第8話 魔弾


ー翌日ー


良く寝れた…とは言い難いが少しは気持ち良く寝れたような気はする。

「おはようございます。」

「おはよー…クロウ。」

向かいの部屋で泊まっていたクロウといつも通りの挨拶を交わす。このまますれ違うと思いきや、クロウが手をちょいちょいして俺を呼び止めた。

「ラルス様。この世界、魔獣は出ないようですね。」

「魔獣が出ない…?」

前回の時は異変がドメイクだったから魔獣は出なかったが、今回は異変そのものがないなんて…

「確かに魔獣の気配がしなかったからなぁ…」

「ならば早く支度をして帰りましょう。ここにずっといるのも失礼ですから。」

「あ、あぁ…」

帰るって言葉を聞いた時、何か心の奥底で「嫌だ」って感情が少し出てきた。やっぱり俺、カトラ(あいつ)に惚れてるな…


ー数十分後ー


「本当に短かったけど、ありがとう。」

「いや俺達も泊めさせてもらって悪かったな。じゃあ…」

「ねぇ…」

「ん?」

彼女が俺達を呼び止めた。何故か俺の胸が高鳴っている…

「あの時の告白の答え、聞かせて…」

今ここで言おうか迷った。今ここで彼女を俺達の世界へ連れていっても危険な目に合わせてしまう…それだけは絶対に嫌だ…

「事が終わったらまた会いに来る。答えはその時まで待っててくれ。」

「…分かった。約束だよ。」

彼女は俺の言葉を理解してくれた。だから俺も…そのことに感謝して約束を果たさなきゃだな。

「あっ、最後に…お前の母親の特徴とかあったら教えてくれ。もし見つけたら伝えに行く。」

「確か母は…長く薄い金髪の女性で、あと……」




「武器になれた…」




「武器…!?」

「うん…何でかは分からないけど、母は全身を武器に出来た。小さい頃、そういうところを何回も見てきたから。」

母親はクロウと同じ武器人間…?でもそうなれば何でカトラは武器になれない…?何なんだよこれ…

「…分かった。情報ありがとう。」

こうして俺達はカトラの洋館を後にしたが、帰りの森を戻る途中、さっきの言葉が引っ掛かる…

「クロウ。」

「ええ、言いたいことは分かります。」

「長く薄い金髪で武器人間…まさかな…あいつが……」







「あら?私のことでしょうか?」







「あぁ。あんただよ…マクシム…!」

カトラの母親がまさかこいつだとはな…!これで全てが繋がったぜ…

「娘に会いましたのですね?どうでした?娘の様子は。」

奴は相変わらずニコニコとした表情で俺達を見ている。まるで全てを見ていたかのように。

「あんたを心配してたよ。今ごろ亡くなってるんじゃないかとさえも思ってるらしいぜ。」

「あら、私を死人扱いですか…あの子も随分変わりましたね…」

「あんたが戻らないからだろ。娘の心配もよそにあの野郎(ドメイク)とつるんでよ…あんた、少しは母親の自覚持てよ。」

「ええ…」



「母親も何も、私の興味本位で産んだ子ですから。」



「テメェ…!!」

殴りかかろうとする俺を横でクロウが制止した。

「俺は今すぐにでもお前をぶん殴りたいが、お前に色々と聞きたいことがあるからな。全部聞いた後にぶん殴ってやる。」

「どうぞ。お構い無く。」

その余裕綽々とした態度に更に腹が立つ。今の奴はただニコニコしてるだけの悪魔に思えた。

「じゃあ遠慮なく聞こう。何故カトラはあんたの血を継いでるのに武器になれない?」

「単純です。あの子には父の吸血鬼の血の方が濃くて、私の血が薄かったためになれないだけです。」

正直良かった。カトラがこいつと同じ体じゃなくて…

「次…何でドメイクは俺達を狙う?」

「あぁ…あの全く使えない主ですか…彼に吹き込んだのは私です。「魔獣を呼び出して異変を起こしている少年がいる」と吹き込みました。」

やっぱ全部こいつだったか…それじゃドメイクもこいつの被害者じゃねぇか…

「これで最後…セリド・ヴァンプティムが亡くなったことは知ってるか?」

「はい、よーく覚えてますよ。何せ私が「殺害」したのですからね。」

「なっ…!?」

こいつ、自分の夫にまで手をかけたのか!!悪魔だ…正真正銘の「悪魔」だ!!

