第29話 宿に帰る。そして、川崎への想い。 ー1

 蓮斗、秀治は保安ギルドからクラスの皆が止まっている宿へ行き、あてがわれた部屋へと向かった。宿は木造建築で、中も質素な造りになっていた。

 蓮斗は部屋の窓を開ける。すると、薄暗い景色が視界に入った。

(はあ……。やっと終わったな……)

 蓮斗は今までの出来事を頭に思い浮かべ、溜め息をつきながら苦笑いを浮かべる。洗脳されたクラスメイトに追われ、川崎や秀治と作戦を考えたり、魔法で洗脳された王女を助けたり、ラーニャ石を破壊したりと実に様々な事があった。精神的にも体力的にも限界だったし、出来れば二度とあんな事が起こらないで欲しいと蓮斗は思っている。

(……だけど、他国と敵対してる限りそう簡単にいかないよな……。国王陛下だって何処に逃げたかわからずじまいだ。この先、何が起きるか不安で仕方ない……)

 蓮斗は今の現状を思いだし、盛大に溜め息をついた。七年前に国王陛下が獣人族の国"シランドゥ"を制圧しようとして失敗した。シランドゥに攻め込んだせいで、今まで保たれていた均衡が崩壊し、ガルンは他国から敵視されるようになってしまったのだ。……これじゃ、ガルンから他の国に行くことが出来ないしその逆もまた然りだろう。はぁ……。いきたい国とかあったんだけどなぁ……。行くためにはまず現状を解決しなければならないだろう。でも、俺一人で動いても現状なんぞ何一つ変わりはしない。俺にないのかなぁ、現状を打破できるスキル。

 俺はそんなことを思いながらふと、ステータス確認する。

柏沢蓮斗 Lv.20 職業:生成魔術師


生命力     53070

魔力      55690

魔法展開速度  56570

魔法耐性    60040

想像力     60040

スピード    52030

攻撃力     56060

防御力     52700


スキル

魔法生成(+魔法式省略)(+威力維持)、無詠唱、全属性耐性(+反射)、気配遮断、気配察知、変幻自在(+能力値底上げ1.2倍)、身体強化、炎透眼、成長促進


 おっ。成長促進が加わってるな。まあ、残念な事にすごい能力はなかった。それでも、この成長促進とかいうスキルはすごいと思う。Lv.20になったからかな? ……考えても答えは出ないよな。うん、深く考えないことにしよう。今は素直にこのスキルが手に入った事を喜ぼう。それにしても……。炎透眼、役立たなすぎだろ。使う場面なんかほとんど無かったぞ。

(……そんなことないのじゃ……)

「うぉ!?」

 俺は頭の中に響いた声にびびったと同時にとても聞き覚えのある声だと思った。

「……その声はもしかしなくてもウェスタか?」

(そうじゃ。妾こそ#あのスキル__・__#を与えたウェスタじゃ)

「う……。わ、悪かったよ。役立たずとか言って」

(い、いや……。役立たずだったのは事実だったしの……。こちらもむきになってすまなかったのじゃ……。あと、お主。声を出さずとも良いのじゃぞ。お主には妾特製の念話石を渡したはずじゃ。それに……。声を出して喋ってると、はたから見て独り言を呟いているようにしか見えんじゃろ? )

 ウェスタが蓮斗の世間体(?)を心配してそう言うが、当の本人は、

(…………念話石って何だ?)

こんな調子だった。

(うう……。妾は確かに渡した筈じゃ!! お主の首にネックレスみたいなのがかかっておるじゃろ!?)

 ウェスタは少し涙声になりながら、蓮斗にそう言った。蓮斗は自分の首もと回りを確かめるように手を動かす。すると、確かに硬い石のような感触があった。多分これがウェスタの言う念話石なのだろう。

(……確かにあったぞ……。硬い感触の石が。視界に入らない位の所にあったから多分忘れてたんだと思う。ごめん、ウェスタ)

 蓮斗は申し訳なさそうにウェスタにそう言う。

(わ、わかれば良いのじゃ。して、お主よ。妾はそろそろ寝るのじゃ。この先も何が起こるかわからんからな。油断は大敵じゃぞ)

(おうっ。てか、女神もちゃんと寝るんだな……)

 蓮斗の頭の中では、女神様は不眠不休で働くものかと思っていたので、寝る、という言葉を聞いた瞬間少し驚いた。

(む……? どうかしたのか?)

(あ、いや。女神も寝るんだなって思ってさ)

(いくら女神と言えど寝ないやつなどおらんのじゃ!! そんなやつはある意味化け物じゃ!!)

 女神なのに化け物とか言っちゃったよ。俺だって三徹ぐらい余裕だったんだぞ? 本当だからな? 決して哀れな奴ではないからな?

(まあ、ウェスタ。その……お休み)

(お休みなのじゃ)

 ウェスタがそう言い念話が終了する。俺も寝ようかなとベッドに倒れこもうとしたがふと、大事な用件があることを思い出した。

(川崎への返事か……。返事はもう既に決まっている……。後は勇気を振り絞るだけだな……)

 蓮斗はそう思いながら、川崎のいる部屋へと向かうのだった。





      

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