第4話 内なる英雄

…………は?

「いやさ別世界から来たっていうやつ私、好き!」

「なぁクロウ、これ話通じてる?」

「さぁ…?どうでしょう。」

罵声でも浴びせられるのかと思いきやまさかの燃える宣言。彼女の思ってることは先が全く読めん。

「だからな…俺達は本当に別世界から来たんだって。話分かってる?」

「分かってるよ!別世界から来たのって何だかディケイドみたいだね!」

「ディケイド!?誰だそりゃ!?」

訳も分からない名前を出されてもな…俺は昨日のやつあんまり記憶してないんだよ。

「ラルス様。ディケイドというのは「仮面ライダーディケイド」のことで、彼も私達と同じように他のライダーの世界に行って旅をしているそうです。」

要するに俺らと同じって言いたいんだな。

「まぁ、長い話はそこら辺にして…クロウ。」

「はい。」

シュン…

「あっ…!クロウちゃんが武器に!」

「そう、こいつは人間でもあるし武器でもある。武器人間とかいう種族でな。今みたいに刀とか色んな武器になれるんだ。」

そしていつものようにクロウを元に戻す。

「凄い…本当に他の世界から…?」

「 さっきも言ったろ。今の見て確信がついたな。んじゃ、俺ちょっとトイレ行ってくる。」

そう言い、俺は近くの店のトイレに駆け込んだ。




「こんなこと聞くのもあれだけど…」

「何ですか?」

「クロウちゃんって夢とかあるの?ずっとラルスくんに付きっきりっぽいし。」

「私の夢はマーセル家に仕える者として、一族に貢献することです。」

そう…私の使命は死ぬまでラルス様の側にいること。それ以外のものは何もない…

「もしかしてラルスくんのこと…」

「いえ、そのようなことはありません。」

「即答ッ!!」

「仮にもし、好意を持っていたとしても私とラルス様は従者と主の関係。結ばれることはないでしょう。」

「そっか…私はね…人を助けられるような人になりたいなって思ってるんだ。」

人を助けられるような人…彼女らしい言葉だった。

「雄子様ならなれます。きっと…」

「うん!ありがとう!」


ー数分後ー


「いやー参った。」

「随分と遅かったではありませんか。」

「お手洗いが混んでたんですぅ!!」

ほんとだよ…マジで都会のトイレ恐るべし。

ドゴォォォォン!!!

「お、出たか。」

遠くで爆発音のようなものが聞こえた。間違いなく魔獣の仕業だろう。

「何?今の音…」

「異変が起きたんだ。俺達の世界に住む魔獣が暴れだしたんだ。」

路地裏を抜け出し、表に出てみるとやはり魔獣が道路を走って暴れている。

「牛型魔獣の「トーギ」か。しかも今回のはちょいとデカイぞ。」

「ブモォォォォォ!!!」

見るからに牛のような頑強な体に20mはあろう巨大さ…これがトーギの恐るべきところ…

「雄子、君は下がって!!」

「でもそれじゃ…ラルスくんが…!」

「元々こいつは俺達の獲物だ。大丈夫…また会いにきてやるから。」

「分かった…絶対だよ!」

雄子は俺達の後方へ逃げ、姿を消した。

「クロウ。」

「分かってます。」

シュン…

クロウを長刀に変化させ、戦闘を始める。今回の相手は一筋縄じゃいかないだろう。

「うりゃ!」

ジャキッ!

「モォォォォォォ!!!」

トーギの皮膚は硬く、刀の刃が通らない…むしろこっちが折れそうだ。

「どうする?皮膚が硬くて刃が通らないぞ。」

『短刀で素早く切り刻めば本体に多少のダメージは通るでしょう。』

「オッケー。」

シュン…

長刀から短刀に切り替え逆手に持つ。小振りの刀だが、その分強靭な固さを持つ刃と攻撃と回避の両立が出来る。

「せいっ!!」

ジャキッジャキッ!!

「確かにダメージは入ってるな。このまま攻めるぞ!」



「あれが「異変を起こす者」…ラルス・マーセル…」

「ええ、そのようですね。」



「ブモォォォォォ!!!」

トーギが巨体を生かした突進を繰り出してくるが、身軽なためか安易に避ける。

「どうした?そんなんじゃ当たらねぇぞ!」

再び突進を繰り出してくると思ったその時…

ブシャア!!

