第45話 蓮斗・秀治 VS ザティック盗賊団 ー1
「……秀治、準備はいいか?」
蓮斗は秀治にそう問いかける。
「ああ。いつでも大丈夫だ」
秀治は蓮斗の問いかけに対し、緊張の欠片も無い様子で答える。
今の時刻は深夜に差し掛かろうかというくらいの所。蓮斗、秀治はザティック盗賊団の拠点であるグライシアス鉱山の近くにいる。昨日と今日で綿密に計画を立て、抜けてるところがないか確認したり、それを何回も反復したりした。抜かりはない。ただ、想定外の事態が起こることだって当然ある。そういった事にも慌てず対処出来ればこの計画は成功するはずだ……と思いたい。
というのも、そもそもこの計画は不確定要素が多すぎる。つまり、想定外の事態が起こる確率の方が圧倒的に高いということだ。ザティック盗賊団という名前以外は何もわかっていない。無謀に近いともいえる。いわば愚行というものに近いのかもしれない。ならば何故こんなことをするのか。それは蓮斗自身、ザティック盗賊団に奴隷として捉えられた人々を一刻でも早く助けたいからだ。時間が経てば経つほど奴隷として商業ギルドに送られる人々が増えてしまう。そういった人々を減らしたい。その為にこのような真似までして、グライシアス鉱山にやって来たのだ。
「あそこが奴等の拠点か……」
蓮斗はそう呟きながら、ザティック盗賊団の拠点ーーグライシアス鉱山を秀治と共に木の陰から見やる。
「何か妙だな……」
秀治が訝しげな顔をしながらそう呟く。
「……どこがだ?」
「奴等の本拠地の近くだっていうのに、まるで人の気配がほとんど感じられない。……もう既にもぬけの殻なのか?」
そう。何故かグライシアス鉱山の方から人の気配が全くしないのだ。
「秀治。一旦確認してこないか?」
蓮斗が特に気負った様子もなく秀治にそう提案する。秀治は蓮斗のその言葉に暫く考え込んでいたが、ここで立ち止まっていても仕方がないと思い、蓮斗の提案を承諾する。
「……そうだな。そうしよう」
蓮斗はその言葉を聞くと、じゃあ行くか、と言ってグライシアス鉱山の入り口に近づいていく。その後ろには当然秀治がついてきている。
「"
蓮斗は気配察知の魔法を使い、辺りを警戒しながら進んでいく。今、蓮斗の気配察知には
「秀治。グライシアス鉱山の入り口付近、それに結構奥の方にも人の気配がある。……奴隷か盗賊かはわからないけど……気を付けた方がいい」
「……了解だ」
秀治は自分の無力さを痛感したが、今はそんな場合じゃないと気を引き閉め直す。相手は本気で自分達を殺しに来るのだ。気を抜いていたらあっという間にやられてしまう。まさに一瞬の油断が命取りとなるのだ。
蓮斗と秀治はやがて、グライシアス鉱山の入り口までたどり着く。するとーーー。
「…………!」
気配が複数動いた。俺達を取り囲むように。
「秀治。気を付けろ。周りにいるぞ」
「分かった」
多分潜伏能力の類いだろう。周囲には身を潜めるための岩やらがたくさんある。そこに隠れているんだろう。ある意味、盗賊団の拠点としては最適な場所のように思える。だが、そんな小細工をしたところで、蓮斗には全く通用しないのだ。
通常、気配察知というのは相手の存在感みたいなものしか感知できない。つまり、相手の体温や息づかい、足跡までは感知できない。だが、蓮斗の"
「……いるんだろ? 出てこいよ」
蓮斗は周りに潜んでいるザティック盗賊団の一味にそう声を発する。すると観念したように、岩陰から姿を現す複数の男たち。やはり黒装束に身を包んでいる。人数的に6、7人くらいだろうか。
「ちっ……。ばれてたか……」
一人のがさつそうな男が忌々しげに吐き捨てるようにそう言う。
「……まあいい。お前らがここに侵入するってんなら容赦はしねえ。立ち去るなら今のうちだぜ?」
がさつそうな男は蓮斗達を挑発するようにそう言う。
「……生憎とここで立ち去る気はない」
蓮斗はがさつそうな男の言葉に強い意思を持ってそう言い返す。
「……じゃあ、ここで朽ち果てろ!」
その言葉を合図に盗賊達が一気に蓮斗と秀治に襲いかかる。
「秀治! 後ろの三人は任せた!」
「了解」
蓮斗はそう言うと、腰に掛けてある鞘から短剣を抜き、襲いかかって来る盗賊達と対峙する。盗賊達が四方向から短剣で蓮斗を切りつけようとするがーー。次の瞬間、四人の盗賊達は気を失ったように倒れた。
「……随分あっさり終わったな……。もう少し苦戦するものかと思っていたが……」
何故、四人の盗賊達が一斉に気絶したのか。それは蓮斗が短剣で攻撃したからに他ならない。
まず、前方から迫ってきた盗賊の鳩尾を短剣の柄の部分で打ち付け、右から襲ってきた二人目の盗賊は蹴りで的確に鳩尾を蹴り、左から迫ってきた三人目の盗賊の短剣をいなし、短剣で腹部を切りつけ、後方から襲ってきた四人目の盗賊は短剣の柄の部分でやはり鳩尾を狙い、気絶させたのだ。これが一瞬で出来たのは一重に蓮斗のチートじみたステータスがあってこそだ。
蓮斗自身、あまり血を見るのが好きではない。特に、少女を盗賊から助け出そうとしたときに感情的になってやらかした時が一番やばかった。
今回はその時の反省も踏まえ、血も最小限で済ませている。
「さてと……。秀治の方はどうかな……」
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