁないね」というような嘲笑を浮かべていた。
もし、この女子生徒の仕業であるとしたら?
そう思うと怒りで女子生徒の目なんて忘れて、言ってやった。
すると、心底迷惑そうで、不快そうに睨み付けてきた。
「はぁ?私は先生と一緒に、あんたが立ち入り禁止区域に入っていくのを見掛けただけだけど?自業自得じゃん。身に覚えがないっつっても、日頃の行いが悪かったら、
そういうと、鼻で笑った。
言い返しの言葉が浮かばなかった。
「この害虫が」
そう小さな声で吐き捨てながら、イライラしているのであろうその目は空気を睨みながら横を通りすぎて階段を上っていった。
立ち入り禁止区域に入ってないものは入ってない。
近づいてすらないのに。
なんでだ。
気にくわない。
そしてこの一ヶ月、そういう身に覚えのないことを色々言われることが増えた。
女子生徒は愉快だと言いたげな顔で見てくる。
「お前のせいだろ!」
「馬鹿じゃないの?他人のせいにする前に、証拠持ってくれば?」
「俺見て笑ってるの知ってんだよ!」
「笑ってるだけで、何で私のせいになるのか意味わかんない。頭可笑しいんじゃないの?笑うだけなら誰でも笑いますー」
それ以上が返せない。
なにせ、言える言葉は遥かに女子生徒の方が多い。
国語と美術が得意科目な女子生徒は、小説を書いたり、作詞したり、短歌、俳句、、、といった趣味を持ち合わせている。
それにたいして、この馬鹿が勝てるかといったら、無理な話だ。
ただ自分の苦手な相手に目が行って、それがたまたま自分を馬鹿にして笑ってるだけで、犯人扱いするくらいの馬鹿だ。
女子生徒だって、害虫が困ってたりするといつも困らせられる側からしたら愉快だったり、酷く
お互い、苦手か嫌いかという相手に、目がいってしまうだけ。
何がどうして、こんなことになるのか。
わけがわからなくて、気にくわない。
「お前だろ!」
「あ?」
女子生徒の
あまりにもしつこい男子高校生に、女子生徒はキレた、、、わけではない。
女子生徒からしたら、まだ
睨み付けもたった今のも、威嚇だ。
その一音だけで十分、男子高校生を怯ませられる。
いくら、怒りを持っているとしても、怖いものは怖い。
その日の内に、女子生徒がSNSで呟く愚痴を男子高校生は読んでしまい、怒るのをやめた。
「いい加減にせいや。調子乗んなよ。害虫が。掃除しろっつってんじゃねぇか。証拠もねぇのになんで犯人扱いされなきゃなんねぇんだよ。つーか、てめぇのことに嘘仕掛ける暇なんざねぇよ。くだらねぇ。そんくらいで怒るんやったら最初っから大人しゅうしとけよ。うるっせぇし、学校にスマホ持ってきてんじゃねぇよ。睨まれてからやっとかよ。使えねぇな。帰れ。害しか持ってこれねぇんなら来んな。消えろ。邪魔」
などといった、長文を延々と。
途中で読むのをやめた。
口調が女子らしくないのはさておき、女子生徒に言い返せない。
だからこう、かえしてみた。
「直接言いに来いや」
すると数分経ってから、それにたいして、返事がきた。
「直接言いに来いやっていうのを直接言いに来いや。なんでてめぇにいちいち直接言いに行かなきゃなんねぇんだよ。聞きてぇなら聞きに来いや。つーかな、言うわけねぇだろ?言うんだったら最初からここに書いてねぇよ。何か文句あんなら直接どうぞ。直接じゃねぇとダメなんだろ?こっちはてめぇのそれに従う気はねぇから」
長文で返ってくるとは予想していなかったから、焦った。
しかも、またも、言い返す言葉が浮かばない。
というか、同じクラスで、席が真隣なのに、次の日どうしようとか、思ってしまう。
返事が出来ずに放置しておく。
ビビりながらも学校行ったが、特にこれといって女子生徒が言ってくることはいつも通りを抜いてなかった。
てっきりキレてくるかと思っていた。
女子生徒にとっては、SNSでのキャラは現実に持ってこないつもりなので、内容が内容でも、面倒だという理由もあって、わざわざ行かない。
返事で返した通り、聞きたかったら来い、ということだ。
ただ、そうしている間も、同時時刻に別の場所での目撃情報等もあった。
気味が悪い。
「マジで何も知らねぇ?」
ビビりながらもそう聞けば、別に怒るも睨むもなく頬杖をついて答えた。
「本当に身に覚えがないなら、面白い話があるけど」
「は?なにそれ」
「ドッペルゲンガーってやつ。」
「どっぺるげんがー?」
「知らないか。簡単に言うと、自我を持った分身てとこ」
「意味わからん」
「もう一人のあんたが好き勝手してるってこと。あんたがここで私と喋ってる間も、別のとこで問題起こしたりとかしてたら、身に覚えなんて関係ないよ。そのもう一人のあんたがしたことは、本物のあんたのせいになるだけだし」
