第43話 一方、ザティック盗賊団はーー。
時は、蓮斗がザティック盗賊団の一味を始末した後まで遡るーー。
「た、大変です! お頭!」
一人の黒い装束を身に付けた男がザティック盗賊団の頭ーーレイブン=ビザークの元へそう叫びながら息を切らして走ってきた。レイブンはそれを見て何事かと思い、黒装束の男ーーコルヴス=アクイラに尋ねる。
「……何があったんだ?」
「そ、それが……」
コルヴスは、アウリガを中心とした5人組がやられたこと、その経緯、その5人組をいともあっさりと倒した旅人を名乗る青年の事などを話した。アウリガとはデブの男の名前であり、あの5人組のリーダーだった男の事だ。それを聞いたレイヴンは険しそうな顔で言葉を継ぐ。
「……そうか、アウリガ達を……。それで、他には?」
「あ、あと、アウリガが俺達の拠点をあの青年に吐きました……! 近いうちにここに攻めてこられてもおかしくない状況です……!」
レイヴンはコルヴスの言葉を聞くと、ギリッと苛立たしげに歯ぎしりをした。この鉱山ーーグライシアス鉱山は、レイヴンが商業ギルドの一つーーヒドルス商会と何度も交渉した末にようやく手に入れた拠点なのだ。グライシアス鉱山を拠点とする代わりに、毎月取れた鉱石類の三割を謙譲することと、ザティック盗賊団が連れてきた奴隷の一部の謙譲の二つの条件がヒドルス商会から出された。それでザティック盗賊団の悪事を見逃してくれるのなら安いものだったのだ。だが、その青年とやらがここに攻め込んでくればザティック盗賊団など一瞬で壊滅するだろう。あくまで、
「……コルヴス。奴隷の数は?」
「およそ70程度かと」
(……。70か……。その数の奴隷など連れて拠点を変えれば明らかに不審に思われる。第一拠点が無い上、奴隷が言うことを聞くわけが無い。一応奴隷の首輪は着けさせているが……。効果の無い奴も中に数人いたはず……)
レイヴンは、奴隷を連れ出して拠点を移す事を真っ先に考えたもののすぐに却下した。各領地は商業ギルドや冒険者ギルドなどによって管理されており、そこから月に一度冒険者や調査隊が派遣される。拠点を変えたところで、それを誤魔化す事が出来ないのだ。
「……ふむ……。拠点をもう一つ確保しとけば良かったんだが……。生憎拠点は1つしかない。……コルヴス。拠点は変えずに、その青年とやらを
レイヴンがそう言うと、コルヴスは驚いたように目を見開く。
「い、いや……。あの青年を迎え撃つって言ってもどうやって……!?」
コルヴスは絶対に不可能だとでも言うように狼狽えながらそう言う。
「……奴隷を囮に使えばいい」
レイヴンのこの言葉を、コルヴスはあまり理解できず首を首を傾げる。
「……? それはどういう事ですか……?」
「つまり、奴隷の配置を変えて俺達はその近くにバレないように潜伏するんだ。その青年とやらが奴隷を解放しようとした瞬間をつけば……」
「殺れる……と?」
「そういうことだ」
レイヴンは自信ありげにそう言い放つ。レイヴンもザティック盗賊団の頭だけあって潜伏能力においてはザティック盗賊団の中では一番を誇る。レイヴンの
「で、ですが……。あの青年はヴァンの潜伏技術も易々と見破っています……。お頭は平気かもしれませんが、我々の潜伏能力では足手まといになるだけかと……」
ヴァンはザティック盗賊団ではトップクラスの潜伏能力であり、それを見破った青年を相手に気づかれないように潜伏するのはコルヴス達のような平凡な潜伏技術ではほぼ不可能である。だが、レイヴンには考えがあった。
「……そこは大丈夫だ。策はある」
「……その策というのは?」
「まず、奴隷を囮にする。そこは変わらない。その奴隷の近くにお前らが潜伏するんだ。多分その青年とやらはお前らに間違いなく気づくはずだ。その近くには当然俺も潜伏している。その青年に気づかれたらお前らは潜伏を解け。俺は潜伏を解かず、その青年の隙を狙う」
「……ということは、我々はその間青年を引き付ければいいと……?」
コルヴスがレイヴンにそう言うと、レイヴンは頷き肯定の意を示す。
「ああ。お前らに少々危険が及ぶが……。いけるか?」
「……わかりました。青年を引き付ける役目、承ります。他の者もこの作戦に参加するよう呼び掛けて来ます」
「ああ、頼んだぞ」
こうして、ザティック盗賊団は青年ーー蓮斗がグライシアス鉱山を攻めてくることを予測し、作戦を立てたのだった。
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