第8話 心配。そして、無事帰還。 ー1
話は蓮斗が二体の巨大な死神みたいな化け物を倒す少し前に遡る。
高峰たちは、現在迷宮を出て馬車に乗って王都には戻らず近くの宿屋らしき建物で休んでいる最中だった。宿泊手続きは異世界に来てから初めてだったので、困難続きだったがなんとか済ませ、各々が自分たちの部屋で休んでいた。落ち込む人、二体の巨大な死神みたいな化け物を前にあしがすくんでしまったことに自分を情けなく思う人、戦っているクラスメイトの無事を祈る人、恐怖に怯える人など様々だった。特に秀治や春香は物凄く落ち込み、何であの時蓮斗を止められなかったか、なぜ一人で戦わせてしまったのかという後悔に苛まれていた。
春香は現在自分の部屋に引きこもり、ベッドの上に仰向けの姿勢で腕で顔を隠す形で寝転んでいた。その眼には涙が滲んでいる。
……どうしてこうなったの?蓮斗君が……どうして?
頭の中は、今頃あの巨大な死神みたいな化け物と戦っているであろう蓮斗のことで一杯だった。蓮斗は自分たちのために今戦っているのだ。あの二体の巨大な死神みたいな化け物と。まあ、蓮斗自身の理由は少し違っていたみたいだが。
……蓮斗君にもう一度会いたい。会ったらギュッて抱き締めたい。会ったら今度こそ好きですって告白した……ってなに考えてんの私!?
顔が思わず赤くなり身をクネクネさせてしまう。しかし、彼は今戦っていてここにはいない事を思い出すと、悲しみと後悔がこみ上げてくる。
……蓮斗君……。無事に帰ってきて……!
もはや手をあわせて祈るぐらいしか出来ない。もう二度と蓮斗君に会えないなんて絶対に嫌だ。蓮斗君に会えなくなったら生きている意味が無くなるかもしれないくらいには。私は……。何が何でも蓮斗君に会いたい。今すぐ会いたい。もし無事に帰ってきたら、日本にいた頃は大勢の男子に話しかけられて、何よりも蓮斗君と話すのが恥ずかしくてあまり話もできなかったけど、これからはたくさんお話したい。後悔なんて絶対にしたくない。蓮斗君のことをもっと知って、それから……。それから……!
いつしか私の心の中蓮斗君としたいこと、蓮斗君をもっと知りたいという気持ちでいっぱいになっていた。
ー蓮斗君。どうか生きていて下さいー
ー翌朝ー
結局蓮斗君は今日になっても帰ってこなかった。もしかしたら、蓮斗君はもう……。いや!諦めるのはまだはやい!昨日後悔しないと決めたんだから!
私は自分に言葉の喝をいれ、弱気な心を追い払う。
もうすぐ食事だと親友の三笠綾音と市原琴葉に呼ばれ、支度を整えて王宮の食事の間へ向かう。
食事の間に着くと、私達の他半分くらいの生徒が揃っていた。皆一様に元気のない様子で顔は俯き気味で座っていた。食事の間は長テーブル何台も設置されており、椅子が各テーブルに6脚ずつで椅子は赤色に黄色の模様が入っておりもふもふしている素材でできていて、如何にも貴族御用達といった感じだ。食事の間はとても広く、静かな雰囲気をより一層強調している。床一面には青い絨毯が敷かれている。
しばらくして生徒全員が揃った。すると勇者の高峰君が皆の前に立って、
「……皆。食事が終わったら柏沢のいるアリスレナ大迷宮の二十階層のボス部屋に行こうと思う。もちろん無理な人はここに残っていてくれ。柏沢は死んでいるかもしれないし、生きているかもしれない。もし死んでいるのを見てしまったら後悔、悲しみ、憎しみと言った感情がよりいっそう強まるかもしれない。それでも、行きたいという人がいるならこの場で名乗り出てくれ」
「はい。私は行きたい」
私はすぐに名乗り出た。
「……川崎さん。本当にいいのか?」
「うん。もう覚悟は出来てるよ」
「……そうか。わかった」
高峰くんは私の覚悟の強さを感じとり、短い返事を返して了承した。
「他に行きたい人はいないか?」
「……俺も行く」
続いて秀治も名乗りをあげた。その二人に続くように数人のクラスメイトが名乗りをあげた。他の大半クラスメイト達は、蓮斗の安否を確認するのが怖いのか名乗り出なかった。もう名乗り出る人がいないことを確認すると、
「……よし。今名乗り出たメンバーで柏沢の安否を確認しに行く。食事を食べ終わり次第宿屋の入り口前に集合しよう」
高峰くんが話したいことを話し終え、いただきますの挨拶を済ませ、席に着く。皆はそれを合図に食事を始めた。暗い雰囲気のまま食事は進んだ。私はまだアリスレナ大迷宮にいるであろう蓮斗君に向けてー。
ー蓮斗君。待っててね。今行くからー
食事が終わり、私は宿屋の入り口前に来ていた。私の他に数人のクラスメイトが集まっていた。あと二、三人のクラスメイトが集まれば出発できる。
暫くして宿屋の中から、残りのクラスメイトが姿を現した。それを確認した高峰くんが、
「皆。今から、アリスレナ大迷宮に行く。柏沢が生きていることを信じよう」
私達はその言葉に頷いた。
こうして、蓮斗を迎えに川崎達はアリスレナ大迷宮に赴くのであった。
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