「はぁ!?じゃぁ、どうするんだよ!!」
「どうもしないけど。で、あんた本物?」
「本物だ!」
「あっそ。なら、気を付けたほうがいいよ。真面目に掃除も授業もやってたら信じて貰えなくもない。私はあんたが本物かどうかなんて心底どうでもいいけど、信じる気はない。もし本物なら、偽物と区別できる何かを持っといた方が、いいよ。」
「なんだよそれ!!」
「ドッペルゲンガーって話でよくあるのは、偽物が本物になり上がること。偽物を偽物だとわかるのは、偽物本人と本物だけ。言っている意味わかる?」
「もっと簡単に説明してくれ!」
「本物のあんたが消されることになるぞって話!偽物に居場所も何も全部を奪われることになるよ」
「奪われたらどうすりゃいいんだよ!」
「奪われたんなら、奪いかえせばいい。偽物に成り下がったんなら、まったく同じ方法で、本物に成り上がった奴を潰しにかかればいい。」
「だからわかんねぇって!」
「あっそ。ま、こっちとしては偽物でも本物でもいいけどね。私にとって
「じゃぁ、一緒に、、、」
「やだよ、気持ち悪い。自分でどうにかすれば?願ったのは自分じゃん。叶った結果が今じゃん。私はもう一人の自分なんて要らないから望まないけどさ。まぁ、害虫が二人になったのは腹立つわ」
「頼むから助けてくれよ!」
「私があんたを助けると思う?話を教えただけでもありがたいと思ってよ。さっきもいったけど、クッソどうでもいい。あんたが偽物だろうが本物だろうが害虫は害虫よ。助けて欲しいなら、自分の友達に頼めば?もう手遅れなら、偽物に友達奪われてても可笑しくないけどねぇー。精々、必死に
チャイムが鳴って、嘲笑したあと女子生徒はさっさと授業へ向かった。
男子高校生は女子生徒の話を全部信じたし、助けを乞うた。
それでもいつも睨まれるほどの自分が、助けて貰えるわけがなかった。
友達に相談しても、笑って馬鹿にされて、放置されるし、教師も話を聞いてくれない。
どうしようも浮かばないし、しようがなくなり、やっぱり女子生徒に助けを、と走った。
廊下には、男子高校生と女子生徒が立っている。
「あ、あれだ!」
「ん?うわぁ、本当だったんだね。」
「どうしたら消せるんだ!?」
「知らないよ。普通の人間と同じなら、殺すか、閉じ込めるか、何かすればいいんじゃない?偽物だっていっても、同じ自分じゃん。自分くらいどう潰すかわかるでしょ」
「殺せばいいのか?」
「好きにすれば?殺人で捕まるかもよ。ま、私は手伝う気はゼロなんで、巻き込まないでくださーい」
本物の自分を指差して、そんな会話をする。
偽物が、女子生徒とそんなことを会話してるなんて。
SNSで女子生徒が言っていたことを思い浮かべる。
「偽物だって脳ミソあんなら、本物を本物だと見ていた人間を先に本物から奪うんじゃね?ま、本当にするとしたら、てめぇよりか賢いわ。偽物が自分を本物にするんだったら、狙うならそういう重要な奴からだろ。」
別に男子高校生に送ったものでもなく、いつも通りの女子生徒の独り言だ。
焦りながら、どうにかしないとヤバイ、と色々考える。
焦っている時ほど、浮かばないのもよくある。
女子生徒は担任に呼ばれ、廊下に男子高校生が二人きりになる。
片方は偽物で本物。
「どうも、初めまして、貴方の分身です」
自分と同じ声、顔で、自分とは思えないほどの丁寧さでそういった。
「もう、貴方、、、、いや、お前の居場所なんてないから。返す気もないしこのまま消えてくれ。居心地がいいんだ」
ニコリと笑んで、そう言った。
恐怖が駆け抜けていく。
気が付いたら窓から投げ出されていた。
空中で体が止まる。
この手を握り引き留めるのは女子生徒だった。
「あんた、本物でしょ。悪いけど、助けらんないわ。私、害虫嫌いだし。あんたが軽いなら、引き上げられたんだけどなぁ」
「死にたくない!!」
「無理だよ」
手が滑り外れ、離れた。
地面に叩きつけられた男子高校生は、そのまま即死だった。
女子生徒は、溜め息をつくと、偽物にこう言った。
「さて、授業始まっちゃうから行こうか。偽物さん」
偽物男子高校生の顔色が悪くなる。
「私、害虫嫌いなんだ。だから、精々消えないようにお利口さんにしてな。三度目の偽物も見飽きたけど」
一番最初の本物は、女子生徒が高校一年の間に消えていた。
さてさて、いつまでこれを繰り返すやら。
女子生徒が飽きてしまうのも、仕方が無い、、、のかもしれない。
ドッペルゲンガーのドッペルゲンガーの、、、。
ややこしいことこの上ないが、害虫は害虫に代わりない。
偽物だろうがなんだろうが、代わらないままだった。
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