第44話 作戦前の息抜き?

ーー王都 スクトゥム区ーー


 時刻は、丁度太陽(?)が真上に来たところ。


「……すごい人がいるな……」


 俺、柏沢蓮斗は店が沢山並ぶ道を歩いていた。ここーー王都のスクトゥム区は王都の中心部から少し外れた場所に位置し、商業が盛んな事で有名だ。立ち並ぶ店の中には、食堂や出店、本屋等実に様々な種類がある。その中の内俺は、武器屋の前に立ち止まった。看板には異世界語で"フォーラン"と書かれていた。この世界に来てから不思議なことに、異世界の文字を見ただけで日本語に勝手に脳内で変換されたり、逆に日本語を話そうとすれば、勝手に異世界語に変換されるのだ。これはスキルにも表示されていなかったものなのできっとどうしようもないんだろう。日本語で内緒話をしようにも脳内で勝手に日本語で変換されるのでは確かめようもない。


 蓮斗はその店のドアを開け、中に入る。


「いらっしゃ~い」


 店の中から女性らしき声が聞こえた。多分、この店の店主だろう。その女性は二十代位でおっとりとした印象の強い女性だった。


「すいません、ここに何かいい武器って無いですかね?」


「どんな武器がいいの?」


「短剣で……できれば折れにくい方が良いです」


「分かった。ちょっと待っててね~」


 そう言うと女性は、色々な武器が並んでいるなかで短剣が並べられているところに向かう。


 何故蓮斗が短剣を買うのか。それは、端的に言えば護身用、更に自分の実力を隠しておきたい場面等で使う為だ。いずれギルドにも登録したいと蓮斗は思っている。理由は主に金稼ぎと言ったところだろうか。まあ、後は単純に依頼を受けてみたいからだったりするのだが。蓮斗自身剣には多少腕に覚えがあるので実力を隠したりする際に最適。そう言うわけでここに来てみたのだ。


「これなんかどう?」


 女性がそう言って持ってきたのは緑色の短剣。蓮斗はそれを手に取り、感触を確かめる。


「これ、振ってみても良いですか?」


「どうぞ~」


 そう言うと女性は蓮斗から少し離れる。蓮斗は女性が離れたのを確認すると早速短剣を試し振りする。まずは横に薙ぎ払うようにして振る。その後は縦に。それを何回か繰り返す。


「……これ、いくらぐらいですか?」


「ああ~。それね、結構前から買い手がつかなくてもうそろそろ処分しちゃおうかと思ってたものなんだ。だから……特別大サービス! 銀貨一枚でどう?」


 女性はおっとりしたイメージに合わないウィンクをしながらそう言ってきた。今蓮斗の手持ちは金貨二枚に銀貨五枚、銅貨が十四枚。銀貨一枚の出費等大したこと無い。と言うか、大サービスといっても安すぎるのだ。金貨の価値は日本円で約10万円、銀貨の価値は約1万円、銅貨の価値が約2000円くらい。その上に白金貨があるが、その価値は日本円で約100万円だ。銀貨一枚でこの緑色の剣が買えるなら大分お得なのだ。それに短剣を振ってみた感触はとてもいい。よく手に馴染むし、それに軽い。文句なしの逸品だ。


「分かりました。買います」


 故に蓮斗は即決でその短剣を買うと言って、ポケットから金が入っている小袋を取り出し、その中から銀貨一枚を取り出して女性の前に置く。


「はい。確かに銀貨一枚を受け取ったよ」


 女性はそう言いながら銀貨を受け取る。


「因みになんですけど……この緑色の短剣、何で今まで買い手がつかなかったんですか?」


 蓮斗は興味本位にそう尋ねる。何故買い手がつかなかったのかとても気になったからだ。これ程良い短剣なら直ぐに買い手がついてもおかしくないのだ。でも何故か売れていない。その理由が知りたかったのだ。


「う~ん……多分だけど値段が高すぎたからじゃないのかなあ?」


「因みに……どのくらいの値段なんですか?」


「う~ん……。確か金貨6枚くらいだったかな……?」


 たっか!? 金貨6枚!? ……て言うことは大体日本円で約60万円くらいだよな……? そりゃあ買い手もなかなかつかない訳だ。しかし、それを銀貨一枚まで値下げしてくれるとは……。この店のサービスは太っ腹すぎやしないだろうか。


「金貨6枚ですか……。成る程、それで買い手がつかなかったんですね……」


「うちの店主・・にもほとほと困ったものだよ~。何せ突然次の日に店をとび出して行ったと思ったら何日か経って帰ってきて、"おい! 掘り出し物を見つけたぞ!" とか言って帰ってくるんだからね~。おまけに値段は高く設定して、"これなら売れる!"とか言うしね~」


 女性は苦笑いしながらそんなことを蓮斗に話す。蓮斗も、それは大変ですねと言って苦笑いを返した。と蓮斗はここでちょっとした違和感に気づく。


「……店主ってあなたじゃなかったんですか?」


 そう。蓮斗はこの女性を店主だと勘違いしていたのだ。店の中に女性以外誰もいなかったことでそう思い込んでしまったのだ。


「いやいや~、違うよ。ここの店主は"ウルサ"って言って、この区でも有名な冒険者として活躍してるよ~。今は丁度ダンジョンにでも潜ってるんじゃないかな~?」


 ウルサ、か。聞いたことの無い名前だな……。ここ最近ゆっくりする暇もなかったから、ここら辺についてはあまり知らないしな。まあ、そこら辺はギルドに入ってからでも遅くはないか……。


「そうなんですか。是非とも一度お会いしてみたいものですね」


「まあ、次いつ店に帰って来るか分からないしね~。そこら辺は運任せかな~?」


「そうですね……」


 蓮斗はそろそろ時間的に話を切り上げた方がいいかと判断する。作戦・・の実行は今日の夜中。宿に帰ってから下準備やらなにやらが待っているのだ。


「すいません、俺はこれで」


「ああ~。ごめんね、引き留めちゃって。私って話し出すと長いから……」


「いえ。貴重な話も聞けましたし、ありがとうございました」


 蓮斗はそう言いながら"フォーラン"を後にした。




 






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