「あの方の最後の顔は何とも絶望に満ち溢れていた顔でしたね…それはそれは…面白かったですよ。」

「お前…本当に何のために生きてんだ……自分の家庭をズタボロにして、嘘を吹き込んだりよぉ……」



「自分の「面白さ」のために生きてるだけですよ。」



「クソだ…!!」

最悪だ。もう何言っても通じない気がしてきた。いや…奴は俺達の反応も何もかも楽しんでる…!!

「質問に答えるばかりではつまらないので、私から直々に話しましょう。私の名のマクシムというのは偽名で…」

マクシムという名前すらも嘘に塗り固められたものか…

「私の本当の名はセリア…」







「セリア・ラストです。」







「ラスト……!?」

「知ってるのか!?」

クロウが恐怖に怯えた顔をしている…何だ…奴の名前に一体どんな…!?

「その昔、武器人間達の間で恐れられていた殺人鬼の一家…それが「ラスト家」です…もう100年も前に壊滅したと思ってたばかりに…」

「良くお知りで。そうです…私はラスト家最後の娘。この名を明かす時がついに来たのですね。」

「100年も前に壊滅したなら何でお前はまだ生きてるんだ!?」

「これも単純なことです。吸血鬼と結ばれた者は不死身ではありませんが、何百年も老いずに生きられると…もう私もかれこれ200年くらいは生きてますがね。」

200年…そんな長い時間を奴は自分の面白さだけに生きてきたのか…!!

「カトラの姓が父の姓で良かった…お前の姓だったらカトラは一生殺人鬼の子として生きてく運命だったからな!!」

「そのことも私には関係ありませんが…」

「もう質問は終わった。お前をぶん殴る。」

「ええ、出来るものなら。もう少しあなた達が奔走する姿を見たかったものですが、この際仕方ありません。」

カチャ…

「頭を撃ち抜きましょう。」

「そっちこそ、出来るもんならな。」

奴は二丁のリボルバー銃を取り出し、俺達に銃口を向ける。俺達もそれに合わせ、クロウを武器に変化させる。

「フフ…「魔弾のセリア」と恐れられていた銃捌きをご覧くださいね。」

パァン!!パァン!!

「ぬぉっ!?」

真っ正面から放たれたはずなのに…何で銃弾が右斜めから!?

「そうか…「空間」を開いたり閉じたりしてるんだな。」

「ご名答。察しが早いですね。私の能力は空間の「開閉」。これにより、放たれた銃弾は確実に目標の元へ行きます。」

パァンパァン!!

「クソッ!」

これでは接近戦はほぼ無理だろう。遠距離武器で行くしかない!

「弓だ!」

『了解です。』

シュン…

「行けッ!!」

カシュ!!

「何とも遅い矢ですね。」

ブゥン…

空間を開けて避けただと…?

「なろっ!!」

カシュ!!カシュ!!

矢を連続で発射してもことごとく空間移動で避けられる!

ブゥン…

奴が俺の真後ろに行き、うなじに銃口を向ける。

「ジ・エンド。」

「……かと思ったか?」

手を挙げる素振りを見せ、弓を下に落とす。その瞬間にクロウが元に戻り、奴のリボルバー銃を蹴り飛ばす。それに続くように俺ももう片方の銃を蹴り飛ばし、クロウを即座に長刀に戻す。

スッ…

「あなたに殺せると言うのですか?この私を。」

「それ以上言うと首スパンだぞ。」

こんな状況だというのに未だ奴はニコニコしたままだ。

「私を殺せばあの子が悲しむ…心の奥底でそう思っているのでしょう?」

「……黙れ。」

「殺すのですか?殺さないのですか?」

「黙れって言ってんだろうがッ!!!」

首を切ろうとしても腕が動かない…こいつは最低の野郎…なのに…なのに!!

「殺す、殺さないではなく「殺せない」でしたか。」

「くっ…」

「やはり撃ち抜くのにはまだ惜しいですね。では、また会いましょう。どこかの世界で。」

「ま、待て!!」

ブゥン…

二丁の銃を丁寧に回収し、奴は消えた。

「俺は…何で奴を…」

「ラルス様が悔やむことはありません。次に備えましょう。」

「あぁ…次は絶対に…ぶん殴ってやる。」

続く。



次回のロスト・メモリーズは

「何だここ…荒野か?」

「ここはゼネルと呼ばれる小数人口の都市のようです。」


「お前がここらで名を馳せる「仮面の賞金稼ぎ」か?」

「そう…私はその人よ。」


「お前、何しに来た。」

「お前達への謝罪をしに来た。」


次回「賞金稼ぎの世界」


「悪いね。俺達は賞金とやらに興味ないんで。」












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る