第30話 宿に帰る。そして、川崎への想い。 ー2
コンコン
俺は、川崎の部屋のドアを軽く叩く。
「はーい」
部屋の中から川崎の声が聞こえ、暫くして扉が開かれた。部屋の中からは当然川崎が出てくる。川崎は俺を中へ招きいれるとドアを閉め、
俺はそんな自問自答をしながら川崎についていく。
「……蓮斗くん。ここ座って?」
川崎はそう言いながらベッドに座り、隣をポンポンと叩く。俺も分かった、と小さな声で言い川崎の隣へ腰を下ろす。
「蓮斗くん、お疲れ。保安ギルド?だっけ。どうだった?」
川崎は当たり障りのない話題から入る。多分緊張しているのだろう。まあ、それも無理ないか。何せ俺も緊張しているからな。俺もその方がありがたい。
「ああ、日本にいた時の警察署とほとんど変わらなかったよ。内装とかは勿論違うけどな。色々と聞かれたよ」
「そっか……。大変だったね。お疲れ様」
川崎が優しく微笑み返してくれる。それだけで今日の疲れが吹っ飛んでいってしまった。それくらい魅力的で包容力のある笑顔だったのだ。俺は、覚悟を決めて川崎に対して言葉を紡ぐ。
「か、川崎。この前の返事なんだけど……」
瞬間、場の空気が緊張に包まれた。蓮斗も川崎もゴクリと息を飲む。
「これを受け取ってほしい」
蓮斗がそう言いながら差し出したのは小さい四角形型の箱だった。
「…………?」
川崎は戸惑いながらもその箱を受け取る。
「……開けてみてくれ」
蓮斗にそう言われた川崎はその箱を開けようとする。しかし、その瞬間脈を打つスピードが速くなっていく。一体何が入っているんだろう? 大丈夫かな? そんな不安な感情が胸の内をめぐる。
私はここまで、異世界転移する前も含めてたくさんの男子に告白を受けたが全て断って来た。全てはこの瞬間のために。
異世界転移する前はなかなか踏ん切りがつかずそうこうしている内に一年が経ち、二年生の6月くらいに突然異世界召喚されたのだ。蓮斗くんがいつ死ぬかわからない。もしそんな事があったら私の想いは一生伝えることの出来ないまま宙をさまようことになる。そんな気持ちから色々アプローチを重ねてきて今に至る。その答えが蓮斗くんから受け取った箱にはいっているということだろう。そう思えば自然と脈を打つスピードが速くなるのは仕方のないことだと思う。
川崎は箱を開ける前に何回も深呼吸をして時には躊躇したりしたが遂にその箱を開けた。
「…………!!」
その箱の中身を見た瞬間、川崎は涙を流した。悲しかったからではない。嬉しかったからだ。箱の中身は指輪であり、正確に言えば、装備の一種でもある。
「……こんな俺でも良ければ付き合って下さい」
俺は川崎に対してはっきりと返事を告げた。
「……こ、こちらこそ不束ものですが、宜しくお願いします……」
川崎は嬉し涙で顔がちょっと濡れながらも蓮斗の言葉に答えた。二人とも緊張からか、慣れない敬語を使ったり言葉がつっかえつっかえだったりしたが、今の二人にとっては些細なものでしかなかった。今の二人は幸福感で満たされており、自然と手を繋いでいたりしたがそれもあまり気にならなかった。
そこで、何かに気づいた蓮斗があ、と声をあげる。
「……川崎、その指輪なんだけど……。レベルの上限を一つ上げてくれる能力もあるんだ」
蓮斗は川崎に伝え忘れていたことを言った。まあ、この場面で言うことでもないだろうけど……と小声で呟く蓮斗。
「いや、そんなことないよ……! うん……。うん……! ありがとう蓮斗くん!」
川崎は蓮斗の小声で呟いた事までしっかり聞いた上で感謝の言葉を返す。蓮斗も照れ隠しに苦笑いを浮かべた。
「れ、蓮斗くん……。今つけてもいい?」
「お、おう。それはもう川崎のだしな。自由にしていいよ」
蓮斗にそう言われ、嬉しそうに指輪を付ける川崎。その指輪は銀色の輝きを放っており、川崎が付けるとその輝きが更に増したような気がした。
「ど、どうかな……」
川崎は照れたような笑いを浮かべながら蓮斗にそう聞く。
「……似合ってると思うよ」
「えへへ……。ありがと」
蓮斗も川崎も互いを見て幸せそうに笑った。蓮斗はふと今までの出来事が再び脳裏に浮かんだ。死かけた場面が多々あり、よく今まで無事に生きてこれたなと改めて思う。生きてなかったら今この光景が生まれることは無かったかもしれない。そう言った意味では少しウェスタに感謝しても良いかもしれないな。
俺は幸せを噛み締めると共にこれからの日々がより一層楽しくなるよう祈るのだった。
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