第9話 心配。そして、無事帰還。 ー2

 私達は、再びアリスレナ大迷宮に来ていた。蓮斗君のいる二十階層のボス部屋に行くためだ。私の他、勇者の高峰くんや数人の生徒達が来ている。大半の生徒はまだ立ち直れていないため、宿屋で待機している。

「皆。覚悟は出来てるか……。今から柏沢の安否を確認に二十階層のボス部屋まで潜る。……信じたくはないが、もし仮にそうだったとしても……」

「そんなことはないよ。彼は……蓮斗君は必ず生きてるよ!!」

「……そうだね。そうだと信じているよ」

 高峰くんは仲間が、クラスメイトが生きていてほしいという気持ちと、何か違う気持ちの混じったそんな複雑な表情をしていた。私は何でそんな表情をするのかわからなかったが、一刻も早く蓮斗君の所に行きたかったので考えるのを放置した。と、そこで誰かが、

「ねーねー、川崎さん。どうして柏沢くんって呼び方から蓮斗君って呼び方になってるのー?」

 私はそこでハッとなり顔が赤くなってしまった。それを見た高峰はさらに複雑そうな表情になっていたが、川崎は気づかなかった。

 そんなこんなありながらも、私達はアリスレナ大迷宮へ潜っていった。私はアリスレナ大迷宮に潜る前に、

ー待っててね。蓮斗君ー

と心の中で囁いた。



ーアリスレナ大迷宮内ー

 私達は、今現在十一階層にいる。二十階層までは後九階層も下に進まなければならない。

(……早く蓮斗君に会いたいのに~。……先は長いよ……)

 私は、今回この迷宮に潜って気づいたことがいくつかありました。

 一つ目は、魔物が前回に比べて急激に弱くなっていたこと。高速で攻撃してくる青いスライムや攻撃力の高い犬型の魔物、二つ頭のある蛇、知性のあるミニウルフなどはいなく、緑色の攻撃力も速さもない無害そうなスライムや、ただ超音波を出して攻撃をしてくる蝙蝠みたいな魔物、一つ目の一本角が生えた赤や青の小鬼みたいな魔物などばっかりであっさり倒せたので前回に比べて魔物が急激に弱くなっていることに驚きました。

 二つ目は、迷宮のトラップがやたらと多くなっていたこと。床に設置された踏みボタン式の上から矢が降ってくるトラップや、魔力に反応して炎が吹き出すトラップや、そのエリアに入った瞬間バブル爆弾が大量に発生するトラップなど様々だった。以前潜ったときはレギーロ騎士団団長がトラップの存在を逐一皆に知らせていたので数は把握していました。そのお陰で今回の迷宮に仕掛けられているトラップが増えていたことがわかりました。 勿論罠の察知能力も持っていない私達は全部引っ掛かりましたが、なんとか回避しました。十階層のボスも緑色のビッグスライムではなく、普通の大きさの犬型の魔物で攻撃も単調だったのでサクッと倒せました。

 私達はどんどん進んで行き、遂に二十階層のボス部屋に到着しました。トラップには大分悩まされましたが、どうにかここまでたどり着くことができました。

「皆……。準備はいいな……。開けるぞ……」

 高峰くんの問いかけに皆が頷きます。

 私も内心では不安に刈られ、蓮斗君が死んでいるのではないか……。などと何の確証もないのに思ってしまう。

(お願い。蓮斗君。生きてて……。私まだまだ話したいこととか蓮斗君としたいことがたくさんあるの……。お願い……)

 高峰くんは大きく息を吸ったり吐いたりしながら二十階層のボス部屋のドアに手をかけます。皆固唾を飲んで見守ります。高峰くんが覚悟を決め、思い切りボス部屋のドアを開きます。ボス部屋の中の光景が徐々に見えてきたのは……。


ー騎士団団長のレギーロや騎士団員達を回復魔法で癒す、蓮斗の姿だった。

 

 その姿を見た私はー。

「蓮斗くぅぅぅん!!!!」

 泣きながら、彼の名前を呼び彼のもとへ走っていきそして……。

彼を抱き締めた。

「良かった……!良かった……」

ああ……。蓮斗君のぬくもり……。これ癖になるかも……。蓮斗君……。

「……川崎?あ、あの……。顔を俺の服にすりすりするの……やめてくれません?あと……む、胸が当たってるよ?嫉妬の目線がすごいんだけど……」

 私は夢中で抱き締めていて蓮斗君が何を言っていたかわからなかったけど、まあ大したことじゃないと思うから大丈夫かな。

 私は満足するまで蓮斗君を抱き締め続けた。そして蓮斗君を解放した。蓮斗を抱き締める川崎を見ていた高峰は迷宮に入る前よりも更に複雑な表情をしていたが、気づいたのは蓮斗だけだった。蓮斗は、高峰が何か危ういことをしそうな雰囲気だったので今後警戒する必要があることを悟った。そのあと高峰を含めたクラスメイト達が蓮斗のもとへやってくる。

「騎士団員とレギーロ騎士団団長には回復魔法をかけておいたからあと少しで目が覚めるとおも……」

 蓮斗がそう言いかけると、

「蓮斗!!お前……!無理はするなと言ったのに……!無茶すんなよ……!」

 秀治が今にも泣き出しそうな勢いで蓮斗にそう言う。

「……わりいな。心配かけちまったな」

 蓮斗はそう言うと申し訳無さそうに顔をうつむかせた。

「……柏沢。とりあえず生きていて良かった……。皆。ここから一刻も早く脱出しよう。何が起こるかわからない」

 高峰はそう言いそそくさと踵を返してボス部屋の外へ向かっていった。

 クラスメイト達は、一様に高峰の様子を不思議がっていたが気にしていてもわからないからいいやと思考を放棄し、高峰の後に続いてボス部屋の外へ向かっていく。

「……?蓮斗君、どうしたの?」

「いや、何でもない。行こう。川崎」

「うん!!」

 私は満面の笑みを浮かべ、頷く。私は蓮斗君が生きていてくれたことに大きな喜びを噛みしめながら、蓮斗君と共にボス部屋を後にするのだった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る