「グモォォォォーーー!!!」

「何だ!?」

硬い皮膚を持つトーギが一瞬でやられた!?背中からバックリやられてる…一体誰が!?

「見つけたぞ…異変を起こす者め!!」

トーギの背中から飛び降りたのは屈強な体に大剣を担いだ男だった。その男は確かに今、俺のことを「異変を起こす者」って言っていた……

「お前…誰だ…!?」

「俺はドメイク・アバロスタ!!ラルス・マーセル…お前を始末しに来た!!」

「なっ…」

何だ…このドメイクという男から溢れ出るものは…?今までで感じたことのないものだ…

「待ってくれ、俺は異変を起こしたりなんかしていな…」

「問答無用ッ!!!」

ガキン!!

何て腕の力だ…くそ……このままじゃ短刀が折れてクロウにダメージが!!

シュン…

「う…らァ!!」

何とか長刀に切り替えて退けた…ただ、次にこられるとさっきの反動で腕が持たない…!

「世界をめぐる者がその程度とはな…失望した!!今ここでお前を始末する!!」

大剣を振りかざしてこちらに向かって来る…もう腕を上げられない…俺の一族はここで終わるのか…?


「ラルス様!!」


目を開けると目の前にクロウがいた。大の字になって大剣を目の前に制止している…

「ラルス様には…指一本触れさせはしません…」

「お前に用はない。失せろ。」

ドゴォ!!

「ぐはっ……!!」

「クローーーーーウ!!!」

クロウが腹に豪腕を食らい俺の元へと倒れこむ。とっさに元の世界の扉を開き、俺は気を失ったクロウを抱えて間一髪逃げ込んだ…



シュン…

「あらあら…取り逃がしてしまいましたね…」

「これで良い。行くぞ、マクシム。」

「はい、仰せのままに。」



ーラルスの家ー


「んっ…」

「良かった!目が覚めたか!」

「元の世界へ戻れたのですね…」

俺はあの後、自分のベッドにクロウを寝かせていた。何せ気を失っていたからいつ目が覚めるか分からなかったため、横で見張っていた。

「ありがとうクロウ…お前がいなかったら俺はあそこで確実にやられてた…」

「いえ…お礼を言うのは私です。私の身勝手な行動で私が気を失ってしまったがためにラルス様の重荷になってしまって…」

クロウのあの言葉が脳内で再生される…やっぱりクロウは表ではそうに見えなくても中身は凄い優しいやつなんだなって改めて思った。



『ラルス様には…指一本触れさせはしません…』



「なぁクロウ…俺達強くなろう。」

「はい…?」

「強くなって奴(ドメイク)に勝つ。今日みたいなことは二度と起こしたくないからな…」

「…了解しました。」

今日という日から目を背けてはいけない。いずれまた奴とは会う気がする。近い内に……


「また食べたいな…あの店の味。」


続く。



次回のロスト・メモリーズは

「今日は飯抜いた方が良いぞ…」

「何故です?」


「ここに大食いの天使がいるって聞いたんだが…」

「この世界は天使と悪魔と人間が共存しているのですね。」


「ほんと良く食べるな…」

「食べたい時に食べる!それが私の幸せ!」


次回「天使と悪魔と人間の世界」


「共存ねぇ…面白いな。」




※追加キャラ紹介

・ドメイク・アバロスタ

性別 男性

年齢 10代後半

好きなもの ???

ラルス達の前に突如現れた青年。屈強な体格で自分にも他者にも厳しい性格。ラルスのことを「異変を起こす者」と呼んでいるが、真意は不明。ラルスと同様に様々な世界に行ける能力を持つ。自身に仕える武器人間はマクシム。

戦闘スタイルは大剣に変化したマクシムを使ったパワータイプの攻撃が得意。体術も会得してるため、武器だけに頼らない肉弾戦も得意とする。



・マクシム

性別 女性

年齢 20代前半(?)

好きなもの ???

聖母のような外見で、長く薄い金髪が特徴のドメイクに仕える武器人間の女性。目を閉じ常にニコニコ笑顔を浮かべているが、それが逆に不気味で素性が読めない。それ以外の経歴などは一切不明。現状なれる武器は大剣のみ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る