第10話 母なる者

ビー!ビー!

「レーダーに反応が!都市区域に人影を確認!」

「何だ?賞金稼ぎでも出たのか?」

「いや…この反応、違う…何もないところから出てきた。恐らく君達と「同じ」だ!」

まさか…「奴が」ここまで来てるのか!?

「とりあえず、俺達が見に行ってくる。もしかすると俺達が狙ってる奴かもしれない。」

「分かった。気を付けてね。」

奴がもしこの世界にいるなら都合が良い。こっちは3人、いけるかもしれない!


ーゼネル都市区域ー


薄く長い金髪の女が見える。奴だ…間違いない!

「あらあら、皆さんお揃いで。」

「やっぱり何となく来ると思ってたんだよ。マクシム…いや…セリア!!」

「流石に以前の名前では呼んでくれませんか…それにしても3対1、部が悪いですね。」

部が悪いと言いながらも顔は笑顔のままだ。

「こっちは1人で5人分の女がいるからな?」

「それがどうしたと言うんですか。数で勝てば私を倒せるとでも……ッ!?」

「どうした?何か気に触ることでもあったのか?」

「(あの女…どこに!?)」

ササッ…

「(速いッ…!)」

「チャオ(さようなら)。」

ザシュザシュザシュ!!

ほれ見ろ、べらべら喋ってるからこうなる。

「くっ…」

「喋ってる間に攻撃しないってルールはねぇぞ。ただ、不意でも致命傷は免れたな…」

奴は確かにダメージを負っている。しかしまだ浅い。

「やってくれますね。久々ですよ。こんなに面白い戦いは。」

「べらべら言ってる暇があるなら体動かせよ!!クロウ!!」

「はい!」

シュン…

まず先に出たのはドメイク。大剣を振りかざしてセリアに斬りかかる。

ガキィン!!

「何とも愚かですね。自身が騙されていたというのに。」

「黙れ!お前が今までやっていたことに比べれば俺の愚かさなど屑鉄同然!!」

「そういうところが愚かだと言ってるのですよ。」

パァン!!

「ぐあッ!!」

「ドメイク!!」

奴め…武器を使えないように肩を撃ちやがった!

「かすめただけだ…まだ行ける!」

「無理だ!肩を撃たれてるその腕じゃ武器は持てない!」

「俺はお前達に協力すると言った…ここで逃げる訳にはいかない!!」

ドメイクはどうにか有り余る気力を振り絞って立ち上がった。

ブゥン…カチャ。

「喋る暇があるなら体を動かせと言ったのはあなたですよ?」

「なっ…」

セリアが俺の背後に回り、銃を向ける。

「フロート!」

ブォン!!

俺まで撃たれそうなところをセンが何とか木々を飛ばしてくれて助かった…

ブゥン…

「奴は空間の開閉能力を持ってる!奴の銃弾には気を付けろ!」

「分かった!」

パァン!!ブゥン…

銃弾は空間を移動して俺達に降り注がれる。センは足の速さで避けられる…俺は一度戦ってるから避け方も分かる…ドメイクに当たったらただじゃすまないぞ…!

ガキン!

「俺なら大丈夫だ!お前は奴を討て!」

…流石だ。デカイ大剣は時に大きな盾にもなるとよく言ったもんだぜ…!

『ラルス様、彼のためにも早くセリアを!』

「あぁ!やってやる!」

ザシュザシュ!!

「あなた…私の嫌いなタイプね。」

「私とあなたは似た者同士ではないですか。共に殺人を犯しておいて今更何を…」

「私は生きるために賞金稼ぎになった!!あなたは自分の快楽のために人を殺してる!!これのどこが似た者同士っていうの!?」

あっちじゃ今1対1の状況だ…早く行かなければ!

「うぉらぁ!!」

ブゥン…

「未だに遅いですね。」

「それはどうかしら?」

「何…!?」

ザシュザシュザシュ!!

ナイスだ!奴が空間を移動する位置を把握して斬りやがった!

「ぐはっ…」

まだだ…これじゃまだ致命傷になっていない!

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

ドスッ!!

「ゴフッ!!」

立ち上がる寸前でドメイクが腹に拳を入れた。最後の最後でおいしいところ持っていったな…あいつ。




「まさか…この私が敗北とは…」

ここで初めて奴は目を開けた。目はカトラと同じように見えたが、奴の目の色は血のように濁った赤い目だった。

カチャ。

奴の銃を拾って、奴に向けた。今まで散々の命を狩ってきたこの銃は確かな重みがあった…

「最後に残す言葉だけ聞いてやる。何かあるか?」

「ええ…」





「娘を…頼みましたよ。」





「……あぁ。」

ズドォン!!

額を撃ち抜かれ、奴は息絶えた。最後の顔は安らかな笑顔だったのか、いつもの不気味な笑顔だったのかは誰にも分からない。

「カトラを…お前と同じようにはさせねぇよ…」


ーコンテナ倉庫ー


「もう行くの?」

「うん。待ってる人がいるからさ。」

今、俺達はこの世界から別れを告げようとしていたところだった。

「また来なよ。ミスズと待ってるからね。」

「そうだな!またいつかここに来る!」

俺達は二人に手を振り、コンテナを出た。

「ドメイク、お前はこれからどうするんだ?」

「肩の傷が治ったら旅をする予定だ。俺も…もっと色んな世界を見てみたいからな。」

ドメイクの今の目は輝いていた。まるで世界をめぐっている時の俺の目だ。

「旅、頑張れよ。世界はまだ俺達の知らないことが多く残ってるからな。」

ここでドメイクとも別れ、帰りを歩んだ。




「なぁクロウ。」

「何でしょう。」

「俺さ…カトラを家族にしてもいいかな…」

「ラルス様が強く言うのであれば止めませんが。」

クロウがこんなすぐに諦めるのは珍しい。いや、言っても聞かないことを承知の上なのか。

「ただ1つだけ聞いても良いですか。」

「何だ?」




「カトラ様と結ばれても…一生……一生ラルス様の側にいてもよろしいでしょうか!?」




「あったりめーだろ。」

「………」

「お前はマーセル家に仕える人間だからな。家族同然だろ?」

「はい…死ぬまで、一生ラルス様に仕えます。」

次回、最終回。




次回、ロスト・メモリーズ最終回。

「あの時の答えを言いに来たぞ。カトラ。」


「私も、誓うから…」


「色々と約束しちまったな…俺も。」


最終回「世界をめぐる少年」



―そして、一人の少女の歯車が動き出す―







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