第10話 帰還。そして、宿での出来事。
俺たちは、騎士団員、レギーロ騎士団団長、クラスメイトと共に高峰達が借りたという宿屋に来ていた。俺達は手続きを早速済ませておのおのあてがわれた部屋で休んでいる最中だった。
俺は部屋で休みながら昨日、今日の出来事を振り返り、改めて大変だったことを実感していた。
2体の巨大な死神みたいな化け物との死闘を制した後、俺は意識を失い倒れてしまった。意識が回復したのは今日の朝……。多分皆がアリスレナ大迷宮に着いた頃ぐらいだったと思う。俺は意識を取り戻した後すぐさま騎士団員やレギーロ騎士団団長が2体の巨大な死神みたいな化け物の攻撃を喰らって瀕死の状態になっていたことを思い出し、レギーロ騎士団団長と騎士団員達のもとへ行った。意識は失っていたものの、死んではいなかったので回復力魔法をかけて、身体の傷や魔力、疲労を回復した。クラスメイト達が俺のいる所に駆けつけて来て数分後くらいに意識を取り戻し、目を覚ましたのだった。
と、まあこんな感じで色々あってクラスの皆にも心配かけたけど何とか無事に此処に帰ってきたぜ。
俺がそんな感じで色々考えていると、
コンコン
扉を叩く音がした。俺は秀治が俺の部屋に来たのか?と思って扉を開けた。時刻は夜の九時半を回っている。
俺が扉を開けると、姿を見せたのは秀治……ではなく川崎だった。俺は予想外の人物の訪問に少し驚いたが気を持ち直して言葉を紡ぐ。
「……川崎。何か用か?」
「……お部屋の中で話したいんだけど……いいかな?」
なぜ俺の部屋の中なのか俺には少し分からなかったが、不都合が生じる訳でもないので了承の返事を返す。川崎は俺が了承の意を示すと少し頬を緩め、嬉しそうな顔をした。俺は川崎を部屋の中へ入れて扉を閉める。俺は川崎をソファーに座るように促す。川崎もそれに応じてソファーに腰かける。
「……ごめんなさい。こんなに夜遅くにお邪魔して」
「いやいや全然大丈夫だって。こっちこそ心配かけて悪かったな」
暫く沈黙が続く。川崎が何か話したそうにこちらを見ているが、なかなか切り出してこないのでこちらから切り出すことにした。
「あーっと川崎。三日前の夜さ、心が揺らめく。ってアニメ見た?」
「うん!!見た見た!特にさー凛花と雅人が互いの心を伝え合う場面が良かった!!」
「俺もそこが一番良かったと思う」
「でねでねー」
川崎は皆には隠していたが、アニメオタク、いわゆる隠れオタクというやつだ。 俺がこの事を知ったのは、高校一年生の入学してから二ヶ月後のこと。久しぶりに1人で弁当を食べるために学校の屋上に行ったとき、川崎が先にいてイヤフォンをつけてスマホの画面を凝視していたので何してるんだろうと思って、軽く覗いて見た。画面を見ると、アニメの動画だった。川崎もこちらに気づいたのか、素早くスマホを隠すようにしまい、顔に冷や汗を流していた。だが俺はそんなものは関係なく。
「なあ……今のって生徒会長の学校改革だよな!川崎も好きなのか!?」
「え……!?」
川崎は驚いていたが直後、目をキラキラさせて興奮しながら。
「うん!!私はこのアニメが好きなの!!特に生徒会長の高沢茜が先生達に立ち向かう場面がいいんだよー!」
「後は、あそこの場面とか……」
「そうそう!!」
俺達はこれをきっかけに時間を見つけてはアニメなどの話をするようになった。アニメなどの話をするときの川崎の顔は教室にいるときよりも弾けたような笑顔で、俺でも思わずドキッとした。勿論皆には秘密で、それ以外あまり接点のない俺は余り関わらないようにしていたが、川崎は積極的に関わってきていた。朝の挨拶や帰りの挨拶など多岐にわたった。
そんなわけで、異世界転生してからこの話題を川崎と話してないことをふと思いだし言ってみたのだ。本人はさっきまでの黙りが嘘のように目をキラキラさせて興奮しながら語っていた。俺は時々相槌を打ったり、あの場面がこうだったよなーと話を挟んだりして川崎とアニメの話で盛り上がっていた。暫くして話が一段落着いた。また暫くの間沈黙が続く。
その沈黙を破るように川崎が言葉を紡ぐ。
「れ、蓮斗くん……」
「……?どうした川崎」
川崎は何かを考え込むように暫く悩んでいたがやがて意を決したのか表情が少しキリッとなった。そして、川崎がソファーを立って俺の座っているソファーに腰掛け、隣に座る。そして俺の頬を両手で支えー。
チュッ
俺の唇に自分のそれを重ねた。そして一回で終わりかと思われたが、
「チュッ……んぅ…………はぁ……はぁ……ん……チュッ……」
すぐに二回目のキスをされた。今度は、さっきのものとは違い今度は舌を入れてキスしてきたのだ。俺は大分困惑し、呆然としていた。暫くしてようやく満足したのか川崎が唇を放した。俺と川崎の間には白い糸のようなものがひいていた。
「えへへ……。大好きだよ……。蓮斗君……。お、お休みなさい……」
川崎はそう言うと、嬉しそうに頬を緩めながら自分の部屋へと戻っていった。
(……川崎の唇柔らかかったなぁ……)
俺はそんなことを考えながら、そろそろ寝る時間だったのでベッドで眠りに着いた。
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